5.疑惑と困惑 2
惑星に残された12人の少年少女の物語
「残念だがそれはない」
ブライは腕組みしたままハカセに答えた。
「親父達が死んだ時にオレなりに調べた。総て記録はロックされている。調査結果はセルケトを通じて総て銀河中央政府に送られているコトだけは解った。それでセルケトに教えてくれるように頼んだが……」
ブライはある場景を思い浮かべていた。
それはブライの両親の葬儀が終った時。他の大人達がまだ生きていて……ブライは一人で部屋に戻った時、訪れたセルケトに頼んだ時のことを。
セルケトは困惑した表情で同じ言葉を返すだけだった。
『ブライ様が大人になったら総てお話しします。そのように「指示」されています』
「……つまりセルケトはオレの親の遺言を守っている。だからオレは何も知らない。誰も知ることはない。アルテも同じだろ?」
ブライの言葉にアルテは肯いた。多少困惑気味の表情のままで。
「アタシの時も同じ。途中途中で……父さんとかが『こんな事が解ったぞ』って教えてくれていたんだけど……アタシはどんなコトだったのか覚えてない。亡くなってから調べようとしたら……親のパソコンには何も記録が残ってなかった。残っていたのは『セルケトに総てを預けた』というテキストデータだけだった……」
「ワタシ達も同じなのです」
アルテの言葉に同意したのはレミ。
「ワタシ達の親も……色々と調査結果を話してくれていたりしていたのです。でも記録は綺麗さっぱり消去されていました。残っていたのは……」
レミが小首を傾げて思い出そうとする。話を続けたのはラミだった。
「残っていたのはあの筐体の設計図とメンテナンスマニュアル。アタシ達とアルテとブライが使っている筐体はメカ操作のシミュレーション訓練用の筐体を改造したモノだからね。ダイブインできるのはその4つだけよ」
「違いますよ。セルケトが設計図を元に改造しましたから……それでもハカセ様達、ビージー部隊が使っている4つの筐体、つまり全部で8つの筐体だけですね。でも部品が足りなくてダイブインは無理っぽかったですけど」
レミがラミの説明に付け加えて言葉は途切れた。
全員が「あれ? 何の話をしていたんだっけ?」と疑問の霧に包まれて数舜、沈黙が場を支配した。
「えーと。話を元に戻して……ブライ。あの遺跡で記憶していることは?」
アルテに促されてブライは記憶を探る。
「えーとだ。遺跡は第8次移民の記録では『到着した時には既に在った』と記されている。つまり第7次移民までの間に建築されたというコトだけは確かだ」
「しかし……あのようなモノを作る技術があるのでしたら移民は成功して銀河中央政府と交信していたのではないでしょうか?」
ハカセが疑問を挟む。
「確かにな。形状としては高層ビルとも言えるし、形状から推定するに軌道エレベーターの地上部分にも見える。しかし……全人類が幾多の星系に建造した総ての建造物には似てはいない。地図を見るか?」
ブライは机の上のパソコンを立ち上げ……ある画像を表示した。
「これは軌道上から撮影した画像だ。それに地図化した情報を重ねたモノ」
表示された衛星写真には……遺跡が4つのブロックに分れ、そのブロックごとに尖塔が聳えているのが写っている
しかしそれ以上のことは解らない。
「それに軌道エレベーターの地上部分だとしたらこんなにゴツイ建物にはならない。ゴツイのは衛星側の方で地上部分をゴツくする必要はないからな。まるでバベルの塔みたいだよ。コレは」
全員が黙り込む中でレミだけが違う何かを見つけた。
「ん~? この塔は虹色の湖というか池みたいな所から立ち上がっているのですね?」
指摘されて尖塔の根本をズームアップすると……確かに水面のように見える。そして水面を充しているのは虹色の液体。
「ん……確かに水面に見えるな。だが色は……尖塔の色が反射しているだけかも知れない」
ブライの分析に全員が納得した。
「ついでだ。見てみるか?」ブライはパソコンを操作し、あるフォルダに辿り着いた。
「何ですか? このフォルダ?」ハカセ達は疑問符を瞳に浮かべている。
「前に言っただろ。セルケトによってロックされ、銀河中央政府に送られたらしいデータファイル名が羅列されたテキストデータ。このデータの御陰で親父達が何かを解明したってコトは解るんだが……」
ブライが開いたテキストデータには意味不明な文字が並んでいるだけ。
「遺跡の外観。構造物質。ハミルトニウム。相転移炉。制御方法。同調制御。イノーガ・エレメント……何ですか? この『イノーガ・エレメント』って?」
ハカセに訊かれてブライは両肩を軽く挙げて「知らん」と表現した。
「イノーガってのは『無機質』でエレメントってのは『物体の成分』って意味になるけどな。なんのコトやらさっぱりだ」
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』、『101人の瑠璃』などの後編となります。
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