14.祈る者達 1
惑星に残された12人の少年少女とアンドロイド達の物語
14.祈る者達
……光りを感じた。
目蓋を開けると……ガラスの中にいた。
(……え?)
よく見るとガラスの筒。細長い筒の中。
隣の筒にアルテがいた。その奥の筒にラミが。そして振り返ると別の筒にレミがいる。
(ここは何処だ?)
もう一度見渡す。離れた場所にいるのは……キッズ達、ビージー達、テミスがいる。セルケトもいる。ディアナ達も。
そして何かを見て叫んでいる。黙って見つめている。声を出して拳を突き出している。
(……何を見ている?)
皆の視線の先には……巨大なスクリーン。
そこに映っているのは……遺跡。惑星ルクソル。
そして遺跡が黒い光りに包まれて……時折光る紅い光り、瞬く稲妻、青嵐の衝撃波、純白の光りが遺跡から放たれている。
(ここは……戦艦テミスの中なのか?)
ふと……脳裏に別の映像が浮かぶ。
それは移民船セルケトの中で戦っているディアナ達の姿。
『セルケトの落下が……予想を上回っていますっ!』
『原因はっ?』
『制御を失ったタンクからのガスの放出っ!』
『さっさと止めなさいっ!』
『作業ロボットが向かっていますっ!』
『空間跳躍装置の復旧はっ?』
『もう少し……っ! 装置、ナンバーF、復旧完了っ!』
『直ぐに稼働っ! 少しでも落下を食い止めるよっ!』
言いながらもチーフであるディアナ25は別の行動を覚悟していた。
(もし……もし落下が食い止められないのであれば、せめて……せめて遺跡に直撃させてやるっ! それこそが私達がこの星系に来た本来の使命。そしてセルケトの本来の渇望っ!)
部下達に指示しながらディアナ25は『その時』のためのコントロール方法を計慮し始めていた。
そんな……
セルケトの復旧作業を続けているディアナ達の動きが、通信が、思考が、総て、総て脳裏映像となっている。
全て理解できる。
全て解っている。
ブライもアルテもレミもラミも全てを理解し、全てを……感じている。
キッズ達が叫んだ。
スクリーンに映る遺跡が……黒い光りに包まれて巨大化していく。
まるで惑星ルクソルを総て包み込んでしまうかの如く、巨大になっていく。
ビージー達も叫んだ。テミスが射るように見つめている。セルケトが祈っている。ディアナ達も祈るような仕草に……
ブライは……ブライ達はお互いに見つめ合い、そして肯き合った。
(行こう。オレ達が存在すべき場所に)
(戻りましょ。戦いを続けるために)
(ワタシ達は負けないのです)
(勝つまでやめないからね)
(ああ……祈ってくれる皆のため、覚悟を決めている皆のために……必ず勝つっ!)
ふとディアナ1が……横を見た。
コンソールデスクの上に置いてあるのはガラス瓶。ブライ達から貰ってきた髪の毛が変化したセドニウム遷移体の粉末が入っているガラス瓶が置かれている。
『どうしました?』
尋ねるテミスにディアナ1はガラス瓶を指差した。
『そこに……ブライ様達の気配、というか反応を感じました』
『バカなことを。ブライ様達はいま遺跡の中で戦っています』
『……そうですね』
ディアナ1は時刻を確認しテミスに進言した。
『テミス様。そろそろ質量プラズマ砲の準備の指示を。距離が離れてしまい、全砲門が最大出力、そして誤差を最小にて攻撃するには時間がかかりますので』
『必要在りません』テミスはきっぱりと言い切った。
『宜しいのですか? 銀河中央政府からの指令を放棄するコトなりますが?』
『構いません。もし確認の通信が来ましたら「戦艦テミスは惑星ルクソルで行われている戦いを監視。生存者を救出する予定。生存者が確認されない場合にのみ、遺跡の破壊を実行する」と返信しておきなさい』
テミスの言葉にディアナ1は微笑んだ。
『了解しました。救助船の準備をしておきます』
『……アナタも信じているようね』
『ええ。機械としましては……記録が総てですから』
ディアナ1はブライ達の勝利を信じていた。
あの時。
ブライ達の腕の中に滑り込み、唇を塞いでいた時。
ディアナ1は腕から針を突出させ、腹部を突き刺そうとした。が、まるでそうなることを予め知っていたかのように、ブライの腹部は針の形に凹み変形し……針は身体に届くことはなかった。
(あのような攻撃、ブライ様自身が意識していないような状況でもナノマシン達はブライ様を護っていた。ならば……どの様な状況になろうともブライ様達は……不滅。つまりは不死身)
そして祈る仕草をする。
(願わくば……もう一度戦えますことを)
テミスはディアナ1を見つめ、スクリーンに視線を戻してから仕草を倣った。
祈る仕草を。
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』、『101人の瑠璃』などの後編となります。
途中ですが感想をお待ちしてます。