7.壊されたセルケト 3
惑星に残された12人の少年少女とアンドロイド達の物語
「バカ野郎っ!」
叫んで部屋を飛び出ようとしたブライを……テミスが襟首を掴んで引き戻した。
「何をするっ! バカ野郎っ! トマを助けに行かないとっ! った、いたたた……」
『バカ野郎はアナタです。現在の生身のアナタは戦力にはなり得ません。ただの要救助対象者です。要救助対象者数が倍になってしまってはディアナ達の行動が著しく制限されます。失礼ながらこの場で見ていて下さい』
テミスはブライの後ろに回り腕の関節をきめて締め上げている。いや、ブライの腕を締め上げたテミスの腕がブライの顎まで伸び、顔をも歪に締め上げている。
その動作は流れるように見事。
『解りましたか?』
「わかったっ! 解ったから離してくれっ!」
テミスはブライをあっさりと放し、モニターを注視する。ブライは憤った感情のままにその足に横蹴りを入れようとした。が、ブライの行動を察知していたかのようにテミスはふわりと飛び上がり……くるりと体を回して着地した時には……ブライの両脚は折りたたまれたように関節をきめられていた。
『この技はリバースインディアンデスロック。先程のはチキンウィングフェイスロック。どちらも原初のガイアでの公開格闘で使われていたという古の技です。まだ続けますか?』
ブライは……痛さのあまりに声が出ず、両手で床を叩き、降参した。
テミスが技を解いた後も暫くは起き上がれない。
「何やってんのよっ! こんな非常時にっ!」
トマへの心配をブライへの怒りへと変えて吐き出すアルテは、それでも仕方なしに抱き起こす。
「いや、すまん。何というか……やはり戦闘能力は半端じゃないな。トマは?」
「トマは……なんか建物の間に入っていったわ」
ブライが皆を見渡すと……トマの実の姉であるユマが一番心配している。
「ユマ。大丈夫だ。テミスはオレをあっさりと叩き伏せるほどに強い。ディアナというお姉さん達はもっと強い。トマを無事に救い出してくれる。きっとだ」
アルテは……ブライの暴挙もあながち無意味ではなかったのかと少しだけ感心した。
(いや? 転んでもただでは起きない性格だというコトよね)
アルテは感心するのを止めて呆れることにした。
「違うの。トマは……自分の家に向かっている」まだユマはトマを心配していた。
モニターに映し出されているのは……同じ形の建物が並ぶ団地の一角。そして建物の間の中庭に……トマが乗り捨てたロボットが佇んでいる。
「あれほど……もう二度と行かないって約束したのに……」
それは姉弟同士での約束だったのだろう。殆どの人間が死に絶えた、疫病が流行ったという事実から心を守るための幼い約束なのだろう。
「そうか。じゃ、叱ってやれ」
ブライはユマを抱き上げる。
「もう直、無事に戻ってくる。そしたら叱ってやれ」
ユマは黙って肯き、そして共にモニターを凝視した。
トマは……コンクリートの階段を上っていた。
自分の家、工場横のアパートの一室へと。
昔、家族と住んでいた場所。お父さんとお母さんと姉のユマと住んでいた場所。隣は叔母さんの家族が住んでいて、かなり年上の従姉妹のお姉さんが住んでいた。
疫病が流行り……従姉妹のお姉さんが倒れ、叔母さんが倒れて、叔父さんがいつの間にかいなくなった。そしてお母さんが起き上がれなくなり、お父さんも帰ってこなくなった。
でも……思い出はあの場所にある。
姉のユマは「もう二度と行かない。悲しくなるから」って言っていたけど、自分にとっては……いつも行きたいと思っていた場所。その場所に……
何かの影を見た。
仲間達ではない。
あのテミスとかいうアンドロイドの仲間でもない。
誰かが、自分達の家の中にいる。
トマは……自分の家のドアが壊されているのを見て叫んだ。
「誰だっ! 誰だっ? 名乗れっ!」
それは映画での保安官の台詞。同じ言葉を言うことで……少しだけ強くなれた気がした。
部屋に入り睨む相手は……機械の身体。
ロボットが部屋の中で何かを捜していた。
『ふん。しけた星だな。何にもありゃしない』
声がした。よく見たら胸の所にカメラレンズとモニターがある。
そのモニターに映っているのは……昨日、変なことをいっていた大人。
確かロバーとか言われていた髭面の男の顔。
つまり相手は遠隔操作で動いているロボット。
「出て行けっ! ここはボクの家だっ! さっさと出て行けっ!」
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』、『101人の瑠璃』などの後編となります。
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