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40.その後のセレシオン・ピープル

 

「最初は全部一緒だったんだ、青い点」

「え?」


「おかあさん、俺が説明するよ。

 青い点なんだけど、最初は重なっていたんだ、それがね、ちょっとね」

 岩崎が隣でうんうんと首を縦に振っている。


「うん、わかった、続けて」

「九月四日だね、ね? 岩崎さん?」

「だ」

「四日には、集まっていた青い点の南西の方が、すごい勢いで四散し始めたんだ。ひとつの点もあったし、十個以上もあった。

 僕たちはいろいろ可能性を話したんだよね。僕は、魔獣に襲われたとかそういうのを考えたんだけど、先輩はマンション転移なら、マンションに籠っていればいいから、外部から襲われたというのは違うんじゃないかって」

「なるほどねぇ」


「あまりいい話じゃないよ?」

「うん、わかる気がする。文さんとも話し合ったのよね。一番怖いのは魔獣なんかじゃない、人間だって」

「うん。ね?」

「内輪もめ。殺人、強盗、強姦」

「だろうね、だろうと思うわ」


 五人は、思わず空の星を見あげた。どれが地球なのか、そもそも太陽系がこの夜空に含まれているのかすらわからない。ここがどこなのか、未来があるのかどうかも。

 しかしながら。今日を生きている自分は死が訪れるまで生き続けるしかない。星の直径を計り、地図を描き、湖に、河に、沼に、山に海に、そして植物や動物ひとつずつに名をつけるのだ。

 生きている限り未来を残せるように力を振り絞るしかない。それが生ある者の定めだ。



 久美が穏やかな口調で話し始めた。

「文さんがね、こっちに来てから言っていたことがあるの。

 自分はただの会社員だ。毎日ビルやらホテルやらの図面を引いたり、珍しいところでは客船の間取り設計をしたりしていた。客船の厨房設計とか、面白かったねぇ。船が相当揺れても、食器が落ちないように枠をつけたりね。それを好きでやっていたけどね、一番やってみたかったのは、宇宙船の間取り設計だったよ。映画に出てくるような恒星間をワープで移動するような。でも、そんな必要なかったよ。知らないうちに宇宙旅行して、目がさめた時には旅行を味わう暇もなく終わってた、って」


「私は、残念だったわねとか半分呆れてからかうように言ったんだけど。文さんはね、ひとりで来て、残してきた家族を心配しているより絶対にこの方がいい、未知に立ち向かうのには家族が一緒に居て、護ったり助けられたりする方が生存確率が上がる、とか言うの。言い方はちょっとどうかと思うけど、気持ちは同じよ」


 五人は夜空を見上げる。

 久美の言うことは突拍子もない。でも、転移なんて。

 計画して実行した何物かには、何か理由があるのだろう。どうだろう? あるといい、遊びじゃなければいい、いや、これを遊びでできる存在なら、おもちゃにされても仕方がないのかもしれない。


 違う人たちも来たようだ。彼らにもタブレットがあるとすれば、きっと第二グループとか、第二次移民とか書かれているのだろう。いつか長い旅路の果てに、彼らの内の誰かに出会うこともあるかもしれない。いや、もっとたくさんの人たちが、突然強制転移されて来るかもしれないではないか。





 成島の朝は、笹祐介とそのダンシング・チームのストレッチと筋トレの掛け声で始まる。彼はすでに時々テントで寝ている。朝起きるのも一番乗りだ。

「レディース・アーンド・ジェントルメン、今日もいい天気だ、畑に麦を撒こうぜ、イエイ。まずはストレッチからだ」


 新兵訓練CDの気合いの入った掛け声とともに朝を迎え、犬と一緒に散歩に来た人も犬を解き放ってストレッチに参加する。この後は朝食タイム、それから今日の組合プログラムに参加登録して、セレシオンの北で麦畑とトウモロコシ畑の面倒を見る。

 組合プログラムは九時から十二時だから、あとは自由時間だ。家庭菜園で収穫するもよし、歩き始めた美緒の手を引いて成島川に遊びに行くのもいい。ここの生活は娘を育てるには悪くないんじゃないかなんて、笹祐介こと登別宥佑は今までチラとすら思ってもみなかったことを考え始めていた。





