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33.七人は東に移動する

 

 その日、ジョイックはキャンピング・カーに家族を乗せてセレシオン前に現れた。椿がニコニコしながら手を振って迎える。

 翔太と坂上父娘はすでに揃っており、イーストからは寺島・富田・奈良が、ウエストからも刑部、椿、長谷川が揃って見送りに来ていた。話を聞いて、イーストから親しい人たちが、ウエストからもジョイックを知る人たちが三々五々と集まっている。

 家庭菜園内の広場で、歌って踊っていたチーム・サンドロップと参加者たちも、車を見送ることにしたようで、手を振って存在をアピールしている。


「Thank you, everyone. アリガト ミナサン」

 椿が、集まってきた人たちへの説明を引き受けた。ホービックは一年間の予定でセレシオンに暮らしていたが、米作の研究のためにフランス政府から学術補助金を得て日本に来ていたので、幼い子どもたちを連れて現地視察するためにキャンピング・カーを借りていたこと。この度、米作ができるのではないかと思われる湖に目星を付けたので、そちらに拠点を設けたいこと。子どもたちがまだ幼いので、医療のお世話になることも多いだろうから、何度も顔を出すことになるだろうが、どうぞよろしくお願いしたいと言っていること、などをアンとジョイックにもわかりやすい簡単な単語を使ってゆっくりと説明していった。


 次に坂上俊彦が挨拶に立った。 

「皆さん見送りに来てくださって誠にありがとうございます。

 すでにお伝えしていることですが、私は娘を栗栖家に預けたら帰ってきます。岩崎君と娘は栗栖家がすでに到達している、入植支援地に滞在する予定です。

 ホービック教授とご家族は、ここから南東の浅く広い湖で米作りにトライするとのことです。私たちは、そこまでご一緒して、少しお手伝いしようと思います。おふたりには小さなお子さんがおいでですので、落ち着くまでは手助けが必要だと思いますし、私たちも農業について教授に教わるチャンスがあると思っています」


 代表する形で、坂上俊彦が頭を下げる。

 見送りに来ている坂上麗夏は、息子の手を握っている。

「俊さん、気を付けて。智花、栗栖家やホービックさんたちにご迷惑をおかけしないようにね」


「Thank you, thank you, Seleccion people.

 私たちは大丈夫です。ショータとサカガミ・ファミリー、ありがとう。マダム・サカガミ、トモカは立派な婦人です、問題ありません。

 皆さんによいお知らせを残したいです。

 私の専門は農業で、肥料にも関心が強いのです。私たちは、最初の酪農として、鳥を飼おうと思います。

 誰でも、私たちを訪ねてきてください。私たちも、卵を持ってくるつもりです。

 鳥の家畜化に成功したら鳥のヒナを持ってくることができると思います。鳥のフンに植物や土を混ぜればいい肥料になると期待しています。いろいろ実験をしますので、楽しみにしていてください」


 委員会はこの話をあらかじめ聞いており、歓迎していた。卵を自給できるようになれば、食糧支援の1,000yenの使い道も広がる。肥料の研究をしてくれるというならこんなありがたい話はない。

 篠村利理は、農地を走り回る鳥を想像してワクワクしていた。


 ジョイックは丘の上までゆっくりと車を走らせ、栗栖家がしたのと同じように丘の上で一旦停止して窓から身を乗り出してセレシオンを振り向いた。そして、まだ見送っていてくれた隣人に手を振った。


 翔太のマップを頼りに慎重に車を走らせ、沼には一時間ほどで到着した。そこには、美しい風景が広がっていた。

 坂を半分ほど下った時から、湖は背の高い草の影に見え隠れし、聞きなれない鳴き声がしていた。坂を下り切った時、目の前には鳥の楽園があった。視界一杯に拡がる沼のところどころに葦のような草が水草と絡みついて島を作り、セレシオン付近ではほとんど見かけなかった鳥が群れを成していた。大きさも羽の色も多彩で数を数えるのも難しい。


 人を見たことがないのだろう、紫がかったきれいな羽を拡げて、大きな鳥がスッと七人の傍に着地した。首が長く、体高は立っている翔太の胸くらいまである。

「よう、元気か?」

 大きさに圧倒された翔太は、近くまで歩いてきたその鳥に思わず話しかけてしまった。


「おお、これは大変ですね。最初に鳥よけネットを張ることになりますか? アン、どう思います?」

「そうね、全体を把握するところからだけど、まず住めるようにしましょう」

「もっともな意見だ。君は正しい、現実的なところを愛しているよ」

「ジョック、私も愛しているわ」


 アンとジョイックは、まず住むところを定めた。それは、二本の木の間の草地で、ふたりは軽く草を踏み均しキャンピング・カーを停めた。

「コノクルマ、ワンイヤー、レンタル・カー。カンパニー、ロスト ディス。クルマ ココ。トウキョウ ナイ」

 ここでジョイックはにっこりする。


「We live in this car. コノ、クルマ、スム。When コメ、デキル、ログハウス、ツクル。

 We need good luck.」

 坂上俊彦は平然として「それはファンタスティックです。ホエン、youログハウス、ツクル、アイ・ウイル・カム・トウ・ヘルプ・you」 と、カタカナ英語で返事をしている。アンとジョイックはできるだけ日本語で話そうとしているし、俊彦は知る限りの英単語をかき集め、つなぎ合わせている。これでなんとか対話が成り立っているようなのは、お互いに真摯に相手を理解しようとしているからこそだ。ジョイックも俊彦もなかなか思い切りがいい。


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