10.イノーガ・エレメント 遺されていたモノ 2
惑星に残された12人の少年少女とアンドロイド達の物語
倉庫奥の部屋からイノーガ・エレメントはガラス槽ごとディアナ達の手によって運ばれ、筐体に接続された。
『このナノマシンは……制御用信号が伝えられないと結晶化します。一見、単なるセドニウム遷移体として判断されるような状態に』
確かにその虹色の液体は倉庫奥から運び出すために電極で伝えられていた信号を遮断すると一瞬で砂のようになり、そして互いに接触し融合してこぶし大の大きさの結晶へと姿形を変えてしまった。
そして今、それぞれの筐体に接続し信号を流すと……熱せられた蝋のように溶け、虹色の液体へと姿を変えた。
『……今まで、7日毎に行っていた「戦争」の度にそれぞれのガラス槽へ私が皆様の信号、筐体からの信号を転送して同調制御を、つまり馴れさせていました』
「馴れさせていた?」ブライが訊く。
「どういう意味?」アルテも訊く。
『このナノマシン集合体は……』
セルケトが髪に挿した簪の1つをポキリと折り、虹色の液体に浸す。
簪は浸した部分が跡形もなく溶けて消えていた。
『……この様に自身と違うと判断した物体を総て「喰い尽くす」のです』
皆が震え上がる。
『正確には……浸蝕します。そして虚数次元振動を与え、虚数次元振動物質と変え、自分達と同じナノマシンを造り出す。まるでアメーバが増殖するように』
「それが……」アルテが怯えた声を出す。
「イノーガ・エレメントなのか」ブライが呟く。
皆、怯えて……足がすくんでいる。
そんな雰囲気を破壊したのは素っ頓狂な声。
「それは……以前見たことがあります」不思議少女レミの声だった。
「何言ってんの? こんなの見たこと無いわよっ!」慌ててラミが止めに入る。
「あれ? ラミは覚えてないのですか?」レミが小首を傾げて訊き返した。
「この星に来る前に御父様が誕生日プレゼントで造ってくれたスライム・ロボット。あれはワタシ達が呼ぶとみょーんと身体を伸ばして呼んだ方に来たではないですか。忘れてしまいました?」
ラミは暫く悩み、何かを思い出した。
「ああ。あの気味の悪いナノマシンの集合体みたいなヤツ。アレが何でこれと……え?」
ラミ自身が言って驚き、振り返った。自分の名前が貼られたガラス槽の中の液体を。そして同じキーワードを言ったことに驚いていた。
「アレは……プログラムしたスライムに、プログラムしていないのをくっつけると……一体化して……2つに分けても同じように動くようになった。アレが……コレの?」
「基本システムなのです。つまりコレはワタシ達の御父様の技術の結晶なのです」
晴れやかに万歳するレミをラミ以下、全員が呆気に取られていた。
「そうと解れば早速……」
『いけませんっ!』
ガラス槽に近寄るレミをセルケトが止めた。
『コレは……そんなに生易しいモノではありません。制御が……信号が正しく伝わらないと先程のように……』
皆がさっきの出来事を思い出す。簪が溶けるように消えてしまったことを。
『……浸した総てが消えて無くなるのです』
セルケトに言われてもレミは納得していないようで、人差し指を唇に当てたまま「むぅ」と不満そうに唸っている。
「ま、何にしても試してみないことには始まらんさ」ブライは努めて軽く言い放った。
筐体に座りヘルメットを被り、信号をガラス槽の電極に伝える。
それだけでガラス槽の中のイノーガ・エレメントは……虹色の煌めきが増していく。
『ダイブインシンクロ率……50%、60%、70%……』
セルケトの説明ではシンクロ率が90%を越えないと危険だと言われている。それがイノーガ・エレメントを創り出した。ブライ達の親の指示だと。
『80%……85%……88%……89%……ブライ様、もっと意識を集中して下さい』
セルケトに言われてもブライはなかなか意識が集中できない。先程の光景が、簪が溶けて無くなった映像が脳裏に焼き付き……恐怖を呼び起している。
『88%……85%……80%……70%。駄目です。一旦休みましょう』
セルケトに言われてブライはヘルメットを外し、汗を拭う。
『やはり……止めた方が宜しいのではないでしょうか? この星に住むのは……皆様は他の星に住まわれた方が』
セルケトが再度、決断の変更を促す。だがブライは首を横に振る。
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』、『101人の瑠璃』などの後編となります。
途中ですが感想をお待ちしてます。