3.束の間の休息 3
惑星に残された12人の少年少女の物語
ブライは反論というか言い繕いながら、そういえばハカセは11次入植隊で……その時は移動中のコスモゲートを借りて大型宇宙船ごと冷凍睡眠無しに空間跳躍させて来たんだよな。と思い出した。
そのコスモゲートは自ら空間跳躍し、発注した星系に届けられた。そのハカセ達を運んできた宇宙船も別の星系へと届けられて、今は観光船として働いているはずだ。
……ブライは自分でも要らない知識を詰めこまれていると実感し、軽い虚脱感に浸ってしまった。
「そうだとしてもボクとブライさんでは基礎知識の差は歴然としています。ボクは……早くいろんな知識を積み上げて知識の境界の端に辿り着きたいだけです。アカシックレコードなるモノが存在するのであればそこに辿り着きたい。それだけです」
ブライは「解ったよ」と溜息を声にして返しておいた。
「ブライさんこそ泳がないんですか? 折角、海に来たというのに」
ブライは心の中で「それをオマエが言うのか?」と思ったが声には出さずに起き上がって皆を見た。
遠浅の湾。波は穏やかで、遠くまで行っても足がつくほどの浅い湾。そんな海ではしゃいでいるアルテ、レミ、ラミ達を人魚のように幻視してしまう。
トマを玩具にして世話を焼いたりしているビージー達や、ちょこちょこと視界に割り込むキッズ達が邪魔だと何気に思う自分の心の浅さと、いやいや、ビージー達も成長が……と余計なことを考えてしまう妙な心の動きと、それにしても色違いというか彩色デザイン違いでもセパレートとかいうスクール水着っぽい同じ形状の水着というヤツはそれぞれの成長の具合をくっきりと際立たせ、アルテが背の高さに比例した胸のボリュームなのは当然として、自分より若干背が低いレミがアルテと同じボリュームなのは神様の悪戯なのか、いやいや、ラミは背に比例したボリュームであるのに視線を集める作用があるのはやはり形で……と要らぬ分析を本能のままに暴走気味に進める思考回路を無理矢理に停止させ、それでも『もっと詳細な分析をっ!』と抗議し、実行しようとする煩悩の捕縛を理性らしきモノに脳内で命じてから、不自然に視線を逸らした。
薄いブルーの先に白い砂州が煌めき……その先のコバルトブルーの海の水平線。その上に浮かぶように見える遺跡が虹色に煌めいている。
「オレはカナヅチだ。泳げないんだよ」
「本当ですか?」
ハカセが視線を液晶から外してブライを見た。
思いの外に意外だったようだ。
そういえばハカセはコロニーからではなく別の星系の惑星からここに来たのだなと思いだしてブライは説明を続けた。
「ああ。コロニー育ちは大抵カナヅチだ。知ってるか? コロニーの海は宇宙からの粒子線防御も兼ねているからな。誰も進んで泳ごうとはしない」
「本当ですか? 中性子線の防御に使っても放射能があるという訳では……」
「そう。迷信さ。原子炉の中性子線遮断と同じ原理と言うだけで海が放射線を放出する訳じゃない。でも心理的には……というだけさ」
「でも……アルテさんは泳ぐのが好きなようですけど?」
アルテの様子はを見ると……泳ぐというよりははしゃいで誰彼と無く水をばしゃぱしゃとかけ合っていた。
「アイツもカナヅチだ。多少は泳げるが足のつく場所じゃないとダメ」
と、その言葉を証明するかのようにちょっとした深みに足を入れてしまったようで「ぎゃあっ」と悲鳴を上げて波打ち際まで凄まじい速度で泳いで戻っている。
「超高速……犬かきですね」
ブライも苦笑いする。
「ま、そういう前にオレは腕とか足の傷が染みて入れないだけだ」
ゴロリと横になるブライの腕や足にはニードルセンサーが刺さった後が無数に残っている。
「……すみません」
「ん? 何を謝ることがある?」
「ボクがもう少し射撃の腕が上がれば……ブライさんにそんな思いをさせなくてすみますから……」
ブライは「そんなコトを考えていたのか?」と軽く流そうと思ったが、ハカセの表情には真剣さが浮かんでいる。
「バーカ。オマエの腕が上がろうが、上がるまいがオレの腕とかの傷は減りも増えもしない。操作方法なんだからな」
敢えてもっと軽く受け流す。ハカセも「そうでしたね」と微笑した。
「でも……少し変だと思う時があるんです」
ハカセが少し離れた場所にいるセルケトを気にしながら聞こえないであろう音量でブライに囁いた。
「何が?」
「あの……「戦争」をしている時、ボクの感覚では外したと思った時でも……敵にヒットするというか……なんか感覚がずれる時があるんです」
同じ感覚はブライにもある。いや、在ったと言うべきかなとブライは思い直した。
始めた時に同じ感覚があった。それ故にダイブインという直接コントロールする方法を選択して……今に至っている。
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』などの後編となります。
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