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挿話:寺島夫妻 (二)

 

 寺島は、タブレットの画面を見る。アクセス権は寺島にとってかなり酷なものだった。リーダーに付与される、特殊なアクセス権だ。

 十の惑星に展開する、十五の移民集団の生存者と死者の数の情報にアクセスできるのは長谷川百合子と同じだが、何故か現在の地球の人口にアクセスできるのだ。それは本当にひどいことだった。

 他に少なくとも十四人にこの権利が付与されているだろうが、ぜひ彼らの誰かと連絡を取りたいものだと思った。


 さらに、特別な支援にアクセスできる権利が表示されている。

 それは、石黒が持つ医療機器支給支援だったり、奈良が持つ植物の種の支給支援だったり、栗栖文雄が持つ土木建築機械材料支給支援だったりするのだが、誰がそれを持つかは表示されていない。

 そして、リーダー権限はそのすべての支援にアクセスできるのだ。金額にも支援期間にも制限はないように見える。


 寺島は、これを使って独裁者になることもできるだろう。だが、彼はそれを選びたくなかった。大学時代にラグビー部のキャプテンを務めた彼にとって、One for all. All for one.は、人生の信条だ。どのようにこの権限を使えば、セレシオンが生き残り、人口を増やしていけるか、その為に、そのためだけに使いたい。



「なあ、紅子」

「なんですか、改まって」

「俺がうっかり死んだらな」

「何を縁起でもないことを」

「いや、立場上な。あとをお前に頼んでいいか」

「え?」


「俺はリーダー権限というのを持っている。継承者は刑部君になっているけどね、訂正、指名できるんだ」

「え、いやですよそんなこと。王制とか独裁制みたいなこと言わないでくださいよ」

「そうだな、もちろん若い人から探すよ、今もその視点は持っているとも。

 だが、まだ見つけられないでいる。決められるまで仮に指名しておいていいか。指名できないまま死んだら、死にきれない」

「はあ、いいですよ。でも私の方が先に死ぬと思いますけどねえ。早く見つけてくださいよ」


「ああ。それじゃあ、この権限がどのくらい大きいか一応教えておこう」

「いいんですか?」

「万一俺が先に死んで、おまえが一時的に継ぐとする。その時はじめてタブレットに権限が出てきたら使い方さえわからないことになる」

「そりゃまあそうですけどね。はあ、ひとりは全員のために、ですか、そんな人見つかりますかね」


「いや、紅子、そうじゃない。俺が死ねば状況は変わる。その時に次の二十年をサポートしていける人を探してもらいたい。いかにもリーダー然としていなくていいんだ。思慮深く、リーダー権限を使った場合の影響力を計ることができて、使ったことを隠せるだけの賢明さがある人がいい。

 言い方は悪いが、こういう権限があることを知ると、人質を取ったり、策に嵌めたりして、権限を自分の為に使わせようとする人が出てくるんだよ。特に継承者の指名権は絶対に隠し通すべきだろうね。

 人の悪意というものは恐ろしいほどのものだけれど、それを“出させない”“思いついても諦めさせる”もっと言うなら“成功体験を積ませない”ようにシステムを整えるのが、“叡智”というものだよ。

 紅子も六法はやっただろう? 憲法も法律もそれを目指して組み立ててあるんだ、勉強したとおりだよ」

「そういえばそうでしたよ。懐かしいと言えばなつかしいですけど、まあ、忘れてはいません」


「ああ、俺をリーダー権限保持者に選んだのが誰だか知らないが、そいつは少し浅慮だった。管理組合の長だから選んだのだろうが、権限の内容を見れば、長の地位にいない方が上手に使えるさ」

「そうですか、それでは説明してください。逆にそれなら私にもできるかもしれません」

「俺もそう思うよ。ゲーム的に言うなら、これは“賢者”のための権限だね。継承者は生まれつきの資質があり、かつ前任者について修行を積めればそれがいいと思うね」


「まあ、本当にゲームのようですね、晃成がやっていたのを思い出しますよ。

 あの子の好みは“さまよえる賢者”でした」

「ああ、そうだったよな、懐かしいねえ」


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