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7.壊されたセルケト 5

 惑星に残された12人の少年少女とアンドロイド達の物語

「それにしてもディアナ達の子どもの扱いは見事ね。まるでベビーシッターを専門でしていたみたい」

 ブライの部屋でアルテはテミスに感謝していた。レミとラミも肯いている。

 いつもならばキッズ達を寝かしつけるために奮闘するアルテ達も今夜はすることがなかった。ディアナ達の子守は実に見事でそつがなく、キッズ達はあっさりと寝てしまった。

『お褒めにあずかり恐悦至極に存じます』

「何処でそんな経験を覚えたのですか?」

「惑星タマジで覚えたの?」

 レミとラミの質問にテミスは微笑みのままで首を横に振る。

『いいえ。私達、イシスの記憶を元に行動しているアンドロイドにとっては……「本能」と呼んでも差し支えないコトでしょう』

 ブライが怪訝な顔で訊き返す。

「機械のアンタが『本能』? そんなモノがあるのか?」

 テミスは懐かしい何かを思い出すかのような顔になる。

『ええ。イシス様から受け継いだ記憶の中に……子守の記憶があります。実際、イシス様はある植物学者の孫娘を7人ほど育てられています。もちろん、孫娘様達の母親である植物学者の娘さんと一緒にですが。ディアナ達もまた私から記憶を受け継いでいる以上、小さい子どもに対処するのは……やはり「本能」に近いモノとなるでしょう』

 イシスの表情にアルテも安心したような表情を浮かべる。

「セルケトが……キッズ達に慕われるのも無理はないってコトね」

 アルテの言葉にテミスは優しい笑みを形作った。

『セルケトは……怯えているのです』

「怯える? 何を?」ブライが訊き返す。

『いつまた「疫病」が流行るのか解りません。そしてその結果をセルケトは何回も見てきた。私と同じ能力がありながら、移民は……成功しているとは言い難い状況が続いています。その現状がセルケトを臆病にさせているのでしょう』

 テミスは優しい笑みのまま立ち上がった。

『少し言葉が過ぎたようです。セルケトと同じ状況に私が置かれたら……私は即座に遺跡を破壊していたでしょう。セルケトはそれを行わずに、ただただ、人間を信じ、人間が対処することを待っている。私にはできないことです』

 そして一礼する。

『私は食堂で待機しています。このホテルの警備はディアナ達にお任せを。瞬刻の隙なく警護する事をお約束致します』

 テミスは『ではこれで』と立ち去り、部屋にはブライ達が残された。

「なんかさ……」アルテが呟く。

 ブライは黙って次の言葉を待った。

「……いろいろと圧倒されてしまいましたですね」

 レミがアルテの言葉を継いだ。

「強くて優しくて……セルケトと同型とは思えないぐらい厳しいけど、総ては優しさよね」

 ラミが補足する。

「ああ。そうだな」ブライは肯く。

「アレほどの戦闘能力。アレほどの心遣い。子どもの接し方。長い年月が与えた才能だな。総てが長けている。オレ達、人間が敵う相手では無さそうだ」

 ブライはベッドに身を投げる。

 アルテ達は肯くように暫く黙っていたが……レミが妙に艶っぽい笑みを浮かべた。

「でも……機械にはできなくて人間にしかできないコトがありますよ?」

 ブライとアルテはなんのコトだか解らず、ラミは既に察しているようで慌て始めている。

「あれ? ブライ様とアルテ様は解らないのですか?」

 ブライとアルテは目配せしたが互いに意味が判らず疑問符を交わすだけ。

「人間にしかできないコト? なんだそれは?」ブライが降参して訊く。

 レミはあっけらかんと言った。

「それは人間を産み出すコトなのです」

 レミは無邪気に笑っている。ラミは頭を抱え、アルテは暫くぽかんとしていた。

「そして、それが大人になった証明なのかも知れないのです」

 レミの次の言葉にアルテも意味が解ったようで、顔を紅潮させ始めた。

「はい? 大人の証明?」ブライはそれでも意味が解らない。

 アルテは妙な雰囲気を掻き消すかのように大きな声と共に立ち上がった。

「れ、レミっ! ラミっ! もう遅いから寝るわよっ!」

「はぁい。あ、ブライ様。レミはいつでも大人の……」

「レミっ! そんなコトを事細かく言わなくて良いからっ! おやすみっ!」

 まだ何か言いたそうなレミをアルテとラミが両脇を固めて連れ出していく。

「ブライ? へ、へんなコトを考えないでよっ? アタシ達はまだ15歳と16歳なんだからねっ!」

 アルテはブライにとって謎の言葉を残してドアを勢いよく閉めた。

「へんなコト? なんだ?」

 残されたブライは……意味が解らず、何をどうしていいのかも解らず、ただアルテ達が残した甘酸っぱい薫りというか雰囲気を掻き消すように頭をかきむしり、消灯してベッドに潜り込んだ。


 その深夜。

 トマがベッドから起き出し……机の引出しを開けて中から壊れかけたメモリースティックを取り出した。

 それは昼間の騒動で手に入れた……自分の家から持ってきたメモリースティック。

 トマの脳裏に賊のロボットの言葉が甦る。


『ああ。家族写真とかが入っているのか』


「家族の……写真」

 アルバムは既に持ち出してある。何度も何度も見た。

 しかし……そのメモリースティックの中には……まだ見たことがない写真が入っているのかも知れない。

 父の顔。母の顔。叔母さんの顔。従姉妹の顔。亡くなってしまった人達を思い出してしまう。

 そして見たことがない写真がどんなのかと思ってしまう。

 トマはそっと部屋を出て……リビングルームへと向かった。


 セルケトはいつもリビングルームで待機している。

 それは朝に皆に挨拶するため。食堂に繋がる廊下手前に位置するリビングルームは朝の挨拶をするのには最も適した場所。

 そして……トマは誰にも会うことはなくリビングルームに辿り着いた。

『……え? トマ様、こんな時間に? 如何されましたか?』

 問うセルケトにトマは……黙ってメモリースティックを差しだした。

 そしてそれを何処でいつ手に入れたのかを言わずに……言ってしまった。

「この中に……ボクの家族の写真が」

 セルケトは黙って受け取り……メモリースティックの状態を確認する。

『壊れているかも知れませんが……中の情報を、写真を見たいのですか?』

 トマは黙って肯く。

 セルケトは……何一つ疑わなかった。

『では私の中にコピーして解析しましょう。壊れていたら……すみません。でも、できるだけ修復しましょう』

 セルケトの笑みにトマは安心して笑った。

『ではコピーします。この媒体にあったコネクタは……』

 セルケトはイヤリングの1つを操作して……コネクタを選び、メモリースティックを接続し……中身を読み込んだ。


 直後っ!


『ああぁぁぁっ!』

 セルケトは悲鳴をあげて倒れてしまった。

 そして……動かなくなった。




 この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』、『101人の瑠璃』などの後編となります。

 途中ですが感想をお待ちしてます。


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