15.三日目 六〇七号室・栗栖 (一)
五月三日。組合管理委員会は、緊急物資の数量を確認、どのように物資を分配していくかという問題に対処する予定だった。
ウエストは作成した名簿に従い、三階と四階を開放するところからだ。
イーストは朝から、ウエストは午後から、食事に不安がある人たちに三階と四階で飲料水と非常食を配布し、まだ自室で対処できている住民にはもう一日耐えてもらい、四日目から家族の人数に沿った配布を始めようと計画を立てて進めようとしていた。
最初に気が付いたのは、岩崎翔太や栗栖幸人のような、あるいは登別宥佑のような電子機器に夜中中向き合っていられることに喜びと満足を感じている人々だっただろう。
彼らは、翌日学校にも仕事にも行かないで済むといことをアドバンテージと感じていると同時に、自覚はないものの、タブレットに少しでも早く、正確に馴染むことでこの孤立した集団に情報をもたらす役割を果たしていた。
午前四時すぎ、栗栖幸人が大声をあげた。
「おとうさん、おかあさん、ねえさん! 起きて、起きてタブレットを見て!」
「ううん?」
間仕切りを隔てたところで眠っているくるみが迷惑そうに起き上がり、こちらも大きな声で返事をする。
「ユキ、起きたよ、何?」
「ねえさん、ねえさん、アクセス権を見て。食料だって、食料支援」
「はあ?」
「見てよ、今すぐ!」
ハイハイ、もうめんどくさい子ねえ、とか言いながらも、くるみが横になったまま手探りでタブレットを操作する。
「うわー、マジですか」
「ね、マジかよ」
「うーん、しかも何、この1,000yenって、え? 1/420」
「だよなー、何がもらえるのかも見えるよ、金額をタッチ」
「うひょ、何これ」
「だよな、何だこりゃ」
文人が起き上がってきて、幸人側のドアを開いて覗き込む。
「何騒いでるの、まだ四時だよ」
「そうだよ、おとうさん四十八時間だよ。だからこれが発動したのか」
くるみの声が賛成する。
「あ、そうか、そうかもしれないね」
「だと思う」
「説明を頼む」
「うん、おとうさん、テーブルに集まって」
「夜が明けてからじゃダメなのか」
「急いだほうがいいと思う」
「おとうさん、私もそう思うよ」
「わかったよ、久美を起こすから。足元に気をつけなさい」
「うん」
同時刻、岩崎翔太はタブレットを睨んでうーん、と唸っていた。420とは、何だろう、イースト住人の数は、どうだったろう、いや、そうじゃない、人数なら第一次移住者の全数になるのじゃないか、と。祖父を起こして確認してもらいたいところだが、深夜まで動き回っていた敬老世代の祖父には少しでも長く眠っていてもらいたい。うーん、と唸りながら自作のフローチャートと照らし合わせて順にタブレット画面を開き、確認していく。
「あ、そうか」
やがて答えを導き出し、祖父が起き出してくるまでひと眠りすることにした。
栗栖家では、四人がテーブルに揃って確認作業を終えていた。
「そうか、これは全員が持っているし、支援は四百二十日で、一日当たり千円だという意味だと思うんだね」
「うん」
「久美ちゃん?」
「そうね、正しいと思う。だけど、千円はその日使いきりなのか次に日に持ち越せるのかは問題よね」
「そうよね、後は持ち越しがあるとして、上限があるかどうか」
「うーん、上限がないとすると、一人当たり合計額は四十二万円か、千人分なら総額四億二千万円、どうだろう?」
「おとうさんの土木・建設支援は百億でしょ? 端金?」
「うーん、わからん、国際支援とかどのくらいの金額なんだろうね」
「そうよねえ、知らないわ。災害なら被害規模とか、国別の負担割り当ての枠組みとか、国際機関への一般市民からの寄付金とか、いろいろ種類があるんじゃないかしら。合計金額とか、その時の状況次第って側面もあるよね。
えっと、この食糧支援してくれる人? っていうか、そもそも、タブレットを配った人って誰なの? 支援してくれようとしている人と、タブレットを配った人って、同じ人?」
「うーん」
「だよねー」
「まあまあ、そもそもこの巨大な建物二棟を破壊もせずに地下施設ごと持ってきた人なんだよ、人間の訳ないって」
「うーん、そうだよねー、宇宙人?」
「何それ」




