6.乱入者 3
惑星に残された12人の少年少女とアンドロイド達の物語
代わりに抗議したのはテミスだった。
『何ですか? アナタ達は? 緊急回線での悪戯は法に触れます。直ちにおやめなさい』
丁寧だが敵意が籠もっている口調。しかし相手も怯まない。
「おやおや。アンタは……確か銀河中央政府からガキ共の撤去を命じられた……元移民船のテミスさんでしたっけ? 業務怠慢で報告しても宜しいんですけど?」
『構いませんが、その前に貴女方の所属とこの星系に侵入した目的を教えて戴きたいと思いますが如何でしょう?』
「ふん。機械風情が。いいよ。バンデ、教えてやりな」
画面が痩せた男に変る。男は分厚い書類を取り出して読み上げた。
「私達は第8次移民船の、惑星ルクソルに人類で初めて踏み込んだと記録のあるヤタオカ一族の傍系で別星系で延々と代を重ねてきた子孫。バグラン様、およびロバーと私、バンデで御座います。最初に降り立った人類の遺産として銀河中央政府は私達に惑星ルクソルの鉱物採掘権を認めた。はい、これが証拠の許可書。そして採掘権確認書。お解り?」
画面いっぱいに書類が映し出される。確かにそれらしき書類だがそんなモノを見たことがないブライ達にはただの訳の解らない書類にしか過ぎない。
困惑しているブライの様子を解っているかのように美女の声が響く。
「ふふふふ。解らないようだね? ガキ共」
「くくく。全くこれだからお子様には困りますね?」と同意した痩せた男がカエルが潰されたような声を放ちレンズに大写しになる。また蹴られたらしい。
「言うこと言ったらさっさとお退き。アタイが映らないじゃないかっ!」画面は美女へと戻った。
「お解りかしら? 惑星ルクソルのガキ共。アンタ達はその惑星に住む権利はあるだろうさ。だけど、その惑星総ての鉱石の採掘権は私達にある。アンタ達が住んでいるホテルの地面も私達のモノ。解ったらさっさと退去しな」
『抗議しますっ!』
声を上げたのはセルケトだった。
『この子達は移民です。銀河中央政府から命じられた正統な移民です。移民である以上、惑星ルクソル、およびこの星系総ての権利はこの子達にあります。二重の権利は有り得ませんっ! その書類は偽造か何かの間違いです』
セルケトの声が食堂に響く。
ハカセが「ここで言っても聞こえないのに」と呟く。
ブライがハカセの言葉をあっさりと否定した。
「セルケトは宇宙にいる移民船が本体。ここにいるのはインフォメーションアンドロイドとしての端末だ。セルケトの『声』はヤツらに届いている」
皆が「なるほど」と納得した。
「おやおや。移民船セルケトさんでしたっけ? 第9次移民から延々と失敗続きの移民船の言葉なんか無視しても良いんだけどね。ま、反論してあげよう。いいかい? 移民が成功したと認められる条件は銀河中央政府移民法によると……」
美女は分厚い本を取り出して読み上げ始めた。
「1。移民船に搭乗した人間が惑星に居住し、5世代以上、継続すること。アンタ達はせいぜい2世代めだよねぇ?」
「2。移民が文化文明を発展させ、他の星系と交流すること。受け取るだけじゃ駄目。発信して誰かが価値を認めて継続的に受け取らないと認められないんだよぉ?」
「3。移民がその星系で採掘した鉱物、採取した作物、獲得した動植物を以て他の星系と交易すること。コレも貰うだけじゃダメダメなのよ?」
「4。その星系に銀河中央政府に認められた何らかの特徴のある物体、状態、痕跡が存在し、移民がそれを管理していること。遺跡はあるみたいだけど管理してたっけ?」
「5。上記以外に銀河中央政府が特例として認めた場合。こんな条文、前例がなさ過ぎてカビとかキノコがジャングルみたいに生えてるわよぉ?」
美女は本を放り投げ、問い質した。
「で? もう一度確認するけどアンタ達は今の条件のどれか1つでも達成しているのかい?」
皆黙り込む。
総ての条件を満足していないことは明らかだ。
「ふふん。条件を達成していないと解って貰えたようだね? じゃ、さっさと乗り込む……」
美女の言葉は不意に途切れた。信号が乱れ、戻った時には美女は驚いていた。
「ばっ、バカなっ! なんてコトをするんだいっ!」
皆は何が起こったのか解らなかったがモニターのテミスに向かいセルケトが驚きの声を上げた。
『テミス様っ! な、なんてコトをっ!』
『質量プラズマ砲のメンテナンスの一環として試射しただけですけど? 射線上の横におられる正体不明の宇宙船の方々は驚かれたようですが……何か問題でも?』
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』、『101人の瑠璃』などの後編となります。
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