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14.祈る者達 2

 惑星に残された12人の少年少女とアンドロイド達の物語


「……解った」

 ブライは呟いた。

 石の壁に鉄の鎖で束縛され……鉄の鎖がブライの喉を締め上げていたにもかかわらず、声は……放たれている。

 腕が、足が、全身が無数の鉄の鎖で石の壁に縛り付けられている。身体を千切れんばかりに締め上げている。しかし腕は何事もなかったかのように動いた。

『何が解ったというのだ? 宇宙の真理の欠片でも解ったというのかね?』

 ブライは相手を見据える。そして呟いた。

「……コギト・エルゴ・スム。我思う。故に我在り」

『ほう。古き言葉を。意味は知っているのかね?』

「……実在は物質だけではない」

『感心するな。それで? 原初のガイアの古びた哲学で何を解明しようというのかね』

 相手は嘲る。

「この場所は……ただのイメージだ」

『……それで?』

 嘲りが止まった。

「つまり、今のオレ達は……キサマが操っているナノマシン達の中にいる」

 喉に巻き付く鎖を引きちぎる。片手で。

「今この時も、オレ達のナノマシンは、オレ達のイノーガ・エレメント達はオレ達を修復し、存在させ続けている。キサマがオレ達を呑み込み、無に帰そうとしてもそれは不可能だ。だが……だからこそオマエは別の手段に出た」

 相手の表情は動かず、ただ「ほう? それで?」とだけを声にする。

「そしてオマエが……オレ達にあるイメージを植え付けて支配しようとしている」

 足を踏み出す。足を束縛する鎖が脆く引きちぎられた。

「オレ達を護っているナノマシン達を引き剥がし、自分の支配下に置こうとしている」

 全身に力を入れると……まだ縛り付けようと蠢いていた鎖が千切れて四散した。

 総ての鎖が四散して消え果てた。

「……オレ達が疫病から生き残った理由も解った」

 ブライに倣ってアルテ達も自分の縛めている鎖を引きちぎった。

「ナノマシンには意志が宿る。イノーガ・エレメントには遺志が宿るんだ。イノーガ・エレメントだけじゃない。人々を襲ったナノマシンの中には亡くなっていく人達の遺志が宿っていったんだ。ほんの僅かな数だったとしても。そんな……ナノマシンがオレ達を護っていてくれた。だからこそオレ達は生き延びた。オマエの邪悪な意志がナノマシンに宿り遺跡を象っていたように。疫病として人々を襲っていたように」

 1歩踏み出す。石の床がぐにゃりと変形し、虹色の液体に変化する。

 光の無かった石の牢獄に虹色の光が満ちていく。

 邪悪を、闇を、邪念を祓うかのように。

「オレ達を……死なせまいと、疫病から護ろうとした人々がいた。その遺志が……ナノマシンに宿り、オマエの意志に操られていたナノマシンから護ってくれていた。それが……」

 玉座へと近づいていく。1歩ずつ。足跡が炎となり燃え上がっていく。

 ブライの身体が巨大になっていく。

「この星を統べる……みんなの遺志だっ!」

 玉座に座る相手を……見下ろす。

「この星のただ1つの意志だ」

 いつの間にかブライの身体は大きくなり、玉座は小さくなっている。

 アルテも玉座を見下ろしている。

 レミもラミも玉座を見下ろしていた。

 ブライの身体から紅蓮の炎が上がる。

 レミの身体からも青藍の煌めきが、ラミの身体からは稲妻が、そしてアルテの身体からは純白の煌めきが立ち上がっている。

「意志が、イメージがナノマシンを操作する。オマエの意志よりもオレ達の意志が、オレ達を護ろうとする人達の遺志の方が強いっ!」

『黙れ、黙れっ黙れぇっ! 我は真理、我こそが叡智、人間を凌駕し、宇宙の総てを……』

 玉座毎、相手が巨大化し、ブライを見下ろそうとしていた。

「黙れぇっ!」

 ブライの怒りが炎となり……腕に宿る。

 ブライの腕が炎となった。

 アルテの腕に純白の炎が立ち上るのを感じる。

 レミの腕に青藍の炎が立ち上るのを感じる。

 ラミの腕に雷光が巻き付いているのを感じる。


 そして相手は……ただ狼狽している。巨大化できず、ブライと同じ大きさのままで狼狽していた。

「キサマは神じゃない」

 拳を握りしめる。炎が一際燃え上がる。

「キサマの名はマディア。マディア・ドゥガイア・ディモン。ただの狂信的科学者、ただの犯罪者、ただのテロリスト。そして……ただの人間だっ!」

 ブライの腕が、拳が相手の顔面に突き刺さった。紅蓮の衝撃波が玉座ごと相手を破壊した。

 アルテの拳が、レミの拳が、ラミの拳も邪悪なるモノを突き破る。

 青藍の衝撃波が、稲妻の衝撃波が、純白の衝撃波が、紅蓮の衝撃波と重なり……玉座を粉砕し、遺跡をも破壊していく。

 そして惑星ルクソルを衝撃波が響き渡った。


 遺跡は……衝撃波の中で崩れ落ちていった。

 漆黒の闇が千々に粉砕され、紅蓮の光と、純白の光りと、青藍の光りと雷鳴の輝きが漆黒の闇を呑み込み……消していった。

 暁光の光の中で……遺跡は消えていった。


『……遺跡の消失を確認』ディアナ1が冷静に告げる。

 キッズ達もビージー達も歓喜して騒いでいる。

 ディアナ1は時間を確認する。

 残り時間、僅か12秒。

『長い戦いが終りました。ブライ様達の18時間もの戦いが』

『それは間違いです。訂正を』テミスがディアナ1に指示した。

『移民船セルケトが……惑星ルクソルに辿り着いてからの長い戦いが終ったのです』

 テミスはまだ紅蓮と青藍と稲妻と純白に煌めいている惑星ルクソルを見上げた。

『そして……第1次移民から始まっていた人間達の戦いが……ブライ様達によって終ったのです』

 ディアナ1は黙って肯いていた。



 この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』、『101人の瑠璃』などの後編となります。

 次回はエピローグになります。

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