7.壊されたセルケト 1
惑星に残された12人の少年少女とアンドロイド達の物語
7.壊されたセルケト
翌日。普段と変わりない生活が始まった。
朝食を食べ、農作業をし、勉強し、昼食を食べ、そして勉強。自由時間となり、思い思いに過ごす。
ただ1つ。頭上に3つ目の月が浮かんでいること以外は。
いつの間にか赤い月は昨夜とは反対側にいる。別軌道を回り、周期が違う故だろうとブライは考えていた。
それ以外の違いは……皆が居る場所のモニターに常にテミスが映っていることだろう。
何とはなくだが、セルケトがチャンネルを合わせて映し、セルケトがいなくても誰かが映していた。その理由はと問われれば、モニターを消す時のテミスの寂しそうな顔と、映し始めた時の嬉しそうな顔、そして別れ際の『次の場所でも映して下さることを願っています』という言葉だろう。
アルテは嫌がってはいたが、皆が映してしまうのは黙認していた。
そして……そんな状況に皆が慣れ始めた頃。
「テミス様?」モニター前に進んだレミが小首を傾げながら訊く。
『何で御座いましょうか? レミ様』
モニターの向うのテミスは呼び掛けられたことを喜んでいるようで、笑みを満開にして訊き返している。
「そんなに御一緒したいのでしたら……ここに来られては如何でしょう?」
レミの提案に、アルテが露骨に嫌そうな顔をし、ラミが「また余計なことを言い始めた」と言わんばかりに頭を抱え、ブライは「面倒だからそれでもいいかもな」と無関心を装い、ビージー達は「どうでもいいや」と賛否を棄権し……キッズ達は後先考えずに喜んでいた。
どうやらキッズ達にとってテミスは「何かプレゼントしてくれる親戚の叔母さん」というレベルの認識らしい。
『そうですか? ではお言葉に甘えて』
嬉々とした表情を隠さずそそくさとモニターから姿が消えてから……数分後にはホテルの庭先に惑星往還機が降り立った。
「……随分と早いわね?」アルテが不審そうな表情を隠さずに言い放つ。
「たぶん……宇宙空間の低軌道か高々度の大気中にでも待機していたんだろ?」
ブライの言葉に皆が不思議がる。
「インフォメーションアンドロイドは移民船一隻に数体は乗っている。制御しているのは移民船本体だからな。惑星往還機で1体待機していても不思議じゃないさ」
皆は「なるほどね」と改めて納得した。
往還機から降り立ったテミスは日傘を掲げてから恭しく挨拶する。
『これはこれは皆様。お出迎え戴き恐悦至極で御座います』
「白々し」アルテはご機嫌斜めだ。
『いえいえ。こちらこそこのような事態にも関わらず来て戴いて感謝の言葉も御座いません』
出迎えたセルケトは……心底から喜んでいるように見える。
「ま、実際、バクラン達が乱入しかねない状況だからな。セルケトには心強いことは確かだ」
ブライの解説に皆は納得する。
と、妙に場が和んでいた時、テミスがキッと空を睨んだ。
『……とうとう痺れを切らして侵入してきましたね』
皆がテミスの視線の先を見上げると……そこに白いホウキのような雲が伸びていく。
「大気突入した?」ブライが呟き、皆が状況を呑み込んだ。
『バクラン達が突入してきました。皆様はここで。ご安心を。総て……』
テミスが指を鳴らすと……惑星往還機から背中に翼を背負ったメイド、つまり対人戦闘用メイド型アンドロイドのディアナ達が数体出て来て深々と頭を下げた。。
『……対人戦闘用メイド型アンドロイドであるディアナ達が「対処」致します』
テミスが日傘を閉じるのを合図にディアナ達は飛び立った。手に……自動小銃のような武器を携えて。
『迎撃まで……暫くは時間がかかるでしょうが問題はありません。というか問題なぞ発生させません』
テミスのごく自然な攻撃的な笑みにビージー達は震え上がり、キッズ達は無邪気に喜んだ。
アルテ、そしてレミとラミは……「そうなったらいいけど」と少し不安げな表情を浮かべている。
ブライは……この先どうなるのかが解らずに戸惑うだけしかできなかった。
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』、『101人の瑠璃』などの後編となります。
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