1.完全なる戦争 1
惑星に残された12人の少年少女の物語
1.完全なる戦争
「空が青いな」
意味もなくブライは呟いた。
斜面にウォーマシンと呼んでいる機体を預けて空を見上げている。
「こら。ブライっ! さぼってないでちゃんとしなさいっ!」
怒鳴っているのは斜面の上、丘の頂上に陣取っているアルテだ。
インカムを通じた声だが実際のところ直接、響いているように感じている。
「はいはい。それにしてもだ」
「なによ?」
「機械の身体だと色っぽくも何ともねぇな」
数瞬後、ブライの顔面に岩のシルエットが黒い影を落とした。
「……下らないこと言ってると岩落とすわよ」
「落としてから言うなっ!」
ブライは機体の顔面に落下した岩を払い除けてから叫んだ。
「有言実行よっ!」
「なんだそれはっ? 意味と時系列が違うだろうがっ!」
「気付け薬よっ! それぐらいじゃ何のダメージもないでしょっ?」
「これぐらいでダメージを受けるかっ! って、それが問題じゃねぇよっ!」
「2人とも、じゃれるのはそこまでにして下さい」
冷静な声で割り込んできたのはクダン。通称ハカセだ。
「なんだ?」
「時間です。敵の配置は右舷に4体、左舷に3体、中央に5体。それぞれに長距離砲と狙撃砲、そして白兵戦用の機体。左舷はそれぞれ1体ずつ。右舷は長距離砲が2体、中央に白兵戦と狙撃砲が2体。典型的な防御陣形ですね」
右舷左舷と言い分けてはいるが別に船に乗っている訳ではない。共通座標としてそれぞれのモニターに表示されているだけだ。
それでも位置は判りやすい。
「じゃ、いつものとおりでいいな」
「ブライ? それはアタシの台詞」
はいはい。と心の中で呟いてからブライはいつもの配置である正面に陣取った。
「行くわよっ! ショットガン・フォーメーションAっ! 今度も敵を瞬殺よっ!」
「おうっ!」
「はぁい」
「ふい~」
「ほ~い」
ブライは気の抜けた返事をする最後方の機体をチラリと見る。
長距離砲の機体を操っているのは「キッズ」部隊。
最年長で9歳のユミ。その次が8歳のマユとユマ。どん尻が7歳のトマ。女の子が3人、男の子が1人の戦力としてはアテにしていない部隊。
年齢的に白兵戦には向いていないから長距離砲を搭載した機体をあてがっている。
「いいですか? ブライさん。頼みますからあまり動き回らないで下さい」
生意気な口を利くのはハカセことクダン。
「今度こそ僕達、スナイパー部隊が全滅させますから」
「そうなのかな?」
「そだね。たまにはスコアを稼がないとネ」
「スコアがたまったらドレスを買って貰うんだヨ」
戦場に似つかわしくないことを言い合っているのはアルテのやや後方にいる「ビージー」部隊。
ボーイ&ガールの略で適当につけた部隊名だ。
部隊の最年長がユキの13歳、その次がクダンで12歳。以下、マキの11歳、アキ10歳と続いている。
コイツらも白兵戦を任せられるほどではないので中距離砲である狙撃砲を搭載した機体を任せている。
「ふあ。また戦うのですか? できれば避けたいものなのです」
「何、寝惚けたことを言ってんのよ。レミ。しっかりしなさいよ」
いつの間にかブライの左右にいるのはレミとラミの共に15歳の双子の姉妹。
両腕に短距離砲であるガトリング砲を装備した白兵専用の機体なのだが、今の所ブライは基本的に当てにしていない。
他に白兵専用の機体に搭乗しているのは15歳のブライと16歳のアルテ。
4人でコンバット部隊となってはいるがアルテは大将で後方にいるだけなので戦力として……当てになる訳がない。
「信じられるのは己だけ……ってか」
ブライが呟いた時、前方の地面が破裂する。
「着弾っ! 距離至近っ!」
ハカセの声に被せてアルテが叫ぶ。
「宣戦布告無しの攻撃は戦法違反よっ!」
「相手もいい加減飽きてんだろっ!」
ブライは叫びながら粉塵の中へと身を投じた。
この小説は『イシスの記憶』、『ラプラスの魔女』などの後編となります。
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