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15.惑星ルクソル 2

 惑星に残された12人の少年少女とアンドロイド達の物語

『テミス様、クタード星より入電。検査機械をそちらに送るのでブライ様の身体を調査してデータを返信して欲しいとのことです』

 ブライ達の身体について、様々な機関、様々な星々の科学者達や医者達が調査を依頼されている。ナノマシン自体が量産不可能だとされている現状で人間そのものがナノマシンでサイボーグしたという事実、さらに人間自体が虚数次元振動を起こし現実の次元空間で重なっているという事実が科学者達の研究心を駆り立てているようだ。

『ディアナ1。いつもの文面で返信。「調査したい場合は直接こちらに出向くこと。なお、移民船セルケトは未だ修理中。我が戦艦テミスは銀河中央政府の指令を放棄していた角により船籍の剥奪が検討されているため内蔵している空間跳躍装置、小型コスモゲートは使用不可能。ただし、そのような調査依頼は多数に及んでいるため大型コスモゲートの建設を検討中。しかし資金不足のため、資金、資材の援助を募集している。そして最も多くの援助を申し込んだ方々には優先権を検討中」とね』

 テミスはなかなか商売上手なようだ。惑星タマジを急速発展させたという経験がものをいっているのかも知れない。

 テミスはホテルのロビーからセルケトやブライ達の様子を眺めている。

 微笑みながら。

『了解しました。ですが……本当にブライ様達への調査を認められるのですか?』

『私達は「検討」するだけです。認めるかどうかは……ブライ様達の自由。私達、機械が人間の行動を制限する事自体が有り得ない。してはならないことです。気にすることではありません』

 ディアナ1は微笑んだ。

『了解しました。機械は機械としての仕事を全うします』


 皆が今、この瞬間、この時を楽しんでいる。



 吉報が届いたのは……遺跡を破壊してから1ヶ月後だった。

 銀河中央政府は移民船セルケトが動作停止したのを老朽化による一時的な状態と判断。但し再発する可能性を考え、代役として戦艦テミスの任を解き、セルケトの後任とした。

 移民船セルケト自身はディアナ25達の既に完全復旧しているが、テミスの補佐、或いはバックアップとして惑星ルクソルにそのまま存置されている。

 また遺跡が無くなったことで使命を半ば放棄していたテミスへの叱責もなかった。


 バグラン達は何処かへ飛び去っていた。

 ブライ達が遺跡と戦った時の様子に驚き、虚数次元振動の暴走が起きると怯えたのだろう。


 余談だが……

 ブライ達が7日毎に行っていた「戦争」はテミスの中、惑星往還機を数機格納できる大型格納庫に設置された巨大なジオラマだった。ブライ達とディアナ達が操縦するミニチュアロボットの視線からでは天井は霞んで見えるほどの広大な空間に設置されたジオラマでの戦い。

 戦いそのものは爆薬などは使用せず、攻撃はただのシミュレーションシステムの中での判定。

 そしてテミスに告げられた。

『ディアナ達は何故か自分達よりアナタ達のロボットのメンテナンスを優先させていました。そして着弾判定もディアナ達自身が甘く判定してました』

 その理由を尋ねるとディアナ達は笑った。

『恐れながら私達は対テロ用アンドロイドです。戦闘訓練では常に自分に厳しく判定致します。それだけのコトです。そしてやはり私達は機械だというコトです。素早い動きが必要とする状況下で動くのは自分の身体。ミニチュアロボットの操縦桿では微細な動作ができなかったのです』

 つまり……ブライ達が「戦争」に勝ち続けていたのは、単にディアナ達とロボットの動きの差異と相性、そしてディアナ達の行動規範がシステムに合わなかったがための結果だった。



 そしてセルケトの記憶は……大部分が欠損していた。

「セルケトぉ。いっぱい取れたよ」

「トマ。みんなで取ったのに自分だけの事のように自慢しないの」

「そだよ。ユマの言うとおり。そんなんじゃダメだぞ」

「そ。嫌いだからってニンジンを取らないんじゃダメだよね」

『そうですね。夕飯はニンジンも美味しく料理して食べましょうね』

 ただし、欠損していたのは過去の記憶。

 残っているのは……疫病の後。ブライ達と共に生きた時間の記憶は総て残っていた。

 ブライはそれだけで充分だと思っている。

 必要なのはこれからの時間。これからの日々の想い出。

 それだけで充分。



「ブライさんも大変だな」

 ハカセが農作業の手を休めてブライ達の様子を見て呟くと隣にいたユキが茶化した。

「あれ? どんな格好で寝ているんだろう? って羨ましがっていなかったかな?」

「そうそう。いつも一緒だからいいなって言ってたよネ?」

「そういやお風呂も一緒なのかって……なんか変な想像していたヨ?」

 ハカセも変らずユキ、マキ、アキに冷やかされている。

 ハカセが助けを求めるような視線をブライに向けるが、ブライは自分の頭に両肘を乗せているアルテと両肩から頬を突っついたりしているレミとラミの扱いだけで精一杯。

「……自分で何とかしろ」

 ブライはハカセを無視して農作業に戻った。



 惑星ルクソルの平和な日々は始まったばかりだ。



 この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』、『101人の瑠璃』などの後編となります。

 完結です。


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