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挿話:寺島夫妻 (一)

 

 寺島夫妻の居間では、コーヒーを前にしみじみとした熟年会話が繰り広げられていた。

「なぁ、登別くんは結構な拾いものだったよな。あれほどみんなの注目を受けて、びくともしないのはもう生まれ持った能力としか言いようがないよ。奥さんが言ったことに納得するねぇ」

「ええ、そうですねぇ、由佳さんはよく支えていますよね」

「そうだねぇ、登別くんがいるというものは何でも準備してやって、ダンス仲間を集めて一緒に練習しているようだねえ」


「まぁ、そこは問題ですけど、それなしにはやっていけないでしょう、あの人は」 

「まあまあ。アーティストとはそういうものじゃないのかい? 能力が特化すればするほど生活力に振られる時間と余裕が低下するのかもしれないよ。サポートしてくれる人がいてこその人気商売だろ?」

「確かにそうですけどねぇ」

 紅子は、尽す妻と享受するだけの夫がお気に召さない様子だ。


「あれでいいんじゃないのか、君は女性である由佳さんが男性である宥佑君を支えるだけなのが気に障っているんだろう? でも、これはたまたまだよ。女性アーティストを支えている男性だっているだろう?」

「そうですねぇ、アーティストに男も女もないですよね」


「まあ、夫婦の在り方もいろいろだろうね。

 もう毎日会社や学校に行くことはなくなったんだ、夫婦の在り方も、家族の関係も急激に変わるだろうね」

「そうでしょうねえ。そもそも日本でも私のような専業主婦は希少種になりはじめていましたものねえ。

 逆に、洗濯も掃除もやったことがないとか、料理のひとつもできない会社人間も生きる道が狭くなるかもしれませんね。なにしろ、もう仕事が忙しくて、という言い訳は存在しないのですからね」



「そう言えば、晃成はどうしているかねぇ」

「そうですね、家族連れで南アメリカに赴任ですからね、急には帰っても来られず情報集めにも苦労したことでしょう」

「元気でいるかねえ」

「もちろんですよ。お嫁さんの里香さんはしっかりした女性です、申し分ありません。家族が一緒なんです、大丈夫ですよ」





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