第278話 魔法使いヴィヴィアナ討滅戦 四
更新再開
4日に一度ペースでやっていきます。
よろしくお願いします。
「聖騎士団のみなさまァ~! 吶喊!」
大友国崩の号令一喝、大友聖騎士団が剣を抜き、触手どもに斬りかか──
──らない。
聖騎士団は触手に襲われる龍ゾン寺くまを無視して天井へ剣を振ると、剣から出たビームのようなもので天井に大穴を空けた。
そして、国崩が優れて優美な大腿筋に力を込め……
「龍ゾン寺様! わたくしはとりあえず屋上へ向かいますわ!」
「はぁ~~~~~~!? ぞんちゃんを見捨てるのか!? 仲間だろ!?」
「この事態! 謀反の首謀者の首をとるが優先! そして、首謀者は屋上におります!」
「まだわかんないじゃん! 確定してないじゃん! そういう見切り発車よくないと思います!」
「ボスはたいてい高いところにいるものですわァ~!」
「くそ、否定できない!」
龍ゾン寺が否定できないので、大友国崩が強靭な筋力で地面を蹴り、黄金の神威の塊と化しながら飛翔する。
目指すは屋上──このまま、神威噴射込みのハイジャンプで、一気に上まで駆け上る。
だがしかし黄金の神威の塊と化した大友国崩を絡めとらんと、塔のあちこちから触手が伸びる。
国崩は接近する触手を、聖剣を掴んだ拳で殴り、脚で蹴り、逆に加速のための足場としていった。
「Enemy Step!?」
すでにはるか下方となった触手モンスターハウスのある階から、龍ゾン寺の驚く声が響いた。
その声も姿も、大友聖騎士団が空けた穴が閉じていくとともに、国崩には届かなくなっていく。
やはりこの塔は生き物だ。
傷つけても再生し、塔そのものが国崩の行く手を阻むように、触手を生やし、壁を増やし、対抗してくる。
だから、国崩は優美に笑う。
「邪魔が増える! すなわち! この先に《《何か》》があるということ!」
蹴散らす、蹴散らす、蹴散らす。
大友国崩に『空を飛ぶ』ような技能はない。
ただ、莫大な量の神威を噴出することによって加速・方向の微調整が可能であり、襲い来る触手どもを叩いた反動を使って上昇力を維持して跳んでいるだけである。
頭上で塔の『天井』が厚みを増す。
その赤黒い肉の天井を拳と上昇の推進力でぶち破り、さらに進む。
下から破壊音。
大友聖騎士団が、はるか下方からだが、国崩に続こうと上っていた。
彼らもまた九十九州の戦乱を生き抜いた精鋭たち。ゲーム剣桜鬼譚においては名前のない一般兵に数えられるモブだが、この修羅の国を生き抜くうちに身に付けた実力は並大抵のものではない。
そして聖騎士団の一人の背中にへばりつくようにして、龍ゾン寺もまた国崩に続いている。
天井をぶち破りながらの跳躍上昇──
数多の触手と『生きている塔』に阻まれながらも、国崩はついに、屋上へとたどり着いた。
そこで……
ちょうどその時、『異世界転移』させられる氷邑はるの後姿を見た。
「はる様!」
ぎりぎり、間に合わない。
しかし声は届いたのだろう。はるがわずかに振り返ろうとしたのが、国崩の目からは見えた。
「ほわ」
はるが消え去った向こうには、ウィッチベレット、ローブ、杖を装備した、いかにも『魔術師です』という風体の河童がいる。
国崩の行動は早かった。
河童に殴り掛かる。
河童は驚いた顔をしたが、杖を器用に回して、国崩の突進からの拳を受け流した。
「奇妙!」
河童とすれ違うようにして床を踏み、すぐさま反転。再び殴り掛かる。
拳が触れる──直前、河童の目の前に赤黒い魔法陣が出現。
国崩は『それ』を知っていた。
何せ国崩は『それ』の体験者だからだ。
「転移魔術!?」
神威噴射による急ブレーキからの方向転換。
魔法陣が発動し効果範囲が『転移』させられるのを横目に、位置をずらして再び突進。
魔術による巨大な氷柱が展開され、槍衾のように国崩の前を塞ぐ。
──だが。
「おいおいおーい! 無視されるの傷つくんだがぁ~!?」
