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25.三日目夜 一〇〇四号室 (一)

このラフな”集まり”の時点では、まだ栗栖家は朝の四時を待っています。食糧支援の1,000yenを残したら、翌日に繰り越されるかどうか確認するためですね


会議の途中から、メンバーの頭が切り替わってこの場所で千人でコミュニティを作って生き延び、次の世代を生き延びさせるために、現世代、転移第一世代はどうすればいいのか、という方向を見ることができるようになります

イーストの寺島、石黒、富田は、下町人情組

ウエストの椿、長谷川、そして刑部は、現代の東京を生きる知識人代表ですね


岩崎翔太が彼らとは違う考え方をするのは、異世界転移というゲーム、ラノベ・コンセプトに日常的に接していて、「イメージ・トレーニング」ができているから。そして、祖父である富田一太郎が全面的に孫を信頼し、ある面で孫に「頼って」おり、さらにタブレット説明会でたくさんの人と接して感謝されたことで、思い切って発言することができます


岩崎翔太のみならず、栗栖幸人や登別宥佑、そして斎藤嘉彦のような人々は、現在置かれている状況に対して「受け入れる力」があり、「強い」と言えるでしょう 

 

富田一太郎   組合管理副委員、イースト

寺島忍     組合管理委員長、イースト

石黒徹也    組合管理副委員長、イースト

椿慎二     組合管理副委員、ウエスト

長谷川百合子  組合管理副委員、ウエスト

斎藤嘉彦    警備会社、夜間派遣員、イースト

岩崎翔太    富田一太郎の娘孫、イースト



 富田の一〇〇四号室にはイースト住民から食品の差し入れが集まっていた。

 タブレットによる食糧支援の説明を終え、一日千円という微妙な金額ではあるが、ペットボトル入りの水と新鮮な食料が手に入ることがわかり、住民はみんな一息ついていた。


「どうもありがとうございます、本当に助かりました」というものから「命が繋がりました、覚悟を決めるところでしたが、これでもうすこし頑張れます」という深刻なものまで、さまざまなお礼の言葉とともに、富田芙美子に様々な食品類が手渡された。


「これで余裕ができました。富田さんと寺島さんは委員会に差し入れしていらっしゃるから、悪くなる前にどうぞ使ってください。冷蔵庫も使えませんので」と持ち込まれる野菜や冷凍麺。


 缶ビール、高級な日本酒、半分に減っているウイスキーなどの酒類は、ご亭主方が酒で現実逃避しないようにとご夫人たちが持参したのだろうと、富田芙美子が笑いながら説明していた。


 芙美子はそれら差し入れ食料を上手に使って、説明会後の夜に集まってくる委員たちのために料理を作り、酒とビールを準備した。

 そして、「寺島さんのところで、女どうしの愚痴を楽しんできますのでね、明日の朝帰ります、ごゆっくり」と言い残して、二十九階まで上がっていった。


「刑部君は、下のお嬢さんの調子が悪くて、夜は奥さまと交代して付き添いたいということです。安中君は、後ほど後藤君と交代で参加してくれます。皆さん、特に岩崎君と斎藤君、今日は大変ご苦労さまでした、ありがとう。さあ、とりあえずお茶で乾杯しましょう」

 ひとまず、お疲れさまと慰労し合い、後は無礼講となった。


 氷がないので、水桶に入れて冷やしておいた缶ビールを「これいいですか」と言いながら手にした椿が口を切る。

「刑部さんの所もですけれど、水洗を詰まらせた人が多いと思います。水洗は流す水の量が少ないと詰まりがちなんですよ」

「あ、なるほど、下の娘さんがそのあたりで失敗しましたかね」

「ええ、おそらく。それでですね、私はまあ、水道局に勤務していることもあってなんとかなりますけど、他にできる人がいるかもしれません。ですので、組合プロジェクトにですね、パイプ詰まりを直すというのと、河から水を運ぶという項目はどうでしょうか。ゲームとかですと、クエストとか言うのではないでしょうか、私もゲームから離れて長いですけど、そんなようなのがあったと覚えています」


「ああ、それはいいですね」

 寺島がポケットからメモ帳とボールペンを出す。

「アイディアがある方、どうぞご自由に、思いついたらいつでもどうぞ。それも明日はチラシを作って、掲示板にも張りますか。いや、仕事は増えるばかりですけれども、皆さんどうぞよろしく、倒れないように体調管理もお願いしますよ」

 笑いながらも、冗談でもないですけどね、本当にお願いしますよと重ねて言う。



 石黒医師は、四階奥の和室で寝起きするようになっているが、日常生活に必要な物すべてを一度に思いつけるわけでもない。下着を洗おうとして洗剤を、本を読もうとして本を、三十階まで取りに行く。


「いやー、何かあれば三十階まで上り下りですよ、堪えます」

 下戸の石黒は酒類に手を出してはいないが、軽口で気分を変えてくれ、医療で頭がいっぱいになりがちの夫を生活面でサポートしてくれる連れ合いが、運悪く転移時に留守で、一緒に来ていないので愚痴も出る。


「そうですな、ここは十階、堺看護士は確か二十階でしたの、皆ご苦労さんです」

「エレベーター、一基でも動かせませんかね」

「いやー、どうだろうなぁ、専門家でないとねぇ」

「最終的には全員に降りてもらうとしても、しばらくはね」

「そうでしょうなぁ、急にはねぇ。最終的には千人がマンションを出て住むことになるだろうからねえ」


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