1.完全なる戦争 3
惑星に残された12人の少年少女の物語
典型的な敗北パターン。
しかし……嬌声と共に敵の配置が崩れた。
「きゃああああっ!」
「壊れてしまいなさいっ!」
粉塵の中から左右に飛び出たレミとラミの機体が敵の長距離砲の機体を挟撃。ガトリング砲で破壊。そのまま十字砲火を中距離砲の機体に浴びせる。
あっという間に中距離砲の機体も破壊、動作を停止させた。
「振り向くなっ! 間抜けっ!」
何事かと振り向いた眼前の白兵戦用機体を1連射で破壊。
絶体絶命の場面があっという間に勝利に終った。
「ふぅ。助かった」
「はぁい。愛妾としましては少しは役に立ちませんと」
あいしょう? 愛しい妾? ブライは頭を抱えた。
「レミ? 何、巫山戯たことをいってんのよ?」
「あれ? ラミはブライの愛人になるとか言ってませんでしたか? それならばワタシは愛妾なのです」
「あのね? アタシは飛びっきりの美人になるといってんのよっ! ブライだけじゃなくて全銀河の男を魅了する……」
「2人ともそれまでだ」
呆れ気味の声でブライはレミとラミの会話を止めた。
「左舷の敵に向かうぞ。ビージー部隊と狙い撃ち(スナイパー)合戦をしているみたいだからな」
「右舷の方はよろしいのですの?」
問うレミにラミが言い返す。
「キッズ部隊の長距離砲で身動き取れないでしょ? だったら狙うのは左舷よ」
同じ言葉を言い返そうとしたブライは言葉を一度呑んでから言い直した。
「そのとおり。さっさと左舷のを壊滅させるぞっ!」
「はぁい」
「はぁ、その気の抜けた返事をやめてよね。ところで……」
「何だ? ラミ?」
「今のフォーメーションは良かったよね? トライアングル・ラミ・アタックって事で良いかしら?」
作戦パターンとして登録する気だなとブライは思った。しかし特段、反対することでもない。使える手順が増えるのはよいことだ。
「トライアングル・アタックとして登録しておく」
「んん? 『ラミ』が抜けてるよぉ」
レミに対しては厳しく言うラミが自分に対しては猫なで声を20%程混ぜて返す。ブライは心の中で溜息を吐いてから無視することにした。
「いいからさっさと左舷に向かうぞっ!」
「はぁい」
「ふんだ。ネーミングについては譲らないからねっ!」
戦闘は互角の状態が崩れると脆いものだ。
左舷の敵は中距離砲の撃ち合い状態から側面をブライ達に襲撃されて壊滅。
右舷の敵もキッズ部隊が足止めしている間に手の開いたブライ達とビージー部隊にも挟撃されてあっさりと壊滅。
敵の大将は右舷の中にいた白兵戦用機体だった。
「やったーっ! 久しぶりの完全勝利よっ! だよね? セルケト?」
勝ち名乗りを上げたアルテが問い掛けたのは……それまでは戦場にいなかった機体。
セルケトと呼ばれた白く輝く機体は上空の雲から光と共に地上に降り立った。
いや機体ではない。完全人間型の巨大アンドロイドの姿。
『はい。完全勝利です。これで合計スコアが1449ポイントになりました。そうですよね? テミス様』
セルケトが呼び掛けたのは同じく天空から光と共に舞い降りてくる尼僧のような機体。
セルケトと同型機のように似ているが雰囲気だけが違う。
セルケトは慈愛の女神だとすればテミスは戦闘天女のような印象を放っている。
『確かに。そちらの完全勝利です。1000ポイントを超えたスコアは何と交換されますか?』
テミスの確認に周りが沸き立つ。
それぞれ勝手に「玩具」とか「お菓子」とか「ドレス」とかと言っている。
しかしブライは憮然とした声で言った。
「惑星ルクソルへの『再生』作戦延期。2ヶ月追加だ」
キッズやビージー部隊、さらにはレミとラミも不満の声を上げる。しかしブライは動じずにアルテに確認した。
「それでいいよな? アルテ」
「ええ。もちろん。これで何年延期になったのかしら?」
『そうですね。1年と4ヶ月です』
テミスが微笑みながら答え、そして付け加えた。
『ですが、個別スコアで100ポイントを超えた方には私の方からプレゼント致しましょう』
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』などの後編となります。
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