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10.イノーガ・エレメント 遺されていたモノ 3

 惑星に残された12人の少年少女とアンドロイド達の物語

「もう決断したことだ。オレ達はこの星に住む。住み続ける。そのためにあの遺跡を……制御する。あと21時間以内に」

 時計を見ると既に昼。

 イノーガ・エレメントを前にして決断した1、2時間前のコトが遙か昔のようにも感じる。

 ブライは深呼吸して自分に問い直す。「何をまだ迷っているのか?」と。そして皆を見ると……安心したような怯えているようないろんな感情が奥底で渦巻いた視線で自分を見つめている。

「ふ、そんなに心配するなよ」ブライは努めて明るく戯けるように言う。そして思い出した。

「そうだ。レミとラミの親父さんは……ここに来る前はコロニーで義手とかを造っていたんだよな?」

「そうです。御父様が造った義手はまるで本物のように動いてみんなに感謝されていました」

 レミが自慢する。ラミはそんなレミを「あんまり威張らないように」と小声で諭している。

 ブライはレミを見て、ラミを見て……もう一度、筐体のラテン文字を見る。

 メメント・モリ。

『死を忘れるな』という意味の文字を。

 そしてアルテを見て微笑んだ。

「思い出したよ。親父が……あの言葉は「死を忘れるな」という意味じゃなく、本当は「今を精一杯に生きろ」という意味だと教えてくれたことを」

 アルテは黙って肯く。

「オレ達は……この星に生きる。生き続ける。だよな?」

 アルテは肯く。レミとラミも肯いた。ゆっくりと、確認するように。

「そのためには遺跡を制御する。いや総ての元凶だとセルケトが判断したあの遺跡を倒さなければならない」

 全員が肯いた。

「じゃ、オレが今成すべきコトはただ1つだ」

 そして……ブライは左腕を無造作にイノーガ・エレメントの中へと挿し入れた。

「えっ?」突然のことに皆が驚く。セルケトも、そしてテミスやディアナ達も。

「何してんのよっ! セルケトの説明を聞いてなかったのっ! さっさと引き抜いてっ!」

 アルテが怒ったように指示している。

 しかしブライには聞こえていない。ブライは自分の腕が喚き立てる感覚を押さえ込むのが精一杯で何一つ聞こえてはいなかった。

 ブライの腕の中にエレメントが浸入してくる。浸蝕してくる。傷痕を通り、細胞の中へと。まるで細胞の総てが何物かに囓られているような……おぞましい感触。

 ブライは苦悶の表情を露わにし……そしてゆっくりと左腕を抜いた。

 その左腕には……イノーガ・エレメントがまとわりついていた。まるで水飴が腕についているかのように粘性の高い液体が腕にまとわりつき蠢いている。

「……浸蝕されていない?」アルテが訊くように呟く。

「ああ、レミやラミの親父さんが造りだしたんだろ? 腕は確かさ。……うわっ!」

 ブライがおぞましい感覚を押さえて自分自身をも納得させるように呟いた瞬間っ! イノーガ・エレメントはガラス槽の中から総て飛び出て……ブライの身体を包んだ。

「ぅおっ! んぐっ!」

 突然のことで呼吸ができない。口の周りのエレメントだけでも取り払おうとするがエレメントの粘性は高く、引き剥がせない。そしてブライはがくりと膝を落し……四つん這いになり……そして床に消えた。まるでドライアイスが気化し、溶けて消えてしまったかのように。

「……え?」

 皆は驚き、そして見渡す。何処にもブライの姿はない。

「どこ? 何処に消えたの? ブライ、返事してっ!」アルテが狼狽し叫ぶ。

 だが叫びに呼応するモノは何もない。

 沈黙だけが、静寂だけがその場にあった。

「ブライ様っ! 戻ってきて下さいっ!」レミが静寂を破り、床を叩き叫ぶ。

 ブライが消えた床を力任せに叩いている。

「ブライっ! さっさと出てこないと、戻ってこないと酷いからねっ!」

 ラミも叫ぶ。床に手をつき、その向こう側、次元の向こう側に届けとばかりに。

「ブライっ! お願いっ! 戻ってきてっ! 戻ってこないとアタシ……アタシ、一人っきりになっちゃうっ! お願いだから……戻ってきて。お願いだからっ!」

 アルテが叫ぶ。

 3人の声だけが静寂の中に響いていた。

 他の誰もがあまりの出来事に声を呑んでいた。そして心を押しつぶされそうになり涙ぐんでいる。

 そしてアルテの頬を涙が伝う。レミとラミの涙がぱたと床に落ち……アルテの涙もぽたりと床に落ちた。

 その瞬間。

 アルテの涙が光った。

「え?」

 いや光っているのは涙ではない。

 3人の涙の跡を中心に光の輪が広がりつつあった。ゆっくりと。

「これは?」アルテが呟く。

「なに?」ラミが呟く。

「これはきっと……」レミが涙目で微笑んだ。

 そして3人同時に叫んだ。

「ブライ(様)っ?」

 その声に呼応したかのように……床全体が光り出す。まるで魔法陣のような形に煌めきだし……ブライは床から出てきた。

 悪魔が魔法陣から召還されて出てきたかのように。

 そしてその姿は……ウォーマシン。3Dシミュレーションでの姿そのもの。

 そして頭部が変形し……ブライの顔になった。

「ふぅ。死ぬかと思った」

「ブライ(様)っ! 戻ってきたのねっ!」

 3人は異口同音に叫んでブライに抱きついた。

 そして3人同時に抱きつかれたブライは蹌踉けて……後頭部を床に打ちつけて盛大な鈍い音を響かせた。



 今現在のブライの姿を有体に記述すれば……サイボーグ。ウォーマシンの身体に人間の頭部をつけたような姿。普段のウォーマシンと違いがあるとすれば、ブライが操っているマシンの腕はガトリング砲なのだが今の腕は……ロボット然とした手という事だろうか。

「ブライ……それって……アレ?」アルテが訊くが質問の形になっていない。

 それでもブライには意味が判ったようだ。

「ああ。やっぱり馴れた形になってしまうらしいな。このイノーガ・エレメントってのは」

 腕を伸ばし、指を開いたり閉じたりする。その腕は機械そのままであり、指もマニピュレーターのよう。

「序でながらナノマシンに操作マニュアルが記録されていたみたいだな。脳細胞に強制コピーされた感じだ」

「え? どういう意味?」

「こういうコト」

 ブライは全身を強ばらせるようにポーズを取り、集中する。直後にウォーマシンとなっていたイノーガ・エレメントが虹色の液体のようになり……ブライの身体の中に染みこむように消えていく。

「ほら。エレメントを虚数次元に押し込んでしまえば元の身体に……」

 言いかけたブライが何かを吐くような仕草をしたかと思った次の瞬間には……ブライの身体はウォーマシンに戻り、ブライは姿勢を崩して床に転がった。

「ははは。まだ巧く制御できないや。脳味噌にナノマシンの情報を総て取り込まないとな」

 皆は呆れ、そして安堵の息を吐いた。



 この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』、『101人の瑠璃』などの後編となります。

 途中ですが感想をお待ちしてます。

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