 新しく来たふたつのグループの、人口の推移がわかる権能を持っている長谷川の毎日は、大概ではないほど辛かった。何しろ、毎日のように人の数が減るのだから。

 長谷部と連れ合いは子には恵まれなかったが、夫婦仲は良好で、一緒に美輝星に来ていた。

 連れ合いは、耐えかねて涙を流している百合子を抱きしめる。

「百合子、もうその権能を公開してはどうだ」

「え? 公開?」

「ああ、ひとりで抱えていないで、セレシオンのマップに毎日書き加えて、哀しい気持ちを共有したらどうだ」

「え、うん。 少し考えさせて?」


 翌日の早朝ミーティングで委員会にこの権能について説明、さすがにみんな黙り込んだ。


「そうでしたか、ここは本当に珍しいケースになっているんですね」

「ええ、この第二次集団が来るまでは、何かの冗談か、トリックかもしれないから騒ぎ立てないようにしようと思っていました。でも、もうこれは」

「そうでしたか、これはどうも現実らしいですよね。

 皆さん、公開でいいですか?」


「そうですなあ、この情報へのアクセス権があるのが長谷川さんだけとは限りません。その方も苦しんでおいでかも知れませんでのう、もう今すぐ書いてしまいましょう」


 長谷川は涙を押さえながらも、ほっとしていた。





 鷺沼では、アンが蚊遣りを炊くという技を会得した。拡げた炭火で採取してきた青い薬草を焚き、煙を出すことである程度虫を寄せ付けないでいることができる。薬草情報は、植物の全アクセス権を獲得した後、地球・太陽系で、地球で使われていた虫よけ効果がある植物を記憶に頼って検索、それと似た成分を持つ植物をピエール・キュリの鑑定・分析で探し出したのだ。


 ジョイックは、鳥の卵を“巧みに盗む”ところから始めている。鳥の巣にそっと近づき、偽の卵として木を滑らかな卵型に削った物を置いて、孵りかけている卵を頂戴してくるのだ。熟練の技が必要な作業で、やりかたは知っていてもなかなか成功しない。しかし、卵を得るためにも、肥料を作るためにも鳥を卵から孵して最初はヒナにインプリンティングしたい。

 学者の本能みたいなものだが、まずは、その性質があるかどうかを確認しなくてはおさまらない。ジョイックは諦めることなく技を磨いて、たまに親鳥に頭を突つかれていた。


 鳥の羽はなかなか増えない。昆虫や魚で五十種類を満たすことができるかと思ったが、それはできなかった。おそらく、鳥で五十に達した時、次のアクセス権が出るのだろう。

 ジョイックは辛抱強く登録を続けている。


 稲籾は撒き終わり、今は早苗を育てている。鳥の食害から実を守るためにまず小さな面積で籾を増やす。本格的な田をつくるのはその次になるだろう。この鳥の多い場所でどこまで米を守れるか、実に不安だ。霞網程度ではどうにもならないかもしれない、まあ、やるだけやってみようではないか。いつか一面に実った稲の垂れ穂を刈り取る日を夢に見て。





 奈加野に猫が運ばれてきた。

 高校生と中学生がワクワクしている。いつ生まれるかなー、が合言葉だ。四人いるので、四匹生まれてくれないと名付け権をじゃんけんで決めることになるだろう。


 建築技術と建築資材、建築機械の支援アクセス権を持つ文人は、図面を引いて必要な資材と機械の見積もりを始めた。何軒建てることになるかもわからないから、できるだけ経済的な建て方を工夫している。ここで成功すれば、鷺沼とセレシオンで個別住宅を建てることができるだろう。百億円など、家を建てているだけであっという間になくなる。橋も、できれば船だって作りたいけれども、まずは安全に生活できるようにすることだ。


 他に建築の支援アクセス権を持っている人がいればな、助かるけどな、と図面と計算機から目を上げて中空を見る。




 惑星美輝に強制移動された人々は、この後順次、最終的にはおよそ一千万の人類が移住させられてくることをまだ知らない。そしてそれを知る美希と天音、そして今はマリエッテも、アイザックを通じて必死の支援をしていることも。


 ふたりは、一定期間が過ぎたら、アイザックの支援は終了することを知っている。だから、短時間で有効な支援を探し求めている。マリエッテがブレイン・ストーミングに参加するようになったから、彼女の所属する集団が落ち着けば、もっと多彩なアイディアが出るようになるだろう。


 移住第一世代に課せられているのは、ただ生き残ることだけだ。だが、人ははるか未来が“変化すること”を考えに入れて生きることができる動物だ。第一世代、第二世代までは東京を、その巨大な社会システムを知っている。だが、第三世代は、美輝星しか知らないで生きて行く。

 彼らは故郷を地球と定め、そこへの帰還を未来へ託すだろうか、それとも、自分たちは地球という惑星から来たという事実を伝説に変えて、ここで文明を築き直すのだろうか。



 十の惑星で起こっていることは、ヒトが思い至るも難しいほどの広い範囲に情報共有されている。中でも生存率が九十九%を越えている惑星美輝第一次移民集団は、彼らの特別な興味を引いている。


辛抱強くお読みいただいて、本当にありがとうございました!

えーっと、kasasagiという、何人の方がお読みくださったかわかるシステムがありまして


それによると、大体10人くらい、多い日で20人くらいの方々が、アップして直ちに読んでくださっているようでした

えーっと、パソによる外部通信とヒジョーに仲が悪くて、静電気体質とか、どうやったらそういう操作ができるかの方がわかんねーとか言われている倉名なので

Kasasagiについても十分理解しているとは言えませんが、


この面倒くさいお話を最後まで読んでくださった方が、10人以上もおいでだということで、ありがたいありがたいと、手を合わせています



寛容で気の長い、優しい方々に、何度もお礼を申し上げます

Bravo! Narou People, Grazie, Granite


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