5.疑惑と困惑 5
惑星に残された12人の少年少女とアンドロイド達の物語
相転移炉。この時代の宇宙船の動力源。
「原型は原初のガイアで開発された『固体ヘリウム電池』で原料はハミルトニウム。ハミルトニウムは軽い方からハーフニウム、クォーターニウム、オクタニウム、セドニウム。総ての総称としてハミルトニウム。或いは虚数次元振動物質と呼ばれる元素。最初に使われたのはハーフニウム。現在の大型相転移炉の原料はセドニウム遷移体。そして虚数次元振動制御の応用原理としてはナノマシンも製造可能。ナノマシン自体は原初のガイアの対テロ用戦闘アンドロイドの修復用として開発されたという記録はあるが、製造技術は……失われてしまったロストテクノロジー。いや? 時折、ナノマシンを造りだした技術者の記録はあるが総て偶然の産物で量産されたことはない……ナノマシンとしての可能性としては、えーと、セドニウムで最低3の16乗-1で……ん~と、43,046,720以上もの次元振動同位体となり、自己修復機能が付与された場合は事実上の『永久存在』となりうる……」
記憶のままに学術記録を羅列して……脈絡なく思い出す。
レミとラミと出会った最初の日のことを。
「ブライ。挨拶しなさい。今日から共に研究することとなった……さんだ」
「ほら、アルテも挨拶して」
挨拶した大人の陰に隠れるように姉妹がいた。
「ブライ君。私達の娘と友達になってくれるかな。レミ、ラミ。挨拶しなさい」
「ワタシはレミというのです」
「アタシはラミ。言っとくけどアナタ達の御父様達がどんなに偉くてもアタシのパパの技術がなければ……」
「技術?」
ブライは何か引っかかった。
「確か筐体のメンテはレミやラミの親がしていた。えーと? 遠隔操作?」
ベッドにうつぶせになり頭をかきむしる。
「そうだ。筐体で遠隔操作していたんだ。何を? ……親達は何をしていた? 遺跡調査? 遺跡調査をしていた。だが……」
過去の記憶が甦る。総ての記憶がスライドのように連続して映像として切り替わっていく、
「……だが、毎日ここにいた。遺跡に出かけていった記憶が無い。出かけずに調査? つまり?」
起き上がる。
「あの筐体で操作していたロボット、調査ロボットは何処だ?」
ブライは部屋を飛び出て……倉庫へと向かった。
記憶と共に倉庫を掻き回す。
農作業に使うロボット達が邪魔で、過去の記憶と配置が違う所為で、何処に何があるのかが思い出せずにもどかしい。
作業ロボット達を片っ端から起動させて倉庫から出て行くように指示をする。
ロボット達は迷惑そうな挙動ではあったが、ブライの指示に従い出て行く。
「遺跡で……を見つけた。ほら。これが持って帰った……だ」
親達は何かを見つけて、実物を手に取っている。ポリマーグローブ越しだったが実際に何かを手に取っている。それは何処だ? どうやって遺跡から持ってきた? 手段は何だ? どんな機械を操作して持ってきたんだ?
いくら掻き回しても何も出ては来ない。
苛立ちが行動となり、種芋を入れた箱を蹴り飛ばす。
積み上げられた箱が崩れ……ボロボロの壁板が倒れた。
そしてその板の後ろに……扉を見つけた。三色の3つの菱形が六角形の中にある宇宙船の相転移炉動力室にあるのと同じマークが書かれているドアを。
「ああ……そうだ」
記憶の中の親達がブライに注意した。
「いい? ハミルトニウムの中でもセドニウム遷移体は調査しようとしたら……とにかく扱いが難しいの。遺跡から持ってきたのはそれに近いモノ。触っちゃ駄目よ」
「ま、セドニウムかどうかは疑わしいが、分析してみてからだ」
そしてドアの向うに消えていった。そのドアが目の前にある。
「この中に……」
ドアノブに手を伸ばし……触ろうとした瞬間っ!
「ブライ様っ! そこに触れてはなりません」
振り返ると……悲しげな、そして困惑した表情のセルケトが皆の前に立っていた。
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』、『101人の瑠璃』などの後編となります。
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