11.意外な戦い 5
惑星に残された12人の少年少女とアンドロイド達の物語
そんな事ができるのは……アルテが周囲を『操作』できる司令官の脂質を持っているからだともディアナ達は分析していた。
思えば……『戦争』ではアルテは司令官というか大将役だった。下地は『戦争』で養っていたらしい。
「結果論だが……良い実戦練習ができた。実際、ぶっつけ本番では不安だったからな。感謝している」
ブライが手を差し出す。ディアナ1は一瞬、無表情になり、そして微笑んだ。
『ええ。私も久しぶりに戦闘を堪能致しました。対テロ用アンドロイドとしての本分を確認させて戴きました』
そしてブライの手に手を重ねて握手し……不意に身を当てるように腕の中に滑り込み……
「んぐっ!」ブライの唇を塞いだ。艶やかな唇で。
ブライが意味が解らずに目蓋を瞬かせると視界の端でアルテ達も同じコトをされていた。
アルテとラミは驚きのまま。何故かレミは逆に奪っているかのような姿勢で。
「な、な、な、何なんですかっ!」
真っ赤になりながら抗議するアルテにディアナ1は肩をすくめて返答した。
『私達は原初のガイアから存在した古い型のアンドロイドです。私達の記憶には……私達の原型となった対テロ用アンドロイドはある人間に仕え、口づけを交わしたとあります。そしてその後の人間は大怪我にあっても何故か短時間で完治した……と。例えば全身骨折でも僅か数日で完治したそうです。だからコレは……』
言葉を句切りウィンクした。
『……単なる縁起担ぎです』
艶やかな唇からチロリと舌を出す。不覚にもブライは可愛いと思ってしまい、アルテ達の極寒の視線が突き刺さってしまう結果となった。
「だ、だからって……」
抗議を続けようとするアルテにビシッと人差し指を差してディアナは笑った。
『勘違いされませんように。ワタシ達の皮膚は防弾シリコン。もちろん唇も。つまりは単なる物体。グラスやストローに唇が触れても「キス」とは誰も言いませんよ?』
ディアナに煙に巻かれてアルテは感情の捌け口が無くなり……
「ブライっ! 笑い過ぎよっ!」
……ブライへの蹴りへと変えて放出した。
「なるほど。でしたら奪い返さなくてもよかったのですね」
「はい?」レミの言葉を全員が疑問形で訊き返す。
「やはり奪われたモノは奪い返そうと頑張ってしまいましたが、無意味だったというコトです。つまり……」
レミは唇に人差し指を当ててブライに囁くように言った。
「ワタシのファーストキスはまだ誰のモノでもないと言うことです」
ブライは何と言っていいか解らず、アルテとラミは総てを無視して思考を放棄していた。
『私達も安心致しました』ディアナ達は雰囲気が変り……遠くを見るような視線に変る。
『音速を超える蹴りや突きをも躱し、反撃する。しかもその身を武器に変えて。正に戦いの神の化身』
そして視線を上げ……まだ遠い遺跡を見て目を閉じた。
『皆様の御武運を祈っております』
そして全員が深々と礼をする。ブライ達も神妙な表情となり礼に応えた。
『最後に……もう一つお願いがあるのですが。あと、テミス様からのプレゼントとセルケト様からの言付けを預かっております』
頭を上げたディアナは実に晴れ晴れとした顔で『願い』と『言付け』を言葉にし、最後にプレゼントを渡した。
ディアナ達が飛び去った後で……ブライ達は怪訝な顔をしていた。
「何なの? 髪の毛が欲しいって?」
ディアナ達の最後の願いとはブライ達の頭髪を数本、それだけだった。
「よくは解らんが……たぶんテミスの指示だろう。何か思いついたんじゃないのか?」
「遺髪とか? きゃいっ。ラミ、頭を叩かないで下さいっ」
「不謹慎なことを言ったからよ。それに『遺髪』じゃなくなっていたでしょう?」
ラミが言うとおり。切られた髪の毛は入れられたガラス瓶の中で即座に結晶化し、セドニウム遷移体の粉末のような形になっていた。
「それに言付けって……何なの?」
「何だろうな? 『イメージして下さい。常に御自身の心の形を具体的に。深くイメージして下さい』って言われてもな。何が何やら」
ブライも思案投首で判断を放棄するしかない。
「それでも……何か意味があるんでしょ?」ラミも意味が解らないながらも考える。
「まあ、さっき別れた後でセルケトの記憶の中にあったのを思い出したんじゃないのか? それでディアナ達に頼んだんだろ? オレは通信を聞いてなかったからな」
ブライはテミス達の通信が聞こえるが、煩わしいので音量をほぼ0にしていたとアルテは思い出した。
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』、『101人の瑠璃』などの後編となります。
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