1.完全なる戦争 2
惑星に残された12人の少年少女の物語
粉塵の先は崖。
ブライは崖を飛び降り、腕を広げる。腕と胴体の間に電磁皮膜の翼が展開され、背中のジェットエンジンが火を噴く。
地面すれすれに移動し、岩陰を目指す。
敵の砲弾が近くに着弾し、粉塵がブライを包む。
(この辺で軌道修正っと)
翼を大きく広げて減速、素早くターンし、岩陰に隠れて電磁皮膜の翼を収納する。
(粉塵でレーダーが効かなくなるっていう設定は助かるね)
そして敵の位置を再確認するため時を待った。
「キッズっ! 正面の敵に砲弾の嵐をお見舞いしなさいっ! ビージーっ! 左右の敵を狙い撃ちよっ!」
アルテが叫ぶ。
同じ台詞を何度聞いたのだろうとブライは醒めた心で思いだしていた。
それにしても最近の指示は素早い。そして的確になってもいる。
(アルテも……手慣れてきたんだろうな)
粉塵が途切れ、正面の敵を5体確認。
直後っ! キッズ部隊が放った砲弾がブライと敵の間に着弾し、衝撃波と共に視界を奪う。
絶妙なタイミング。
(ナイスっ!)
ブライは数歩、斜めに動いてからガトリング砲を放ち、そして逆方向へサイドステップ。元の場所を敵の砲弾が撃ち抜く。
(そこにはいねえよ。え?)
自分はいない。しかし射線上の岩陰にレミがいた。
敵の砲弾が岩を破壊する。しかし半分は残った。辛うじてレミは無傷のようだ。
「バカ野郎っ! ウロチョロするなっ!」
ブライが叫ぶ。生存確認を兼ねて罵声を放つ。
「ふぁ。吃驚したぁ」
「バカね。ちゃんと隠れていないとダメでしょ」
その声の主はと見れば……ラミは後方の岩陰にしっかり隠れている。
……戦闘意欲は皆無のようだ。
「あー。とにかく隠れていてくれ」
「なによ。アタシだって参加するんだからね」
「そうです。参加するのです」
レミとラミは岩陰に隠れながら敵に向かってガトリング砲を放つ。
(おいおい。距離も足りねぇし、狙いが上過ぎる。鳥でも撃つ気か?)
それでも敵を攪乱する効果はあるだろう。ブライは粉塵の中を斜めに突っ切って敵の横に出た。
「おりゃあぁああっ!」
至近距離からのガトリング砲の砲撃に敵の2体が破壊される。破壊されたのは短距離砲の機体と中距離砲の機体。
(ちっ。短距離砲のを全部仕留めたかったっ!)
ブライは舌打ちしながら岩陰に隠れ、敵の白兵戦用機体である短距離砲を装備した機体が放つガトリング砲の攻撃をかわす。
「……こりゃ時間がかかるな」
ブライが諦め気味に呟く。近距離用の機体同士は膠着状態になりやすい。
諦めて空を見上げる。
だが……ブライの予想は外れた。見事なまでに。
「なんだっ!」
見上げた空に砲弾。言うまでもなく味方のキッズ部隊が放った砲弾。慌ててさらに後ろに下がる。
直後にさっきまで隠れていた岩が破壊された。
「何処を狙っているっ!」
インカムに叫ぶっ!
「敵に決まっているでしょうがっ!」
帰ってきたのはアルテの声。
ブライは迫ってくる敵にガトリング砲を放ちながら、叫んだ。
「敵じゃなくてオレの頭の上だったぞっ!」
「それは敵陣に飛び込んだアナタの責任でしょっ!」
「だからっ! 余計なことをするなっ!」
「判ったわよっ! キッズ。正面は良いから右舷に砲弾を放ちなさいっ! 集中砲火よっ! ビージーっ! 左舷の敵を狙い撃ちにしてあげなさいっ!」
おいおい。とブライは呟く。
こっちの支援は0なのか? と言いたかったが元はといえば自分の言葉だ。
「身から出た錆ってか。くそっ」
敵のガトリング砲に追われて後退一方。もう直に中距離砲の適正射程距離。さらに下がれば長距離砲の射程距離。眼前に白兵戦用機体。
(詰まらされたっ?)
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』などの後編となります。
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