8.タイムリミット 2
惑星に残された12人の少年少女とアンドロイド達の物語
「ごめん。ブライ、ここはお願い」アルテは弱々しくブライに頼んだ。
そしてテミスにメモリースティックを渡し、「……お願い」と言って、トマを抱いたまま……キッズ達を連れてリビングルームから出て行った。
残されたブライはレミとラミにも「頼む」と促し、2人はアルテの後を追った。リビングルームに残ったのは、ビージー達とブライ、そしてテミスとディアナ達になった。
「それが……セルケトを壊したのか?」
ブライが怒りの感情を無理矢理抑えて睨み付ける。
『……ええ。何が入っているのかはコレから調べます。ディアナ1、コレを』
テミスはディアナ1にメモリースティックを渡す。受け取ったディアナ1は無造作にイヤリング状の接続コネクタに突き刺した。
「お、おいっ! 大丈夫なのか?」
『最初から疑わしいモノとして認識していれば、私達は影響を受けずに調べることができます。失敗しても……私が壊れるだけです』
ディアナ1は凄絶な笑みを浮かべ、ブライ達を怯ませた。
『……解りました。2年前に幾多のギガバンクのメインコンピューターを停止させたデジタルウィルス「ゴルゴダ99-9999」の変異タイプですね。対処方法は……』
ブライ達はディアナ1の次の言葉を待っている。
『……ハードウェアリセット。但し立ち上げる前にサブシステムなどから該当ウィルスに感染したファイルなどを総て削除しなければなりません』
「それはつまり……どうなる?」
『セルケトの記憶が一部、或いは……殆どを消去するコトとなるかも知れません』
テミスが冷静に話す。そしてブライに確認した。
『時間をかければ影響は少なくなるでしょう。ですが、今は急がなければなりません』
ブライはさっきのバグラン達の言葉を思い出す。
「セルケトが……落下するのか?」
『ええ……御覧下さい』
テミスはリビングルームのモニターの電源を入れる。そして映し出されたのは宇宙戦艦テミスのブリッジ。
『テミス様に報告。移民船セルケトの動力がダウン。惑星ルクソルの重力に囚われて落下しています。予想落下時間は130,493秒後。約36時間15分後です』
「本当に……そんな急に落下するのか?」
『私達は低軌道に位置しています』テミスが冷静に説明する。
『常に短距離空間跳躍を実施し、この居住区が見える位置に移動し続けていたのです。それがシステムがダウンし軌道修正が行われなくなれば本来の軌道上の動きに従う。それが落下という結果をもたらします』
「落下を防ぐ方法は?」
『強制的にシステムをリセットし、少なくとも空間跳躍機能を復活させる』
「それに必要な時間は?」
『推定ですが、最短で約24時間。最長で128時間。そして最短で行った場合……』
テミスは言葉を句切り、ブライを見つめる。
『セルケトの記憶は殆ど失われるでしょう』
「だが……他に方法はない」
ブライの苦渋の決断をビージー達も黙って肯いた。
「頼む。セルケトを……復活させてくれ。できるだけの記憶を残して」
『承りました』
テミスが微笑む。
そしてモニターから冷静な声が希望を告げた。
『報告します。連絡用シャトルでディアナ25~36、そして修復用作業ロボットが移民船セルケトに到着。コレより内部に入ります』
映像が切り替わり、連絡用のシャトルが移民船セルケトのドッグの扉をこじ開けて中に入った映像が映し出された。
「治るんですね?」ハカセが嬉々とした声で確認する。
『ええ。直して見せます。移民船セルケトと同型機である私、テミスが……イシスの名にかけて直します』
「あ、ありがとうっ! 治してくれるなんてっ!」
ビージー達は代わる代わるにテミスに感謝し、そして立ち去った。
「アルテさんに、トマに教えてきますっ!」
吉報を皆に知らせるために。
リビングルームに残ったのはテミスとブライだけになった。
「泣いたカラスが何とやらだ」ブライも安堵の溜息を吐いた。
『コレで後は……』
テミスがブライを見つめる。
『ただ単に時間との勝負です。そして運との勝負です』
「運?」
テミスは笑う。少し悲しげに。
『ええ。ウィルスの感染ファイルが少ないことを祈りましょう。そして銀河中央政府がセルケトの……』
テミスが何かを言いかけた時、モニターからさらに事態が急変したことが告げられた。
『テミス様に報告。銀河中央政府より緊急通信っ!』
そして緊急回線用のモニターが再び点いた。
映し出されたのは……ただの文字の羅列。そして合成音声。
『戦艦テミスに告ぐ。惑星ルクソル付近を航行している船舶から移民船セルケトの停止が報告された。事態を確認し報告されたし。移民船セルケトの停止が確認された場合、「指示」を速やかに実行されたし。移民達を収容し、惑星ルクソルを破壊。特に「遺跡」の完全破壊を実行されたし。繰り返す。移民船セルケトが停止していた場合……』
テミスは沈黙し、ブライもまた黙って銀河中央政府からの緊急通信を見つめていた。
沈黙の後、テミスはブライに告げた。
『ブライ様、貴方にだけは……総てをお話し致します。私が指示されている総てを』
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』、『101人の瑠璃』などの後編となります。
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