河童の背後、地面から来た龍ゾン寺が、サメの尻尾で河童を胴から薙ぎ払う。
河童が横へ吹き飛ばされて、その先に聖騎士団が剣ビームを放つ。
魔界塔を形成する肉が爆ぜて赤黒い煙が視界を塞ぐ……
国崩は、背後に向けて国崩カリバーを放った。
いつそこにいたのかもわからないが、唐突にそこに出現した河童からの氷の道術投射攻撃と、国崩カリバーとが相殺され、冷たい煙が上がる。
その煙の中で……
河童が、増える。
国崩は狂暴に笑った。
「転移魔術に、分身魔術──わたくしの故郷の宮廷魔術師にも、これほどの使い手はいませんでしたわよ! 実に豪壮!」
「ほわ」
河童がのんびりした声で応じる。
……十七体に増えた河童たち全員が、まったく同じ表情・調子で、まったく同じ声を発していた。
幾重にも重なった河童の声が、のんびりと続く。
「うーん……わたくし、あまり大柄な子は好きじゃなくってえ……あと、青肌も……」
「はぁ~!? 青肌の何が悪いんだよ!? 最近の性癖の多様性にケンカ打ってんの!? 炎上するぞ!」
龍ゾン寺の反論も聞こえているのかいないのか、うーん、と悩みながら、全部の河童が同じように首をかしげる。
「これなら、跡形もなく消してしまってもいいですかねえ」
……かつて、大嶽丸ざぶざぶランドで、この河童──『魔法使い』ヴィヴィアナが語ったことがある。
手加減が苦手。
攻撃をすると、やりすぎてしまう。
それは、嘘ではない。
「じゃ、消しますねえ」
……あたりの気温が、下がっていく。
南国と呼べる気候の九十九州。その空気が北国の真冬よりもなお下がり、あたりの空気にきらきらとダイヤモンドダストが舞い始める。
「絶対零度」
詠唱と呼べるものは、それぐらいだった。
その魔法は周囲の空気を零度にするもの──では、ない。
古今、様々な場所に『絶対零度』を冠する技はある。だが、零度ごときでは戦いの最中に、対戦している相手を凍り付かせることも、氷の刃で切り刻むこともできない。
なので絶対零度は絶対零度ではなく、使い手の『冷たそう』なイメージを補強するためのネーミングにしか過ぎないことが多い。
ヴィヴィアナのこの攻撃もまた、そういったたぐいのものであり……
彼女の場合。
《《目標の温度を一瞬で零度にする》》という術式を、絶対零度と称する。
体温は二度下がるだけでも重篤な被害が出る。
それが零度まで一瞬で下げられるがゆえに、対抗できる方法はない。
また、『何かを投射する』攻撃でもない以上、大友国崩が得意とする『とにかく高出力の神威をぶっ放す』という方法でも対抗は不可能であるし……
魔力によって相手の肉体の直接作用する術式における『お約束』、『相手の攻撃に籠もった魔力によって、術式の効果を弱体・無効化できる』という方法も、《《通用しない》》。
これは概念の押し付けである。
『汝は絶対零度。そういうものだ』という世界への説得。
神霊がやる『世界の法則の書き換え』。たかが魔法使い、たかが道術使いには至れぬ、《《神なるスキル》》──
──だからこそ。
「《《吹き散らせ》》」
その零度、その法則は、《《神の風によって吹き飛ばせる》》。
「よくもまあ、有象無象を放ったものだ。……それほどまでにこの俺の接近が怖かったか? 途中から、あまりにもあからさまに、俺側に戦力が集まりすぎて、笑ってしまったぞ」
国崩と龍ゾン寺が振り返る。
ヴィヴィアナが「ほわ」と反応する。
その、視線の先には。
「だがようやく対面だな『魔法使い』。……貴様が何をしているのか、具体的なところははっきり言って知らん。だがな……この俺の家族サービスを邪魔した罪を償わせてやる」
国崩と龍ゾン寺の間を通り歩く、銀髪の少年──
「プールで俺の郎党と正室を襲った罪も合わせて、償わせてやる。──跪いて土下座しろォ!」
──氷邑梅雪。
決戦の場に、着陣。




