7.壊されたセルケト 4
惑星に残された12人の少年少女とアンドロイド達の物語
叫ぶ。ありったけの声で叫んだ。
だが相手はチラリと振り向き、あっさりと無視した。
『誰かと思ったら……小僧じゃねぇか。さ、邪魔だからでていきな。叔父さんは正当な理由で金目のものを探して盗もうとしているんだからよ』
勝手な理屈をこね、タンスの中を探り、中身を放り出し、タンスをも投げ捨てる。
『ち、タンス預金すらもない。さて……あと何かありそうなのは……』
トマは両手を広げてロボットを止めようとするが、あっさりと振り払われて倒れたタンスの上に転がった。機械は奥の部屋へと進んでいく。
「やめろっ! やめろっ! そこはみんなの部屋だっ! ボク達の部屋だっ!」
ロボットはトマの抗議と抵抗を無視してありとあらゆるモノをひっくり返す。
『ん? 何だコレ?』
ロボットが何気に拾い上げたのは……細長いメモリーティック。
『ああ。家族写真とかが入っているのか』
カメラの記憶媒体として使われているありふれた記憶媒体。
「返せっ! それはボクのだっ! 返せっ! 返せったら返せっ!」
トマは無謀にもそれを奪い取ろうとロボットにしがみつく。だが、あっさりと振り払われる。
『ほう? そんなコトを言われるととてつもない宝物に見えてきたな~ これだけでも持って帰ろうかしらね?』
メモリースティックを機械の指で弄ぶ。トマは獲ろうと何度も挑むが、右左へと両手で投げ遊び、ロボットはトマをからかい続ける。
『ははは。そろそろ飽きちゃった。こんなモノ壊してしまおうね』
ロボットがメモリースティックを弄ぶのを止め。指の間に挟む。
そして力を入れて……メモリースティックが軋み、ひび割れて……
直後っ! ロボットが吹き飛んだ。
トマの頭上を越えて、ロボットは反対側の窓を壊して外に落ちていった。そして凄まじい砲撃音と振動が響く。
トマが振り返ると……窓の外で長銃身の重機を携えたディアナがホバリングして微笑んでいた。
『ディアナ6よりテミス様に報告。敵ロボットを粘着弾にて吹き飛ばし、上空よりディアナ8、9の斉射で完全に破壊。トマ様に影響のないタイミングと射角を確保するため遅れてしまったことをお詫びします』
ホテルでは皆が喜んでいた。
『ディアナ4より報告。これで敵、遠隔操作ロボット6体は総て排除しました。これより要救助対象者と共に帰投します』
ホテルのモニターにはディアナ達とアパートの床に呆然とへたり込んでいるトマの姿が映っている。
「な、大丈夫だったろ?」
ブライに言われてユマは涙を流して喜んでいた。
「帰ったら……うんと叱ってあげなさい。お姉さんなんだから」
アルテに言われてユマは無邪気に笑った。涙を溢しながら。
『さあ。トマ様、帰りましょう。皆様が心配されています』
トマは……目の前に落ちていたひび割れたメモリースティックを拾い上げて……ディアナ6に従った。
ホテルに帰ったトマはユマを筆頭に皆に怒られた。
「もう二度と勝手な行動をしないと約束しなさいっ!」
最後もアルテに叱られ、約束し……そして抱きしめられた。
「でも……無事でよかった。無茶なことはしないでね」
アルテに涙ながらに説得され、トマは黙って肯いていた。
だが……総ては罠を仕掛けるためのバグラン達の策略だった。
日が落ち、夕食となった。
昨日までと違い、ディアナというメイドが手伝うこととなり、夕食は随分と賑やかだった。
それは単に数が増えたというコトよりもテミスとディアナ達が話し上手だったことにある。
ブライは(テミス達も人間に触れあいたいと思っていたのだろう)と判断していた。元々は移民船の統括コンピューターと支援アンドロイド。担当したという惑星タマジのコトを思いだしていたのかも知れない。
賑やかな時はあっという間に過ぎ、消灯時間となった。
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』、『101人の瑠璃』などの後編となります。
途中ですが感想をお待ちしてます。