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3.束の間の休息 2

 惑星に残された12人の少年少女の物語

 実際の所、ハカセの知識と知能は何処の惑星の大学でも入学を認めるレベルに達している。

 ブライは黙って自分のヘッドホンに集中することにした。


 そして「戦争」が無ければ夕方からは自由時間。

 リビングルームで星系間通信……超次元通信で他の惑星で流れている数日から数ヶ月遅れのTV放送や映画を観たり、或いはゲームなどをして過ごし、コックロボットが作った夕食を食べ、再び自由時間で映画を観たりゲームを見たり。

 時には映画に嵌ったキッズ達相手に小芝居などの相手をする。

 特にトマは正義感が強いらしく、いつも保安官みたいな役になりたがる。それに付合い、悪役を演じたり、無力な市民を演じたり。

 トマの配役ではブライはいつも悪役なので疲れること夥しい。

 そんな風に時間を過ごし風呂に入って床につく。

 それがブライ達の日常だった。


 だが……夜になればアルテ達には別の仕事がある。

 毎晩ではないにしろキッズ達は夜になれば寂しがり、寝付かせるのに苦労するコトもある。やはり子供は子供なのだ。ビージー達もキッズほどではないにしろ、時には寂しがってアルテの手を焼かせる時もある。

 もちろんレミやラミも手伝うのだが大抵はアルテが全てを引き受けている。

 そしてセルケトも。

 実際、最年少のトマはセルケトに隙あらばまとわりついている。だが当のセルケトはアルテやレミやラミが代わりに接するとすっと空気のようにいつの間にか離れる。

 トマにはそれが不満のようだった。

 それでも……平穏な日々だと言えただろう。

 3つ目の「月」が現れるまでの日常は。



 完全勝利の戦争の2日後。

 アルテ達は海にいた。

「たまには休みの日があっても良いじゃない?」

 と、朝一番にアルテが提案し、ハカセが反対しブライが棄権、残り全部が賛成。結果として賛成多数で決定した。

 ロボットカーに分乗して約1時間。

 今は惑星ルクソルに12人の子供しかいなくても近くの旧市街には数十万人が住んでいた。歴史を紐解けば惑星全土で数千万人が住んでいた時代もあった。

 海までの道は舗装されていて、実に快適である。

 途中のゴーストタウンと化した旧市街で全員が神妙な面持ちになったのを除けば……だが。


 それでも砂浜に着けば全員が目を輝かせた。

 そしてパーカーを脱ぎ捨てたアルテ達の水着姿は……ブライには閃光のように眩しすぎ……鼻血を出して倒れてしまった。


 そして今……ブライはパラソルの下で横になっている。

 少し離れた場所で日傘を差したセルケトと無骨な作業ロボットが皆を見守り、コックロボットが食事の準備をしている。

 ブライの横にはハカセしかいない。海に来てまで勉強することは無かろうにポータブル・コンピューターとヘッドホンで勉学に勤しんでいた。

「オマエ……楽しいか?」

 ブライが駄目を押すかのように呆れた口調で尋ねる。

「楽しいとか楽しくないとかではなく、勉強はボクの責務です。存在理由です。唯一にして無二の行動原理です。気にしないで下さい」

 それはたぶん……原因不明の疫病を誰の手でもなく自らの手で解決したいというコトなのだろう。液晶画面には「疫学」とか「微生物学」などの単語が時折現れてはスクロールされて消えていく。

「ボクはブライさんと違って……」

 ハカセが呟く。

「冷凍睡眠で詰めこまれた知識がありませんから、自分で溜め込むしかないんです」

 ブライ達は惑星往還機型の小型宇宙船に乗り、1年間ほど冷凍睡眠されてこの星、というか移民船セルケト内部の小型コスモゲートに辿り着いた。その1年間、冷凍睡眠している間に睡眠学習で様々な知識が詰めこまれていた。それは両親共に科学者だったという所為もあるだろう。

 ついでにブライは子供の頃の経験が副作用として現れ、さらに半年ほど眠っていた。当然ながらその間も睡眠学習でさらに知識を詰めこまれている。そう言えば子供の頃の「事故」で眠っていた1年間も強制的に睡眠学習されていたなと余計なことも思い出した。

「とは言え、アルテは詰めこまれていないぞ」

 反論しながらもアルテの両親も共に科学者だったことを思い出し、単に家風というか教育方針の違いだろうなと改めて思った。

「ま、総ての冷凍睡眠経験者がそういう状態じゃないさ」


 この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』などの後編となります。

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