6.乱入者 5
惑星に残された12人の少年少女とアンドロイド達の物語
訊くアルテにブライは飄飄と答えた。
「別に。オレの疑惑がヤツら、バクラン達が来たことで証明されたようなモノだからな。わざわざ、こんな辺境の星に来て山師みたいな連中が手を出して採算が合うような鉱物なんてハミルトニウムぐらいしかないからな。テミスやセルケトがオレ達に隠していたコト。それはあの遺跡をオレ達が命をかけてどうにかしなければならない、そんな代物だというコトが証明された。それで落ち着いているのかもな」
ブライは笑う。
「そんな制御が……できるんですか?」ハカセが訊く。
「できる」ブライは断言する。
アルテもレミもラミもビージー達もブライの次の言葉を待っている。
何故そんなに断言できるのかを知りたがっている。
「随分と遠回しな説得さ。制御不能だと……オレ達の親やセルケトが判断していたのであれば、疾うの昔にセルケトがオレ達を連れてこの星から離れていただろう。何か制御できる方法がある。そしてそれを訓練するために……あの筐体がある」
「筐体?」アルテが訊く。
「筐体……というとあの筐体ですか?」レミが確認する。
「レミ、確認になっていない。あの筐体ってアタシ達がテミスとの「戦争」に使っている……アレ?」
ラミが訊き直し、ブライが肯く。
「多分な。テミスが言っていただろ? オレが『遺跡に立ち向う』って。そしてセルケトからアルテやレミやラミが「ある方法」で筐体を操作していると知ってから言い直しただろ? 遺跡に立ち向うのはオレとアルテとレミとラミになるって」
「つまり?」アルテが訊く。
「どういうコトなのです?」レミも訊き直す。
「解らないの? って、アタシもよく解らないんだけど」ラミも訊き直す。
ビージー達は展開について来られていないようだが必死についていこうと刮目したまま黙っている。
「さぁな。オレも解らん」ブライが両手を挙げて降参した。
「っおい!」全員が突っ込んだ。
ブライは笑って言葉を継ぎ足した。
「コレは単なる憶測だけどな。とにかく、「戦争」を提案したのはテミスだ。そしてそのために筐体が用意された。テミスとセルケトによって。オレ達に遺跡の制御を行わせるために。そしてそのための訓練を行うために……と考えると辻褄が合う」
アルテ達はまだ納得できないようで疑惑の眼差しのまま。
「テミスが来た時、最初は避難することを提案されただろ? それに従っていればこの星は無人の星。遠距離から遺跡を破壊して総て終わり。テミスの質量プラズマ砲の威力はさっき見たとおりだ。だが、オレ達はこの星に残ることを選んだ。だからこそ「訓練」が始まった。というコトさ。そして総てはオレ達の親が仕組んだこと。そしてセルケトはソレを知っているからこそ銀河中央政府に提案し、提案を受け入れた政府によってテミスがこの星系に来た。但し選択するのは……この星に住むオレ達。というシナリオだろうさ」
アルテが……暫く黙考してから訊く。
「アタシ達の親が仕組んだことなの?」
「ああ。だからこそセルケトが『言えない』のさ。誰かに『言わない』ように指示されている。つまり、その『誰か』はオレ達の周りにいてセルケトに指示できる人間。遺跡に詳しい人間。その条件から推測できるのはオレ達の親だけだ。そして親が仕組んだ……このシナリオの総てが明かされるのは……オレ達があるレベルに達成してから。そんなトコなんじゃないのか?」
「あるレベルって……筐体での「訓練」の到達レベルってコトですか?」ハカセが訊く。
「多分な」ブライは目を閉じて肯く。
「そして今の所、順調だったんだろう。この前の「戦争」でテミスがボーナスを振る舞ったのも、次の戦争でオレとの1対1での戦争を提案したのも……訓練を次のレベルに進めるためだと思えば……解らんでもないさ」
ハカセがあることに気づいて訊く。
「……それじゃ、疫病は?」
ブライは……ハカセの真剣な目から逃れるように空の赤い月を見た。
「これは単なる推測、憶測だが……あの遺跡はこの星、全体を監視しているんじゃないかと思う」
「監視している?」 アルテが訊き直す。
「第1次移民から第7次までの移民の何処かでガイア神教が流行ったのかも知れない。あの原初のガイアでも流行った自然崇拝のテロじみた宗教、宇宙へ踏み出すことを極端に嫌い、さらに宇宙開発をも嫌悪の対象とした宗教が。そしてソイツらが……狂信者の中で創り上げた狂った科学が異常発達し……この星のハミルトニウムを使って数万年以上に渡って稼働する惑星監視システムを作り上げ……ソイツらも滅亡した。そんなモノなのかも知れない」
ブライは夜の闇でも虹色の光を点滅させている遺跡を見る。
「セドニウムが豊富にあるのであれば……動力には事欠かない。そして『人類が一定数以上繁殖した場合、抹殺する』とかそんなプログラムが稼働しているのかもな」
「そ、そんな……」アルテが絶句する。皆も声が出ない。
この惑星ルクソルはそんな悪魔のようなシステムが稼働している星なのだろうか?
