14.ミキとアイザック (一) 転移二日目
AiZak 人類を他惑星に移住させる計画の責任者
Miki 反町美紀 麻酔科医
恒星アイザック、惑星美輝、衛星カグヤ、サクヤ
および情報衛星キュリの子機、ピエール・キュリの命名者
モニターとしてアイザックから仕事を請け負った。
現在は、自主的に惑星美輝への転移に参加
ピエール・キュリへの全アクセス権を所持
アイザックとの契約により、情報開示はできない
M:アイザック、お待たせしました
A:ミキ、来たね
M:移住への参加を受け入れてくださったこと、感謝しています
A:問題ない。レポートを聞こう
M:セレシオン成島の住人が惑星美輝に移動して二日目です
一日目、イーストは非常に建設的でした
管理組合委員会の委員長と副委員長二名、
警備会社から夜間警備に来ていた一名、
これら四人が、積極的に全住民の安否確認を行い、住民リストを作成
二日目の今日、リストに従い、要介護者や乳幼児を持つ家族を
医療者のいる四階に移動させました
A:観察させてもらっていた。ウエスト側はできなかったようだ
M:はい、組合副委員長ふたりの内ひとりが転移時に不在
マスター・キイの開放ができず、住民リストの完成が今日になりました
開放はできないものと思われていたのですが
イーストの前組合長が四人揃わない時の開放手順を知っていて
今朝、開放できました
A:そうか、死者も回収できたのだな
M:はい。イーストでひとり、ウエストでひとりでした
A:現在の生存者は、惑星美輝で、九百八十七人である
ミキ、誇るべきことだ
第一次移住集団、十五組のうち、もっとも死者が少ない
生存率は九十九パーセント
M:そうでしたか
美希の指はキイボードをタッチしていたが、歯を喰いしばっている。生存率、そんな数字で計られているのか。
映像も音声もアイザックの都合で拒否されて、本当によかった。表情も声も作る自信がない。
A:明日はモニターのリクエストによる、食糧支援がはじまる
M:はい
A:私はこのことに賛成ではないことは、ミキも知っている通りだ
M:はい
A:弱い者が奪われ、争いになると生存率が下がるだろう
M:はい、モニターの多数が、餓死よりもむしろ争奪を選んだことも覚えています
A:こういう時には、幸運を祈ると言うのだったか
M:そうですね、私はヒトの理性に期待したいと思います
A:明日のレポートを待つ
M:はい、アイザック。モニターの意見を受け入れてくださったことに感謝しています
A:問題ない。私たちは結果に関心がある
え? 今アイザックは私たちと言った、と美希は画面を確認した。確かに“私たち”と言っている。そうか、アイザックは責任者と言ったが、同僚や部下がいるのかもしれない。決定権を持っているのがアイザックだ、この点は間違いがない。
そう、たしか、多くの存在が関心を持っているとも言っていた。
食料支援を行ったらどうなるのかに“関心がある”と言った。研究対象なのか、人類は。
数学情報~、ステキな本を見つけました
倉名は、現在、等差数列・等比数列の計算ができるようになり、Σ・シグマに行ったところで、√・ルートの計算で躓き、あっちゃー、これか! というので、いったん数列から離脱して、指数と対数に頭を下げているところです
どこで躓いたかというと、√aの0乗が、1であるという定義を忘れていたのです
さすがにこれはマズイので、ルートを外す手続きを復習して
ものはついでで、logの復習中です
これが終わったら、Σから漸化式までいって、ようやく微分に取り掛かれるのじゃないかな~
漸化式が終わったら、方向性が見えてくるかなー
というところで、ステキな本を見つけました
東大の教授、正確には東京大学先端科学技術研究センター教授で、西成活祐という方がおいでです
倉名は、平成の頃、この教授が実際に中学生に数学を教えた、
「とんでもなく役に立つ数学」という本を読んで、数学には交通数学という分野があることを知りました。それ以来、渋滞にはまるたびに西成教授を思い出して「現象の数字化」に思いをはせて、その場のイライラをごまかすという「心理逃避」に走っています。「数学を役に立てる」もんね!
教授がお聞きになったら、多分「とんでもない」奴だとおっしゃることでしょう
この教授の本をご紹介しましょう。それは
「東大の先生! 文系の私に超わかりやすく高校の数学を教えてください!」
というタイトルの本です。図書館で借りられると思いますので、お気軽に
この前作で、中学の数学版もあるようです。ただいま手配中でまだ手にしていないのですが
倉名は、算数が数学になるための第一歩が一次関数で、四則計算や分数を使う計算はすべて一次関数に至るためのツールであると考えています
もちろん、計算は計算できなくちゃなりません
世界の一部は数字で出来上がっていて、そのルールを知って人は経済の中で生きていけるからです
そして、中学数学の最終目的は、おそらくピタゴラスの定理と円の組み合わせを自在に操れること、
(こっちは図形・幾何の分野、高校でサイン・コサインとか、物理系のベクトルに進む)
および二次関数を放物線グラフとして捉え、それを上下左右自在に(文系的には!)移動させることができること
(こっちは、高校で微分・積分に進む)
このふたつかな、と思います
つまり、因数分解と方程式は、二次関数とそのグラフ化のためのツールなんだ、と考えています
文系の倉名の数学理解度は、この程度な訳ですが、
文系ピープルのひとりである倉名は、数学は言語の一種であると考えています
一次関数について述べた時、文系しかやらない数学用語の日本語訳
というのをやりましたけど、
数学のレベルが上がって、直接数字と記号では理解できなくなった時、
まず数学用語を、次に公式を、日本語変換して記憶に取り入れるのは文系ならでの数学へのアプローチです
数学と英語を同レベルで記憶と理解に分化するのですね
英単語を訳とともに覚える
数学用語を日本語訳して覚える
同じことです
覚えた単語を組み立てて、文法をちょろっと加味して、英文を日本語訳する
覚えた数学用語に、数学のルールを加味して、公式を日本語訳する
たとえば、二次関数で行き詰ったら、「関数」の意味が解っていないのか、それとも、関数のルールを知らないのか、公式の意味するところが解っていないのか、そのどれなのかを考える
二次関数の問題が解けなかったら:
関数の意味が解っていないか
関数は、xが決まったら、yが決まるという関係式だよ
ルールを知らないか
例えば、二次関数の解とは、y=0ラインとの交点だよ
公式の意味するところが解っていないのか
解の公式を自分で求めてみよう
元式の、ax2+bx+c=0 を、公式まで変形していく
英語と同じだよね。英文が訳せなかったら、
単語の意味が解らないか
辞書を引こう
ルールを知らないか
大概躓くのは分離前置詞とか関係代名詞だよね、英文法をやろう
英語世界への理解度が低いか
誤訳は、文章を書いた人の”常識”を知らないときによく発生するんだよね
少なくとも世界史とキリスト教、あと貴族制と共和制を勉強しよう
ストレートに数字と記号を使いこなせない文系ピープルにはこの道もある、と倉名は思う次第です
あ、西成教授の本は役に立つし、面白いです。お人柄が偲ばれ、単に読み物としてもステキな本ですし、理系ピープルをお連れ合いになさっている方にもおススメです
お子さんが中学の数学で躓いて苦しんでいるのに助けてあげられないと思う親御さんにもぴったりです
もし、中学生で読もうと思う人がいるなら、二次関数が始まってから読む方がわかりやすいよ
じゃね、Granite




