1.完全なる戦争 5
惑星に残された12人の少年少女の物語
戦争。
完全なる戦争。
全ては仮想世界の中。3Dシミュレーションの中。物理法則を完全に再現した世界。
こちらの機体が破壊されても誰も傷つくことはない。相手の機体に誰かが乗っている訳でもない。仮想空間でウォーマシンを破壊し、破壊されるだけの戦争。
まるで……ただのゲーム。
だが単なるゲームではない。
敗北して……溜め込んだポイントが無くなれば「作戦」が実行される。
惑星ルクソルの「再生」という名の壊滅作戦。
3年前。
原因不明の疫病で大人達が全て「いなく」なった。
殆どが土の下。ほんの一部は宇宙空間で待機している移民船に凍結保存されている。
幾多の医者や科学者が来て分析したが原因は不明のままだった。
原因不明の疫病が流行った植民星の運命は決まっている。
小惑星を落としたり、宇宙戦艦からの砲撃で地上の全てを焼き払う。正体不明の病原菌毎総てを焼き払うのだ。
何故か「疫病」から生き残った……ブライ達が作戦の中止をかけて戦っている。
「ふん。「再生」作戦が実行されたら……オレ達は籠の鳥だからな」
再生作戦が実行される時。
ブライ達はこの星から強制的に隔離されて……たぶん何処かのコロニーで暮らす。
完全隔離の病室で一生を過ごすことになる。
原因不明の疫病が流行った星の生存者達への当然の処置。
「だが……今のままでもこの星からは出られないんだよな。一生……」
自分の筐体を見る。
入り口の上に書かれた文字を目でなぞる。
メメント・モリ。
「死を忘れるな」という意味のラテン文字。
死は……随分と身近にあった。
呆れてしまうほどに。
ほんの僅かな間に誰も彼もが倒れていった。
惑星全土で生き残ったのは僅かに12人。しかも子どもだけ。
「オレ達は……何故、まだ生きているんだろう?」
応えるモノは誰もいない。誰も生き残っている理由を教えてはくれない。
ソファから見上げる窓の外は夕焼け。
青から朱となりそして再び青が濃くなり闇へと向かう。
その空に浮かぶ2つの『月』。
青い『月』は自分達を護っている移民船『セルケト』。そして黄色の『月』は再生作戦を実行するために銀河中央政府から派遣された宇宙戦艦『テミス』。
それらの下。
地平から天に聳える煌めく塔は……遺跡。
まるで『セルケト』と『テミス』を迎え撃つかのように天に向かって聳えている。
そんな時の狭間で……ブライは未来を見つめていた。
判りきっている、先のない未来を。
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』などの後編となります。
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