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6.乱入者 4

 惑星に残された12人の少年少女とアンドロイド達の物語

「問題大ありだよっ! アタシ達人間を攻撃するなんて機械の風上にも置けないねっ!」

 美女の抗議を冷ややかにテミスは受け流した。

『貴女方の宇宙船の船籍が確認できません。先程の戯言が総て事実だとしても私が確認できるまでは貴女方はただの正体不明の不審船です。もしも惑星ルクソルに許可なく何かしようものならば……』

 もう一度信号が乱れた。また質量プラズマ砲の試射を行ったらしい。

『この星系の第5惑星のように風穴を開けて差し上げます。了解されましたか?』

 テミスの画像が切り替わり、映し出されたのは巨大ガス惑星の第5惑星。そしてその表面に……黒い弾痕というか砲撃跡が2つ。美女達が震え上がっている様子が緊急通信モニターに映し出されていた。

『……私も覚悟を決めます』

 セルケトが呟く。

『もし、私の承諾なしに何かを実行されるというのでしたら……私の全能力を持って貴女達を排除します。移民船の名誉にかけて』

 その言葉は力強く、そして悲壮感を漂わせていた。



「どうするの?」アルテが呟く。

 あの後はキッズ達が無謀にもセルケトに従い、戦うことを宣言して騒ぎまくり、ビージー達は急な展開に理解できずに困惑し、ブライ達は……何をすべきかが解らずに、食堂を後にした。

 そしてブライの部屋にアルテとレミとラミ、そしてビージー達が集まっている。

「キッズ達は?」

 ブライが確認する。

「皆、寝てしまいました。興奮した反動でしょうね」ハカセが所在なさげに答えた。

「ブライ、どうするのよ? アタシ達……何をすればいいの? 訳わかんない」

 アルテが頭を抱えて呟く。

 ブライは窓の外を見上げている。

 夜空に浮かぶ青い月。それはセルケト。

 その横の黄色の月はテミス。

 そしてそれらから離れた場所に浮かんでいる小さな赤い『月』。それはアイツら……ヤタオカの末裔、バグラン達の船だろう。動きが違うから別軌道を回っているようだ。

「解らん」ブライは赤い『月』を睨み付けながら言い放った。

「解っているのは……テミスとセルケトがオレ達のために頑張っていること。そしてその結果次第では元の生活に戻れる」

「戻らなかったら?」ハカセが訊く。その可能性が高いと判断して。

「オレ達は……アイツらとこの星を取り合いになるだろう」

「なんで? 何でこうなるの? アイツらは何を狙っているの? こんな……鉱山だってろくに開発していない、数十万人がなんとか暮らせるだけの農地と少しの工場と海産物を獲る港しか残っていない辺境の星に……何であんなヤツらが来るのよ?」

 アルテが救いを求めるように訊く。

「ヤツらの狙いは……解っている」

 ブライが言いたくないことを口にした。

「セドニウム遷移体。あの遺跡は……たぶん遺跡周辺は虚数次元振動物質ハミルトニウムの塊。しかもクォーターニウムとかオクタニウムじゃない。極めて貴重なセドニウム遷移体だ。ヤツらはそれを狙っている」

「え?」ハカセは驚きのあまり声が出ない。

 暫し、慌ててからユキに水を貰い、一気に飲み乾し、一息ついてから叫んだ。

「そ、そんなコトがっ? セドニウム遷移体って、僅か数kgで宇宙船を千年動かせるっていう相転移炉の燃料で極めて不安定な高エネルギー物質。下手に触って虚数次元振動スパイラル、つまり次元崩壊を引き起こしたらこの星が全て反物質反応で失なわれ結果として超新星爆発に匹敵する宇宙災害を引き起こすというそんな物質がっ?」

 ブライは落ち着いて返答した。

「それは正確じゃない。自然界に存在する状態だったら安定している。一定条件下で制御していても安定。ただし……制御条件を急変させたり、強制的に振動を変化させるとか、下手に扱ったら虚数次元振動を発生させ周辺の物質を反物質に変換させうる物質、それがハミルトニウム。その高次元物質がセドニウム。オクタニウムからセドニウムに変化途中の物質がセドニウム遷移体。あの遺跡がセドニウム遷移体だとして虚数次元振動スパイラルが生じたら……超新星爆発並みの爆発を引き起こす。この星に住み続けるためには……アイツらのことがなくてもあの遺跡を『制御』しなければならない。それだけは確かだ。だからこそ、テミスが来た。オレ達に……この星で住み続けるか、この星を……葬り去るかを決めさせるために」

 ブライは『月』から視線を逸らし皆を見た。夕方と違い、随分と落ち着いた雰囲気のブライにアルテが皆を代表して訊く。

「それが……ラプラスの魔女なの? さっき……テミスと言い合っていた時に出ていた『ラプラスの魔女』って……そういうコトなの?」

 ブライは何かを思い出すように数舜黙り、「ああ。そのコトか」と呟く。

「その『ラプラスの魔女』ってのは伝説さ。原初のガイアから人類が宇宙に踏み出そうとしていた時、ハミルトニウムが月で発見され、それを元に相転移炉を造る。さらに空間跳躍システムを造る。その過程で……技術者とか科学者が遭遇したという人類外知的生命体というか宇宙人のような存在。ソイツの決め言葉は『アナタの死と人類の死、どちらを選ぶ?』だったかな? たぶん幻覚かなんかだろう。ただ、ラプラスの魔女に出会ったと言っていた科学者や技術者が自分の命と引き替えに、というぐらいに考えて、考えに考え抜いて技術革新を推し進めた。そして宇宙へ踏み出す技術革新を成し遂げた。その……常識外の技術革新の過程が生み出した都市伝説。そんな所がオチだろう」

 ブライは憑き物が落ちたような表情だ。

「ブライ……随分と落ち着いているように見えるけど……どうしたの?」


 この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』、『101人の瑠璃』などの後編となります。

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