「それが事実なら……」ただ一人、ハカセが怒りを抑えたような声で訊く。
「つまり疫病は? 疫病というのは?」
「解らん。本当に何らかのウィルスがばら撒かれたのか、或いは……」
ブライは目を閉じる。ハカセの怒りが解っているために。
「遺跡から放出されたナノマシンが……命を奪っていったのかも知れない」
「そんな……そんなコトをあの遺跡がっ!」
ブライはハカセの感情が納まるのを待ってから言葉を続けた。
「……総てはオレの推測だ。だが、そう考えると辻褄が合う。過去の移民が全て失敗した理由。オレとアルテ、レミとラミの親がこの星に呼ばれた理由。調査結果が総て隠されている理由。セルケトが遺跡調査を止める理由。オレ達が遺跡に立ち向わなければならない理由。そしてテミスにアレほどの攻撃能力がある理由。総てはあの遺跡が……」
「……元凶なんですね」
ハカセの瞳に何かの炎が宿った。それは復讐だろうか? 純粋な怒りだろうか……
「でしたらっ! 今度の「戦争」からボク達もダイブインしますっ! ダイブインじゃなくてもアルテさん達が使っている方法で。そして、ボク達も遺跡に……」
「駄目だ」
ハカセの提案をブライは一蹴した。
「あの方法は危険だ。まだ頭蓋骨の形が決まり切っていないオマエ達が使うのは自殺行為だ。一瞬で脳神経がやられるぞ」
「でもっ! でもっ。ボク達だって……」
「それにな。オレ達が失敗したら……次はオマエ達がやるんだ。大丈夫。疫病すらも乗り越えたんだ。オマエ達は巧くやれる。オレ達が失敗したとしても……オマエ達はオレ達の失敗を糧にして次は巧くやってくれ。な?」
ブライの説得に……ハカセは肯いた。ユキ、マキ、アキも肯いた。
涙目で。決心していた。
「皆さん。落ち着くのです。いまのはブライ様の戯れ言というか総て勘違いなのかも知れませんのですよ?」
レミの戯けた声に皆の感情が一掃する。澱んだ何かを涼風が吹き飛ばしてしまったかのような……そんな感覚にビージー達は包まれた。
「そうよ。ブライが勝手に推測したコトなんだからね。騙されちゃ駄目よ?」
アルテが思いっきり作り笑顔でレミの調子に合わせる。
「そうそう。総ては……セルケトやテミスから全部聞いてからにしましょ。時が来れば全部教えてくれるんだからさ?」
ラミも作り笑顔で皆を落ち着かせる。
そしてビージー達とブライも笑顔を作った。
……誰もがブライの推測が正しいと信じて、そして信じたくないために、笑い合った。
「ふう。なんかオレもすっきりしたよ」
「あら? ブライったらいつも全部勝手に背負っちゃうんだから。誰も頼んでませんよぉだ」
アルテの幼い仕草の反論に笑う。
「そうなのです。それに今、考えるべきコトは別なのですよ?」
レミの指摘にラミが気づいたように言う。
「そうよ。今、考えるべきなのはアイツらよ。バクランとかいう乱入者達のことよ」
「残念だがソイツらのことはテミスとセルケトに任せるしかない」
ブライの諦めきった言葉に皆が「んむ?」と怒りを混ぜた疑問の視線を返す。
「相手は宇宙空間だからな。オレ達には手が出ない。出しようがないだろ?」
ブライの指摘に皆は「あ。そうか」と納得した。
「ま、アレほど遠回しながらもオレ達のことを気にしているらしいテミスに任せよう。セルケトは……言っちゃなんだが喧嘩が得意には見えないからな」
皆はテミスとセルケトの容姿と普段の言動を思い浮かべて全員が首肯した。
苦笑いしながら。
だが……何一つとしてブライ達の思い通りには進まなかった。
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』、『101人の瑠璃』などの後編となります。
途中ですが感想をお待ちしてます。