3.束の間の休息 1
惑星に残された12人の少年少女の物語
3.束の間の休息
翌日。
ブライ達はロボット達と共に農場で朝の作業をしていた。
戦闘シミュレーションをしている筐体も元々は大型汎用作業ロボット操作のシミュレーション訓練用の筐体。
その結果としてキッズ達も難なくロボットを操作して働いている。
とはいえ……ヒューマノイド型ロボットの背中で操作しているキッズ達の姿は傍目には作業用ロボットに背負われているとしか見えなかった。
もちろん、キッズ達が操作しているロボットもオートモードにすれば全ての作業を自律行動で行う。全てをロボット達に任せても良いのだが、やはりそれでは教育上よろしくないというアルテの意見により皆で働いている。
実際、ビージー達の中のアキなどは農家の娘だったので自分から「働きたい」と申し出ていたし、全員が自分達の口に入るのを作り育てるというのは貴重な体験だ。
「今回の早生のジャガイモは良い出来ね」
自分が運転してきた無限軌道式トラクタ型ロボットのエンジンを止め、倉庫に運び入れた採り立てのジャガイモを手にとってアルテは上機嫌だ。
「ああ。やっと馴れてきたからな。最初は不作続きでどうなるコトやらと思ったが……なんとか機械任せよりは良いものになってきているな」
ブライはジャガイモが入った箱を積み上げてから、乗ってきた車輪式トラクター型作業ロボットの操作をオートにする。
途端に自律モードの証であるブルーに輝くメインカメラが周囲を確認し、残りの作物を倉庫に運び入れるべくサスペンションを軋ませながら圃場へとタイヤを進めていく。
周囲を監視するカメラレンズは機体の数箇所についている。間違っても衝突することは有り得ない。
「骨董品もあるけど無事に動いているな」
倉庫の中を見渡す。
親達が研究所として使っていた時は閑散としていた倉庫の中には収穫したイモやら、作業ロボットのメンテ機器が並んでいて、昔を……親達が生きていた頃のことを思い出すこともなくなった。
「そうね。第10次入植隊からのモノもちゃんと動いている。ロボット達に感謝すべきね」
アルテとブライは第12次入植隊。
ビージー達は大体が11次入植隊。そしてキッズ達は第10次入植隊の子供。つまりキッズ達はこの星で生まれた第一世代。言わば惑星ルクソルの正統なる申し子と言える。
「あの子達が……大人になるまで頑張らないとね」
キッズ達を見つめるアルテの姿はまるで母親のようだとブライは感じていた。
朝から働き、午前の残りと昼を挟んでの午後は勉強時間である。
無論、進んで勉強したがるのはハカセぐらいのもので他は皆嫌がる。
「あのね? しっかり勉強していろんな事を覚えなきゃ大人になった時に苦労するわよ」
アルテはここでも仕切る。
「大人になってどんな時に苦労するの?」
「え~と。それはその……」
トマの素朴な疑問にはアルテも口籠もってしまうのだが。
「いろんな機械の操作方法。宇宙船も機械の1つ。その仕組みが判らないと操作できまい? 場合によっては非常事態の対処方法。そして……」
ブライが皆の顔を見渡してから続きを声にする。
「……場合によっては何処かの医者か学者が原因不明の疫病の治療方法を見つけても理解できなければ実行することができない。違うか?」
ブライ自身がコロニーの緊急時に遭遇し、生き延びたことは皆が知っている。そして疫病に関しては全員が同じ思いを持っている。
全員が黙って肯き、勉強に勤しんだ。
……が、持続しないのは子供である故に必然である。
全員がヘッドホンでそれぞれのレベルに応じた授業を受けていてもキッズ達には緊張感は続かない。特に午後は朝に働いたことと昼御飯を食べたことも相まって大抵は1時間ほどで夢の中……となってしまう。
「ま、仕方ないわよね」
アルテも苦笑いするしかない。
「気にする必要はありません。ボク達が着けているヘッドホンには脳波測定センサーが組み込まれています。睡眠に陥ると同時に睡眠学習モードに切り替わりますから。キッズ達も他の惑星の同学年には引けを取らない成績であることは明白です。ボク達はきちんとボク達ができることを成し得ましょう」
ハカセの意見にはブライ達は頭が下がる。
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』などの後編となります。
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