2.ほんの先の未来 3
惑星に残された12人の少年少女の物語
ブライは自分の部屋で横になっていた。
既に消灯時間は過ぎているが、目は冴えている。
元々はネイチャーリゾートホテルとして建てられた建物はブライとアルテが親と共に暮らしていた場所。親が生きていた時は臨時の研究所として利用していた。今は生き残った子供たちを集めて共に暮らしているが部屋は余っているし、設備に不足はない。
そして総てをセルケトが制御しているこのホテルはどんな場所もそれぞれの部屋も適度に快適なのだが、睡眠欲というヤツは気分次第でどうにかなる訳ではない。
(昼間……というか夕方に寝てしまったからな)
ふと、寝起きに見たレミの笑顔とそれからの騒動(?)を思い出し、やるせない気持ちのような何かが頭の中を走り回る。
起き上がって頭をかきむしり……それでもする事がないのでベッドに横になる。
と、誰かがドアを叩いた。
ベッド横のボタンを押してオートロックを外し、ドアをオープンにするとアルテが寝間着姿で立っていた。長身のアルテにはサイズが合わずにへその辺りが露わになっているが、完全空調の寝室では……アルテの体調という点においては問題はないだろう。
「ブライ……寝てた?」
「なんだ。アルテか。どうし……た?」
ベッドに横になったまま声をかける。ブライとアルテは幼なじみでお互い様々なことをあまり気にしない。が、ブライには多少なりともアルテの姿形は問題はあったようで声の最後が妙な具合になってしまった。
ダイブインしている時や「戦争」直後などではいろいろと昂ぶっているから言える軽口も、いざこういう時には……臆病になってしまうのは自然の道理だとブライは自分に言い訳した。
「ううん。何でもない。何でもないんだけど……」
アルテの視線が泳ぎ……ベッド横の小物入れに辿り着いて……あるモノを手に取った。
「ブライ。耳掃除してあげるっ!」
ブライは「はい?」と疑問を口にしたかったが……どうでもいいやとアルテの申し出を受け入れた。
ベッドに腰掛けたアルテの膝にフライの頭が乗っている。ブライの視界にはベッドと反対側の壁。勉強机と机の上に乗っているパソコン。
アルテの耳掃除の手際は心地よく、ついウトウトと思考能力と視界が澱んでいく。
「……ブライ、聞こえている?」
「ん? 悪い。聞いてなかった」
「こっち終ったから頭を変えて」
ブライは「判った」と寝返りを打つ。と視界はアルテの身体。つまり腹部でへその辺り。
ついでに何処からか漂う甘酸っぱい薫りが鼻腔をくすぐる。
思わず本能とか煩悩とやらがブライの中でむくりと頭をもたげそうになる。
「……ブライ、覚えてる?」
ブライは「な、何をだ?」と声が上擦りながらも平静を装って訊き返した。
「ブライとアタシがさ。まだコロニーにいた時……あの事件のこと覚えてる?」
それは……ブライがまだ8歳の時。
アルテは7歳だった。
半年ほど違う誕生日のおかげで学年は1つ違ったが家が隣で共に一人っ子だった2人は兄妹のように過ごし、そしていつも2人は一緒に学校へと向かっていた。
「待ってよ~」
まだアルテは小さくブライの歩幅に追いついていくのがやっとだった。
コロニーの中の道は先に行くほど上に伸び、2ブロック先の学校はセンターシャフトの下の上空に見えた。
ブライは途中途中で止まっては「早く来いよ」とアルテを待った。
その時、事件が起きた。
小さな岩塊がコロニーを直撃。
コロニーのフレームが歪み、空気が漏れだした。人々は慌てて避難する。
ブロックごとに遮蔽された中で……ブライ達は取り残された。
「あの時……アタシが小さくて……転んだりしたのを助けてくれていたから……2人とも取り残されたんだよね」
アルテの声が震えている。
取り残されたブロックの中で避難ルームに辿り着き……緊急用酸素ボンベを見つけた。
本来ならば20本以上はあるはずの酸素ボンベが3本しか無く、しかも2本は使用済みのままで放置されていた。使えるのは1本だけ。
何処かの気密が壊れているらしく薄くなる空気の中で……2人は1つの酸素ボンベに接続されている吸入器を使い交互に吸った。
その1本も……最初から残量は半分ほどしかなかった。
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』などの後編となります。
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