11.意外な戦い 1
惑星に残された12人の少年少女とアンドロイド達の物語
11.意外な戦い
『コレで私が伝えるべきコトは何もありません。ブライ様、アルテ様、レミ様、ラミ様。御武運を祈っております』
テミスに支えられたセルケトは深々と頭を下げた。年老いた婦人のようだとブライは思う。
確かにセルケトは第9次入植時からこの惑星にいる。数千万人近くまで増えたと記録にある第9次入植者達は数度の疫病で数を減らし、数十万人になった。その段階で第10次入植者を受け入れ、第11次入植者を受け入れた。そして疫病が再び猛威を振るい、数百万人にまで増えていた入植者が数十万人に。そして第12次入植者として自分達が来た。
入植するためだけではなく遺跡調査をするために。
そして再び疫病が流行り……今は12人。
その12人も8人は宇宙へ飛び立つ。
自分達、4人を残して。
ブライが決死の思いでイノーガ・エレメントを自分のモノとした後で、アルテ達も自分のラベルが貼られたガラス槽に腕を挿し入れた。
実にあっさりと。
レミが「女は度胸なのです」となんにも気にせずに無頓着のまま勢いよく突っ込んだのに比べるとラミは慎重に、アルテは恐る恐るではあったが……セルケトの簪が溶けた時の様子などを総て忘れてしまったかの度胸であった。
(まったく、オレがアレほどためらっていたのが……根性無しに思えるほどだ)
ブライは思い出して呆れた溜息を心の中で吐く。
とにかくも4人はイノーガ・エレメントを自分のモノとし、異形の姿となっている。
ブライとアルテとラミは……7日ごとに行われる戦争で使用していたウォーマシンそのままの身体に人間の頭部というサイボーグ然とした姿だったが、レミは違う。
魔女の姿になったり、違うマシンになったり、映画やドラマの主人公の姿になったり、人魚になったり、天使や悪魔、幾多の妖精、妖怪、様々な姿形に変化した後で再びホウキに乗った魔女になったりしている。
それを観てキッズ達がはしゃぎ、次々とリクエストしている。そしてレミも気ままにキッズ達のリクエストに応えていた。
「イノーガ・エレメントの性能というか能力は……おかけで解ったが……」
ブライは頭を抱える。レミのおかげで解ったイノーガ・エレメントの性能とは……
1.どんな姿にもなれる。
イメージできればエレメントを操りどんな外見にもなれる。大きさもイメージできる範囲で変えられる。小さくなる時は身体が虚数次元空間に存在し、大きくなる時は身体の周りのイノーガ・エレメントが虚数次元空間から出て実体化する……らしい。
2.空を飛べる。
というか空中に停止できる。エレメントの材料が虚数次元振動物質のおかげだろうか。短距離ならば空間跳躍ができ重力に関係なく移動できる。コレに関しては同じシステムがディアナ達の翼に実装されている。ディアナ達の動力源が小型相転移炉であり、その『燃料』がセドニウムであり、つまりは小出力の空間跳躍機構であるからだ……とセルケトとテミスに教わった。とにかくイメージができさえすればディアナ達と違い遠距離の瞬間移動(正確には虚数次元跳躍)も可能だろうとは説明されたが、瞬間移動した先が宇宙とか水中とか地中とかで身動きが取れなくなったり呼吸ができなくなったりしたら困るのでブライ達は試せないでいる。
3.物体の中を移動できる。
身体全体がエレメント、つまりは虚数次元振動物質に覆われているため虚数次元での移動が可能。ブライが床の中に消えてしまったのもこの能力が暴走した結果……らしい。
4.取り込んだ機械のシステムを再現できる。そして誰かが実現できれば他の誰もが再現できる。
無線機をイノーガ・エレメントの実体であるナノマシンが浸蝕した際にシステムを記憶し、再現できる……らしい。実際に試しにブライが浸蝕させた超次元通信機能付ヘッドホンの性能が身に付いてしまい、目の前にいるテミスと本体である宇宙戦艦テミスとの超次元通信が聞こえている。多少というかかなり煩わしいのでアルテやレミやラミはさっさとミュートにしているらしい。ブライもまたコントロールして脳内に響く音声は最小にしている。
さらにアルテが試しにとトマの玩具をであるトラクター(壊れて動かなかった)を手にして取り込んで見た所、キャタピラータイプのローラーシューズとして再現できた。
なお、トマが激しく悲しそうな顔になったので、すぐに玩具を手放した。ついでに壊れていた筈なのに動くようにもなっていた。
アルテ曰く「なんか軸の幾つかが歪んでいただけだから直しておいただけよ」とのこと。
キッズ達がならばと壊れた玩具をアルテに押しつけようとした所で、テミスに制止させられて若干不機嫌気味となった事は無意味な余談。
5.傷などが簡単に修復される。
イノーガ・エレメントは虚数次元振動物質で構成されており、常に虚数次元に自身のコピーを置くことにより、現実世界(実数次元)の構成を修復する。つまりイノーガ・エレメントを取り込んだブライ達は事実上の不死身と成っている。……らしい。
6 様々なモノを放出できる。というか影響を与えられる。
レミが腕をガトリング砲に変えて撃つ真似をしてみると実際に砲弾が出た。さらに炎を吐くある映画の怪人の真似をすると炎が出たし、別なキャラになると電撃も放出できた。全てを凍りつかせる魔女の姿となって真似すると、熱湯すらも凍りついた。悪乗りしたレミが一目見た者々を石へと変えるという石化の魔女の姿形になろうとしたところで皆が止めたので確認はしていないが、たぶん可能だろうとテミスが解説した。
『対象となる物体の元素組成を変更するだけですから。物質に虚数振動を与えて虚数次元振動物質に変えられるプロセスを応用するだけで実現できます』
「ところで……別にどうでも良いけどアタシ達が射出した弾丸とかってどこから供給されているの?」
アルテの疑問も尤も。ウォーマシン形態で幾ら撃っても弾丸はつきる事はない。まるでウォーゲームの中で戦っているかのように。
『さあ? この宇宙のどこか辺境に漂っている直径数kmの鉄隕石が数個無くなったとしても宇宙全体にはなんの影響もないでしょう? それらが虚数次元に取り込まれ、弾丸として皆様に供給されていたとしても広大無辺な宇宙の中のほんの些末な出来事。そして私達の未来にも。お気になさらず現実をありのままに受け入れるのが宜しいかと思われます』
したり顔のテミスの説明にアルテは眉を顰めた。
「それってつまり……どういうこと? ブライ。説明してよ」
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』、『101人の瑠璃』などの後編となります。
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