35.訪問者は入植地にたどり着く
栗栖家が残した赤い布を辿りながら、東へ東へと旅をした。道が示されているので迷うことなく一日六時間、二十四キロほどのペースで進み、途中で一日雨休みとなったものの。
十四日目、三人は栗栖くるみと姉に付き合っていた幸人に出会うことができた。
「くるみ!」
「ともか!」
遠くに見えた人影が、親友の智花であることに気が付いたくるみが緩い坂を駆け下りてくる。智花も走りだし、ふたりは荒野の真ん中で伸ばした手を握り合った。
「くるみ!」
「ともか!」
それまで毎日のように学校で、通学路で、マンションで、街で一緒にいて、じゃれ合いしゃべり倒していたふたりは、およそ三カ月ぶりにまた会うことができた。息を弾ませながら荒野の真ん中で両手を握り合っていた。
「元気だった?」
「無事だったんだね、よかった」
ふたりは顔を見合わせて、うふふと笑う。
「ねぇねぇ、こういう時は抱き合って喜ぶんじゃない?」
「日本人だからねぇ」
「そうだよね。映像的に無理だよね」
「だよねー」
幸人がゆっくり歩いて来る。
「坂上さん。遠かったでしょう?」
「うん、まあね。あ、おとうさんと、富田さんの孫の岩崎翔太さんが一緒なんだ」
智花もゆっくりと近付いてきたひとりの大人とひとりの青年を紹介する。
「おとうさん、知ってるよね、栗栖くるみさんです。こちらはくるみの弟の幸人君」
「坂上さん、智花に会わせてくださってありがとう。ユキ挨拶して」
「坂上さん、はじめまして。中川中学二年の栗栖幸人です」
「よろしく、幸人君」
智花がくるみと幸人の手を引いて、若干引き気味の岩崎に近寄る。
「岩崎さん、栗栖くるみさんと栗栖幸人君です」
「うう」
「岩崎さん、栗栖くるみです。よろしくお願いします。こっちは弟の幸人です」
「岩崎です」
「くるみ、岩崎先輩は、対人苦手だから。あまり話すのは上手じゃないけど、フツーにいい人だから。返事は短いし、話しかけてこないけどよくわかってるし、大丈夫だよ」
「うん、わかった、先輩、よろしくです」
隣で幸人も頭を下げる。
「よろしくお願いします」
「ところで、くるみ、あんたここで何やってんの?」
「おかあさんがね、家の周りの植物を全部新規登録しちゃって、私とユキは植物情報アクセス権が取れないのよ、ひどいよね。それでさ、このあたりまでユキとふたりで遠出してきたんだよ、お弁当食べる?」
「うん、それは食べるけど。おとうさん、岩崎さん、ここで休憩いいでしょうか」
お昼休憩をしている間も、ふたりのおしゃべりは止まることがなかった。智花が笹祐介の話題で盛り上げれば、くるみはたどり着いたらすごい家が立っていて、何とお風呂に入れちゃうのだ、驚いたか、と返す。ワクワクの話題を振り合いながらふたりの世界を作り上げている娘たちに、ようやく俊彦が介入した。
「ともちゃん、くるみちゃん、とりあえず栗栖家の新しい家に案内してもらえるとありがたいよ」
「あ、ごめんなさい、すいません。ちょっと喜びすぎました。栗栖家の家というより合宿所みたいな広い建物なんですよ、見たら驚くと思います。
坂上さん、岩崎先輩、歩くとちょっと距離がありますけど、行きましょうか」
ふたりはマウンテンバイクで来たのだった。
幸人が先行して、三人が来たことを知らせる。久美と文人は、ある程度は予期していたものの、実際に坂上家が来たことに大喜びした。一階に十室ほどもある部屋に風を通し、智花のためにはくるみの部屋にベッドを運び込んだ。どうせふたりはどちらかが寝落ちするまでおしゃべりを続けるに決まっている。
智花は、要はそのためだけに三百キロも歩いて来たのだから。
そして、河でとれたマスのような魚を外で焼いて楽しもうと準備を始めた。




