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4.来訪者 2

 惑星に残された12人の少年少女の物語

 程なくして惑星往還機は少し離れた場所に着陸し、中から出て来たのはアンドロイドのテミスとディアナ達だった。

『これはこれはお久しぶりですね。ブライ様。貴方の戦い振りには私もディアナ達も感心しています』

 テミスの後ろに傅くディアナと呼ばれるメイド達は対人戦闘用アンドロイド。それが6体。武器は携帯していないようだが素手で戦って敵う相手ではない。テミスと呼ばれるアンドロイドの戦闘能力がどれほどかは知らないがこの場で実戦となったらブライ達が勝つ見込みは皆無だろう。

「何をしに来たの? 説得ならお断りよ」

 アルテがずいっと前に出て睨む。

『これはアルテ様。貴女の指揮振りも私達は驚きと感心を持って……』

「見え透いた口上はいいわ。用件は何? 実力で「避難」させに来たの?」

 突っ慳貪なアルテの態度にテミスは軽く首を傾げて応じ、ディアナ達に合図を送った。

 ディアナ達は一礼してから惑星往還機へと戻り幾つかの箱を持って出て来た。

『過日の戦闘終了時にお約束した品が揃いましたのでお届けに参りました。もちろん、皆様の本拠地であるホテルの方にお届けに上がったのですが、皆様がこちらだと聞きまして、こちらに届けた方が良いと思われる品を持参した次第です』

 テミス達が持ってきたのは……確かトマが望んだ「でっかい骨付き肉」だった。


 バーベキュー調理セットを使ってディアナ達が焼いた骨付き肉を手に取りながらもアルテは怪訝な面持ちのまま。当然ながらブライやレミ、ラミも。そしてビージー達も程よく焼かれた骨付き肉を手に持ち、複雑な表情で矯めつ眇めつ睨んでいる。キッズ達は食べたそうにしているがアルテが口にしないので唾を飲んで我慢している。

 セルケトはテミスとアルテ達の間でどうしていいか解らずに困惑していた。

『何か仕込まれているとでも? イシスの名にかけて何も入っていないと宣言致します』

 片手を挙げて宣誓するかのようなテミスの言葉にブライは「ならば」と喰らいついた。

「ち、ちょっと。ブライ、大丈夫なの?」

「ん? 『イシスの名にかけて』と宣言したなら問題ないだろ? ……んまっ!」

 ブライの声にいち早く反応したのはキッズ達。即座に手に持つ骨付き肉に食い付き、歓喜の声を上げている。そしてビージー達やレミやラミも「美味しい」と声を上げた。

「あのさ。前から気になっていたけど『イシス』って何なのよ?」

「知らないのか? 『イシス』ってのはセルケトやテミスにとっての大偉人。いや機械だから偉人ってのはおかしいな。……まあ、とにかくそういう存在だ」

 ブライの説明にテミスは誇らしげに微笑み、セルケトは何故か視線を下げた。

 そしてアルテは怪訝そうな表情をさらに曇らせる。

「そうなの?」

「ああ。セルケトのようなアクエリア型移民船の前……えーと。カルネアデス型移民船の時代。移民というか植民というか、とにかくそれ自体の成功確率が50%程度で移民船の移動能力も目標となった星系に辿り着くのが精一杯で余力は皆無という時代に……確か廃棄された宇宙船とかコスモゲートとかを見つけては自分の船を移動中に改造し、12の星系を渡り歩いてまで移民に適した星を見つけて植民を成功させ、さらには5つの星系を改造して合計6つもの星系に植民を成功させた……伝説の移民船統括コンピューター。実際には総てはある植物学者の指示だったというオチはあるが……セルケトやテミスにとっては大偉人だろう。そいつの名を出して宣言するなら信頼するし信用もするさ」

 アルテはまだ信じられないという表情で持っている骨付き肉を見ている。

「実際、テミスが姑息な手を使うのだったら『戦争』で使うだろ? 『戦争とは相互信頼の上に行う最も野蛮な行為』だと誰かが言っていたぜ。信用できなくてもだ、少なくとも信頼はするべきだ」

「なによ、それ。意味わかんないわよっ!」

 アルテはブライを睨んでから決意したようで「解ったわよ。食べれば良いんでしょっ!」と骨付き肉に齧り付いた。

 直後。

 アルテは表情を綻ばせて「あら。美味しいじゃない」と声にしてしまった。

『喜んで戴いて何よりです。その肉は私が移民船としての職務を全うした星、タマジ星の特産物である『跳び牛の骨付き腿肉』です。タマジ星の民も喜ばれるでしょう』

 テミスは満面の笑みになっていた。

『他にも色々と特産品、野菜や海産物も持参しております。皆様で楽しんで下さいませ』

 テミスの言葉に皆は歓喜の声を上げた。


 皆がテミスの贈り物に喜び、楽しんだ後。

 アルテとブライ、そしてセルケトはテミスと並んでパラソルの下に座って海を見ていた。

 他の皆は……作業ロボット達やディアナ達とビーチバレーのようなゲームで遊んでいる。

「アンタ……移民船だったの?」

 まだアルテは疑うような視線のまま尋ねた。

『ええ。私はかのイシス様から直接、記憶を受け継いだ最後の機体だと……私の記憶にはあります。そして移民を成功させ……暇を出されてしまいました』

 少し寂しそうだとブライは思った。

『私が担当した星系は資源を始めとする幾多の条件に恵まれていましたから……イシス様から受け継いだ移民プログラム、アクエリア・プランが優れていた所為もあったのでしょう。あっという間に文明を発展させ、自ら大型コスモゲートを建造するまでに至りました。銀河中央政府とダイレクト接続するほどのコスモゲートを。そうなれば……』

 テミスは一度言葉を切って……遥か上空の2つの月と化している移民船セルケトと宇宙戦艦テミスを見上げ、ひらりと手で指し示してから言葉を続けた。

『小型宇宙船程度しか離発着できない小型コスモゲートを内蔵する私達、アクエリア型タイプ2の移民船は……さほど存在する必要性はありません。それで私の所属は惑星タマジから銀河中央政府へと移籍することとなりました』

 アルテは疑う視線を止め……痛ましい何かを見るような視線へと変わっていた。


 この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』などの後編となります。

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