6.乱入者 1
惑星に残された12人の少年少女とアンドロイド達の物語
6.乱入者
セルケトがリビングルームでAV機器を操作しながら言葉を発している。
『あの部屋の存在をブライ様が思い出しました以上、私は総てを告げるべきなのでしょう』
そして機器のセットアップが終り、セルケトは振り返って皆に向き直り、モニター横に立ち振り返った。
『……しかし、私には指示された「制約」があります。私にはまだ告げるべき言葉がないのです』
言葉を句切り、そしてブライを見つめ、アルテを見つめ、皆を1人ずつ見つめてから、言葉を続けた。
『ですからテミス様に判断して戴こうと思います。それで宜しいでしょうか?』
断る理由はない。ブライもアルテもそして皆も肯く。
『ではテミス様に……回線を繋ぎます』
モニターの電源を入れ、回線をナンバー255で接続する。
直後。テミスの姿が映った。
何故か長いテーブルの向うで食事を待っているかのような姿。
『皆様、ご機嫌麗しゅう。そろそろ食事の時間ではありませんか?』
セルケト以外の全員が少し脱力する。
「えーと。アナタも食事をするの?」
アルテが代表して訊く。
『いいえ。食事の真似事をしているだけです』
全員の脳裏で疑問符が舞い踊る。
『以前、申しましたとおり、私達、機械にとって人間は不可解な存在。その不可解なる人間を少しでも理解したいが為の真似事です。皆様、お食事はまだですか?』
トマのお腹がぐぅと鳴く。
『では御一緒に如何でしょう?』テミスが笑って促した。
ハカセがマイクは何処だと見渡す。
ブライが「セルケトが見聞きした情報がそのままテミスに渡っているだけだ」と説明し、皆が納得した。
「食事の前に答えて貰えない? セルケトが知っている情報、そして私達に言えない情報を」
アルテが焦れているのを隠さずに棘の立った声で訊く。
『そのコトですか……』
テミスはゆっくりと額に長い指を当てて考え込む。
「もうセルケトから総て伝わっているんでしょ? 昨日言っていたじゃない。『セルケトが言えなくても私は言える』って。答えて」
テミスは小首を傾げ、数舜ほど沈黙し、アルテは痺れが切れた。
「さっさと言いなさいよっ! 引っぱたくわよっ!」
ハカセが「無理です。相手は衛星軌道上です」と小声で否定したが、アルテには聞こえていたようで素早く振り返りハカセを睨んだ。震え上がるハカセを助けるかのようにテミスの声が響く。
『ええ。セルケトから総てを聞いています。そして私の立場で判断するに……』
皆が固唾を呑んで次の言葉を待っている。
『……やはり、言えません』
「うぉいっ!」全員が叫んだ。
『私とセルケトは同じ機械。同じイシスの記憶を行動の礎とする機械なのです。総ての「指示」を知ってしまうと同じ判断をしてしまう。機械として仕方のないことです』
「それでも立場の違いとかで違うコトが言えるって言っていたじゃない?」
アルテが諦めきれずに問い質す。
『ええ。どのようがコトが言えるかはもう一度、精緻に判断していくこととして……先ずはアルテ様、レミ様、ラミ様。ブライ様に申し上げるべきコトがあるのではないでしょうか?』
テミスの言葉にブライは訝しんだ。
「オレに? 何のことだ?」
『筐体の……操作方法について』
テミスの言葉にアルテ達は視線を逸らした。極めて不自然に。
「操作方法って……まさか?」
アルテが舌を少し出して恥ずかしそうに謝った。
「ごめん。ブライに止められたけど……アタシ達もハカセ達とは違う方法で操作している」
そしてレミとラミも言い繕う。
「ですが、ダイブインではありませんですよ。ヘルメットは使ってますけど」
「針で腕とかが穴だらけになるのはゴメンだからね。アタシ達が使っているのは……接触型センサー。ロンググローブとかレッグウォーマーみたいなのをつけて操作している」
ブライは……何を声にすべきか解らず、ただ怒っていた。そしてやっと言うべき言葉が口から出た。
「そんな……それでも危ない方法なんだぞ? ヘルメットで視覚情報とかを直接、脳味噌に叩き込むのは。そんな危ない方法を使うのはオレだけで……」
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』、『101人の瑠璃』などの後編となります。
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