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18.三日目 一階会議室 (二)

このあたりでちょうど半分です

この後、セレシオンを離れる小集団が3つ出て、それぞれ特徴があります

最初が栗栖家、これは自立派。次が稲作にチャレンジする学者のファミリー、これは、積極的離脱ではあるものの幼児を抱えているためにセレシオンの医療から遠く離れる気がないケース。そして、くるみの親友・智花ともかと岩崎のコンビが栗栖家の入植地を目指して離脱しますが、もちろん保護者付き……


 

 翔太がタブレットをジャージのポケットに押し込んで出て行った後、会議室にはしばらくメモを取るための小さな音しかしなかった。


 しばらくして、ふと顔をあげた刑部が苦しそうな声を出す。

「寺島さん、食料は改善できるようですが、どうでしょう。下水ですが」

「ああ、はい、そうですね」

 やや怪訝そうだ。ウエスト一階には商店は入っておらず、普段は閉鎖してある。そこには災害時用の洋式トイレが多数備え付けてあり、昨日解放された。薬品使用のトイレで、順調に稼働している。

「いえ、下の娘がちょっと、家のトイレでないと。 何と言いますか、こういう状況もストレスになっているようで。もう水洗に使える水が無くなりかけていまして」


 東京の住民は、東日本大震災の経験から、停電や断水に備える心構えをもって生活している。公共の支援に期待するだけでなく、個々の家庭でも、風呂水を流さないで翌朝までバスタブに水を保持するとか、水とお茶のペットボトルや米などを使い切る前に補充するなどのある程度の自衛手段を取っている。水洗トイレも水の使用量を極力少なくする災害用の使用方法を多くの人が知っている。だが、すべての人に通じる訳でもないし、特にまだ幼い子には辛いことも多いだろう。


 富田と石黒が刑部の苦し気な顔を見て、まず富田が話しかける。 (雰囲気を察する、というやつだ)

「刑部さん、椿さんと長谷川さんにも参加していただきましょう、寺島君、よろしいですかね。刑部さんがひとりで請け負うことはないでしょう」


「ええ、そうですね。私が呼びに行きましょうか」

 石黒が立ち上がる。

「いや、寺島さん、私が行きましょう」

「てっちゃん?」

「責任者としてここにいてください。今はここが指令本部です」

「そうだね、お願いするよ、悪いね」 (全員が雰囲気を察した!)

 石黒が部屋を出ると、寺島が斎藤に呼びかけて安中を連れてきてもらうようにして、富田は富田で女房に追加の差し入れを頼んでくると言い残して部屋を出ていく。

 残った寺島が、刑部にゆっくりと事情を聴けるように。



 再び会議が始まったのは、二時過ぎだった。それまでの間に、差し入れの昼食をとりながら翔太と斎藤が椿と長谷川にタブレットの使い方をサマリーして現在の会議進行時点まで引っ張り、石黒は四階の様子を見に行き、寺島と刑部は下水工事を誰に依頼し報酬はどうするか「これはいわば公共事業ですからね」などとラフ・プランを話していた。


「それでは、皆さん、椿さん、長谷川さんにご参加いただき、斎藤さん、安中さんには念のために受付で相談に乗ったり、巡回したりでお願いできますか」

 ここでは逮捕術や警棒術の訓練を受けて非殺傷の制圧手法を実行できるのは安中と斎藤だけだ。ふたりは警備会社から預かっているトランシーバーの感度を確認し、万一の騒動に備えて各棟へと急ぐ。



「えー、午前中のところまでは皆さんご質問ありますか。椿さん、長谷川さん、いかがですか」

 椿と長谷川は、「支援アクセス権の食料、その次のリストまできました、驚きました」と答えて会議について来ていることを確認した。

「それでは次に行きましょう。岩崎君、具体的に食料をどうやって手に入れるか、やってみてくれますか」

 翔太は、はい、と答えながら、会議テーブルの上に自分のタブレットを置き、不思議なことをするな、とみんなに思われながら、タブレットの向うにプラスチックのトレイを置いた。


「えっと、これ、じっちゃん?」

「ああ、すいませんね皆さん、孫はちょっと緊張しすぎておりましてな。説明を頼まれておりまして、よろしいですかの」

 ひと渡りメンバーの顔を見て、理解の色を確認する。


「翔太の説明によりますと、これは、全員が持っておるらしい情報アクセス権の植物がヒントになっているということです。まずは私がやりましょう」

 そう言って、富田はテーブルに置いた自分のタブレットを操作し始める。

「皆さんも同時にどうぞ。まずですね、情報アクセス権から、植物に行ってください。植物にタッチすると、指示が出ます。よろしいですか? タブレットの前に植物を置く、と出ていると思います。それでは私がこの草を置きます。次はどうするのだったかね、翔太」


「鑑定と出てるか」

「いや」

「鑑定と出すには、植物を指定しなくちゃなんないんだ」

「そうなんです。どれが鑑定する植物なのか指示しないとならない、ここが翔太も難関だったとのことで。翔太、答えを」

「ん。オレは、矢印を作ったり、置く場所を変えたり、いろいろやってみた。で、正解は、植物をはっきり区別することだった」


「翔太は、木のテーブルの上では反応しなかったので、場所を変えて試したそうです。どうしてもだめで、思いついたのは、植物を特定できない、周りと区別できないのではないか、ということだったそうです。それで、皿に木の葉を載せてその前にタブレットを置いてみたそうです。大皿にはどこにも植物要素がないからということでした」

「ちょっとおかしいんだ、このタブレット。そう思って相手した方がいい。いろいろ試して、木のお盆とか、紙のトレイとか、植物要素があると全然ダメなんだ。紙とかタオルとかはダメなんだ。金属とかプラスチックとか、焼き物ならいけるんだ」

「翔太、やって見せてあげてくれるか」

「うん」


 翔太は、トレイに植物を載せて、流暢な口調に変わって説明を始めた。

「この草は、まだだれも鑑定してない草で、見ていてください」

 セレシオンの周りに生えている雑草は、翔太がタブレットにタッチすると薄く銀色に光り、粒子となって消えていった。

「え?」

 五人の声が揃う。


「植物を指定できると、タブレットに分析という文字が出るから、それにタッチすると光って消える。しばらく待つと結果がタブレットに出てくる。まず、植物の映像が出てタッチすると、名前、登録者、成分だな。この植物は、名前は空欄、登録者はイワサキショウタ、成分はCとかHとかあるけど、これ多分元素記号」

「皆さんにも一度やってもらいましょう。とりあえず今はこの草で試してみてください」


 六人は事務室備え付けの小皿を受け取り、木の葉を載せてタブレットの前に置いたが、分析の文字は出ない。鑑定が出たままで、植物情報がでる。名前は空欄、登録者はイワサキショウタ、そして成分だ。

「鑑定」から「分析」に進むには、植物が受け取り手にとって未知でなければならないと、翔太の説明が入る。


半分くらいまで来たので、簡単な名簿を挿入します


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