表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Re : 浄罪師  作者: 弓月斜
3/3

鴉ノ神社

あの夜から、蒼は眠れなくなった。

目を閉じると、黒い魂が浮かぶ。

耳を塞いでも、女の声が離れない。

――覚悟ができたら、鴉ノ神社に来なさい。

学校へ向かう途中、いつもの風景が違って見えた。

人の中に、うっすらと滲む“影”。

以前より、はっきりと感じ取れる。

(……近づいてる)

罪が増えている。

世界が、確実に壊れていっている。

蒼は迷った末、電車を乗り継いだ。

人通りの少ない駅で降り、地図アプリを何度も確認する。

――圏外。

「……だよな」

森の入口に立った瞬間、空気が変わった。

音が吸い込まれたように消え、代わりに羽音が聞こえる。

バサ、バサ、と。

獣道の先に、古びた鳥居が現れた。

赤は剥げ、柱には無数の傷。

まるで、何かが何度も引っ掻いたような痕。

(ここだ……)

境内に足を踏み入れた瞬間、胸が締め付けられた。

罪の気配が、濃い。

「逃げなかったのね」

声がした。

社殿の前に、あの女が立っていた。

鎌を肩に担ぎ、相変わらず無表情だ。

「来ると思ってた?」

「……半分。来ないで壊れる可能性の方が高かったけど」

淡々とした言い方が、逆に怖い。

「あなたは……何者なんですか」

蒼の問いに、女は少しだけ間を置いた。

「浄罪師。

罪を浄めて、魂を輪廻に還す者」

「でも……殺人は」

「例外」

きっぱりと言い切る。

「殺人の罪は重すぎる。

浄化すれば、世界の方が耐えられない」

蒼は唇を噛んだ。

「じゃあ……あの人たちはどうなるんですか」

「裁かれるか、壊れるか、誰かに殺されるか」

あまりに現実的な答えだった。

「……それって」

「残酷? 不公平?」

女は蒼を真っ直ぐ見た。

「でもね、あなたも気づいてるでしょう。

放っておいたら、もっと人が死ぬ」

言い返せなかった。

「あなたは特異点よ」

女は続ける。

「殺人者の魂が“視える”人間なんて、久しぶり」

「久しぶり……?」

「前にいたのは、三百年前」

蒼の背筋が冷えた。

「あなたは選ばれてる。

望んでなくても」

「……選ばれたくなんてない」

本音だった。

女は少しだけ、目を細めた。

「分かってる。でもね」

彼女は鎌の柄を地面に突いた。

「選ばれなかった人間は、ただ殺される側になる」

境内の奥から、呻き声が響いた。

蒼は振り向く。

影が、蠢いていた。

「来るわよ」

女は構える。

「今日は見せるだけ。

あなたが“関わる覚悟”を決めるかどうか」

蒼の心臓が、嫌な音を立てて鳴った。

逃げれば、今まで通りの日常に戻れる。

でも、その先にあるのは――。

(……母さん)

蒼は、一歩前に出た。

それを見て、女は小さく笑った。

「ようやくね」

鴉が一斉に羽ばたく。

――ここから先は、もう後戻りできない。

蒼は知らなかった。

この選択が、自分を“裁く側”へ引きずり込む第一歩になることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