2.ほんの先の未来 2
惑星に残された12人の少年少女の物語
それでも「以前」のように歩行困難な状態でないのは幸いと思うべきか?
「ささ。はやく晩御飯を食べに参りましょう」
その言葉でブライの腹が盛大な音を立て、不思議少女は弾けたように笑った。
「ユミ、残さないでちゃんと食べる。マユ、サラダのトマトも残さない。ユマ、ニンジンをトマに渡さない。トマ、こぼさないで」
食堂でも仕切っているのはアルテだ。
夕食は普通にカレーとサラダのありふれたメニュー。
だが、ニンジンもジャガイモもゴツゴツとデカい。いや、細切れのもある。つまりキッズ達が手伝った結果であろう。そして匂いからして味付けはキッズ向けにやたらと甘いのは確実。
どれぐらい甘いかというと「レッドペッパーはまだあったかな?」と思わず呟くほど。
「あ、ブライ。……なにその手は?」
アルテが呆れた視線をブライの腕に刺している。
「まだ血が出ていたので巻いてあげたのです」
レミが得意げに説明する。
「でもそれじゃスプーンも持てないでしょ?」
「大丈夫です。ワタシが食べさせてあげるのです」
なるほど。それが狙いだったのかと他の全員(キッズ達を除く)が納得した。
「ささ。ブライ様。こちらに座って下さいませ」
レミに促されテーブルに着いたブライの前にアルテがカレーとサラダをドンと置く。
ライスもカレールーも大盛り。ついでに置かれたサラダも大盛りだ。そして何故かブライが苦手としているスライスオニオンが特盛り状態。
「一番の功労者だから体力つけてね」
サラダにドバドバとドレッシングをかけるアルテの笑顔がどこかしら引きつって見えるのはブライの錯覚ではないはずだ。証拠にハカセを筆頭にビージー達が呆れ気味の視線で眺めている。
「はい。ブライ、レッドペッパー。あ、掴めないから……アタシがかけてあげるね」
と横に座ったラミが小瓶を振るう。が、何の拍子か小瓶の中身全部がぶちまけられた。
「あ、ゴメンね~。でも、いつもこれぐらいかけてるよね?」
ブライが無言で抗議の視線で睨むとラミはしれっとした態度で立ち上がった。
「食べ終わったから食器片付けよ~」
アルテも冷めた視線で仕切り直す。
「はいはい。全員、食べた。食べた。食べ終わったら食器は自分で片付けるのよ~」
そしてアルテは自分のカレーを食べ始めた。何故かあまり手がついていないのは……どうやら仕切るのに忙しく食べてなかったのだとブライは根拠もなく思った。
「は~い。ブライ様、あ~ん」
横に座ったレミがスプーンに山盛りにしたカレーをブライの口先に持ってくる。ついでに身体をすり寄せ……肩の下辺りに柔らかい何かの感触が……
「ブライ。だらけてないで食べたら?」
氷点下に冷めきったような視線と声でアルテが指摘する。
その声に触発されたかのようにブライは眼前のスプーンに食らいつく。ついでにスプーンに咬み付き……レミの手からスプーンを奪った。
「何なさるんですか~」
変らず甘い声でレミがブライの口からスプーンを奪おうと手を伸ばす。というか身体をすり寄せる。ブライは構わずに包帯の隙間にスプーンの柄を突き刺した。
「自分で喰うっ!」
宣言し終るとブライは大盛りカレーと大盛りサラダに食らいつき……あっという間に食い尽くした。
「喰ったから寝るっ!」
そして席を立った。
「ブライ」
アルテが低い声で呼び止めようした。
「なんだ?」
ブライは足を止めずに首だけ捻って振り返る。
「食器は自分で片付けるって、さっきアタシは言ったよね?」
引きつった笑顔のアルテの指摘にブライは足が止まった。
「いいのです。ワタシが片付けますから」
トンと軽い音を立ててレミがブライのカラになったカレー皿の上に自分のカレー皿を乗せて食べ始めた。
見れば殆ど手がついていない。
(……そうか。オレを呼びに来たから……これから食べるのか)
ブライは場の空気を乱しているのが自分だと気づき、それでも何をすべきか判らず、結果として足早に立ち去るしかなかった。
そしてシャワールームに行き、歯で包帯を外し……冷水のシャワーを浴びて全てを忘れることにした。
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』などの後編となります。
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