4.来訪者 3
惑星に残された12人の少年少女の物語
「そんなコトをされて……どうしてその惑星タマジの生産品を? 私達に届けたの?」
『私達……機械にとって人間の行動は不可解です。ですが……時折、私達の判断結果を私達自身が不可解だと思う時があります』
テミスは笑って言葉を続けた。
『私達は……「人間になりたい」と思っているのかも知れません』
「人間に?」
ブライは驚きの声を上げる。
『或いは……人間の行動を理解したいが為に単に模倣しているのかも……ですね』
アルテは黙ってテミスを見ている。
ブライもまたテミスの「気持ち」を推し量るかのようにテミスを見つめていた。
そんな……妙な雰囲気を吹き払うかのように微笑みの表情を繕いながらテミスはある提案をした。
『そうそう。5日後の「戦争」ですが、少しルールを変えたいと思いますが如何でしょう?』
「ルールを?」
「どういう風によ?」
ブライとアルテが問い返す。
『私達のロボットを操作しているのはあのディアナ達です。ディアナ達が申すにはブライ様と心ゆくまで戦いたいと。それも1対1で』
何を言い始めたのかブライには解らなかった。
ディアナ達はと見れば……全員、動きを止めて不敵な笑みでブライを見つめている。まるで……敵か獲物を見つけた野獣のような視線で。
急な動作というか雰囲気の急変にキッズ達やビージー達は息を呑んで見つめていた。
ディアナ達が動作を止めたのは一瞬だけで再び陰のない笑顔へと戻り、キッズ達と遊び始めた。
「そんなのダメよ。こっちはブライ1人。そっちは全部で12体じゃない。ブライの消耗が蓄積していく。段々と激しくなる。厳しくなる。認められないわ」
アルテが素早く提案の欠点を指摘した。
『そうですね。では、最初の戦闘でブライ様が勝ちましたら、そこで勝敗は決定。後はボーナスステージというコトで如何でしょう? さらに1つの戦闘が終りましたらブライ様のダメージはリセットと致しましょう。如何です?』
アルテは考え込んだ。
その条件ならば問題はないかも知れない。だが……何かを見落としているような気もする。
考え込むアルテを微笑んで見つめ、それからテミスは一度ゆっくりと瞳を閉じてから言葉を続けた。
『この「提案」についての疑義、或いはそちらからの提案は……ゆっくりと話し合いましょう。時間はまだあります。通常の戦闘にしたいのであればそれに従います。総ては5日後までの間に……』
テミスは瞳を明け……敵意を露わにした視線を遺跡に向けた。
そして呟くように……不可解な言葉を音声化した。
『私達は……いずれは共にあの遺跡に立ち向わなければならない存在なのですから、その前に……でき得ることは総て行いたいだけです』
「遺跡? なにそれ?」
「遺跡に? 何かあるのか?」
アルテとブライの問い返しにテミスは怪訝な表情を露わにした。
『遺跡のことを……御存知ない?』
さらに問い返す。
ブライとアルテは黙って肯き……そしてセルケトを見た。
テミスがセルケトを見つめていたが故に。
テミスはセルケトを。何故か咎めるような視線で見つめていた。そしてセルケトはまるで罪人のように怯えているように見えた。
『テミス様。それは、そのコトは……私には……』
テミスはセルケトが言いたいことを察知したかのように肯いた。
ただし……責めるような視線をセルケトに注いだまま。
『……私達はやはり機械です。ある「条件」が揃わない限り、ある「行動」を実行しないようにプログラムされている、いえ「指示」されればそれに従う。それだけの存在です』
セルケトはブライとアルテ、そしてテミスの視線から逃れるように視線を砂浜に向けた。
『そしてセルケトに課せられた制約は私には存在しません。私はセルケトが伝えることができない「情報」を皆様に告げることもできます』
『テミス様っ! それは、そのコトはっ!』
セルケトはテミスに懇願していた。まるで罪人が懺悔するかのように。
ブライとアルテは驚いていた。
あれほど穏やかなセルケトが明らかに狼狽している。怯えている。
何故?
ブライとアルテの疑問を払拭するかのようにテミスは言葉を音声化した。
『どうやら「それ」は私が告げるべき情報ではないのでしょう。ならば……』
そして……すくっと立ち上がる。
『私は私の職務を実行するだけ。そしてセルケトはセルケトの職務を実行するだけ』
テミスは遺跡へと視線を戻した。
『少し話が過ぎたようです。私達は戦うモノ同士。いずれは……遺跡で、遺跡の前でお会いするまでの……』
テミスは遺跡を見つめたまま。セルケトは怯えたまま。
そしてブライとアルテは困惑したままだった。
再度テミスが声を発した。
『しかし……セルケト様。そこまで何も話していないとは私にも驚きでした。少しは……ブライ様に話された方がよろしいのでは?』
セルケトは……項垂れていた。
テミスはセルケトを見下すかのように睨み……正面へと視線を正した。
『すみません。やはり……少し言葉が過ぎたようです。機械は同じミスをする。その典型でしょう』
テミスは日傘を広げ、軽く手を上げる。直後にディアナ達はささっと集合した。
まだ遊びたそうなキッズ達を無視して。
『私が今、この場で音声化すべき言葉は1つのようです』
テミスはブライを見つめていた。まるで……母親のように。
『ブライ様。どうか私達と戦って下さいませ。私達が納得するまで、そして……』
テミスはアルテを見つめた。
『アルテ様が納得するまで……戦って下さいませ』
アルテは意味が判らずに困惑している。
そんなアルテの表情を確認して……テミスは目を伏せて微笑んだ。
『では……また5日後に。失礼します』
テミスは一礼し、ディアナ達とともに惑星往還機へと戻り、そして立ち去っていった。
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』などの後編となります。
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