第277話 魔法使いヴィヴィアナ討滅戦 三
魔界塔──
氷邑はるに続いてそこにたどり着いたのは、大友国崩と、龍ゾン寺くまだった。
「なんかぞんちゃんの知らん人が上の方におるぞ。ピピー! 人んちに勝手に侵入するのはほぼ犯罪です! 今すぐ降りてきなさーい!」
不気味な紫色の雲からショッキングピンクの雷が降り注ぐこの場所で、龍ゾン寺と国崩が『塔』のてっぺんを見上げる。
国崩が首をかしげた。
「……ここからよく『上の方に人がいる』のがわかりましてね?」
「防犯目玉置いてる」
「なるほど、それは警備意識が高いですわね」
「大友国崩、お前さあ、反応が薄いんだよ。そんなんでお嬢様系やってんの? もっといちいち『ですわァ~!』って大げさなリアクションしてくれないと視聴者が飽きちゃうよ」
「はあ……」
「お前が『常識人です』みたいな顔してぞんちゃんのことわけわかんない感じで見て来るの、超納得いかない」
「それで、どうやって上へ昇りますの?」
氷邑はるは『外壁に刀を突き刺し、腕力で自分を上へ放り投げ続ける』という優雅な方法をとったが、『雲を貫く塔の頂上までその方法で行く』というのは、普通、できない。
大友国崩単身であればそれも可能ではあるが、ここに来て『軍と龍ゾン寺を置いて自分だけ上を目指す』というのは、『じゃあなんで一緒に来たんだよ』という話になってしまう。
というより、見た感じではどうにも九十九州全土を危機に陥れている張本人──暫定『ヴィヴィアナ様(暗殺者がそんな名前を出していた)』というのがいるはずで、それは単身で挑むような相手ではないと大友国崩は判断していた。
このあたりの判断を言語化すると『ええ!? お前そういうキャラじゃないでしょ!?』と龍ゾン寺的リアクションをとられそうだが、大友国崩の行動は基本的に理性的である。
ただ、目の前に強敵がいて殴り合っているとどんどん暴走するだけで、普段の国崩は知性派かつ理性派なのだ。
そういうことで、龍ゾン寺から『上へ昇る方法』を聞こうとしているわけだが……
言うまでもなく『居城のてっぺんに昇る方法』というのは軍事機密である。
普通は敵対関係の相手に、聞かれても答えない。
だが龍ゾン寺は答える。
「普通にエレベーターあるから使うけど」
「エレベーター!?」
「なんだよ!? ぞんちゃんちにエレベーターあっちゃ悪い!? 五階建てエレベーターなし最上階角部屋がお似合いな貧乏くさいゾンビだって言うのか!?」
「いえそんなことは言っておりませんが。エレベーターでこの高さを、はあ……」
ここで国崩が驚いたのは、二人の『エレベーター』というものに対する認識の違いがある。
まず、エレベーターというのは、現代日本から見て古代エジプト時代にもあったものである。大抵のハイテクは古代ローマと古代エジプトにはすでに存在している。
ただしその時代のエレベーターは電力ではなく人力だ。
国崩の知っているエレベーターも人力(ただし、国崩の故郷では魔法も人力に含まれる)であり、この高さを上らせる魔力を使うエレベーター用奴隷というのが想像つかなくて、ついうっかりリアクションが大きくなってしまった──という背景があった。
一方で龍ゾン寺の言うエレベーターはと言えば……
「じゃ入っていいよ。ちょっと汚いけど……」
「いえ別に、この状況で汚さなど気にしませんけれど」
「本来のぞんちゃんちはもうちょい整頓されてんの! でも最近忙しかったっていうか……」
「あの、そこはそんなに言い訳を重ねるほど気になるところなのですか?」
「言い訳じゃねーし! 事実だし!」
何をしに来たんだろう、友達の家に遊びに来たのかな、と国崩が困惑する中、龍ゾン寺が魔界塔へと入っていく。
一階入り口自動ドアが『ぬばぁ……』と開く中、大友国崩以下聖騎士団が入ると、なんということでしょう、中も外壁と同じように、赤黒い肉の塊だったのです。
龍ゾン寺は慣れた様子で左右に広がる通路を右へ進み、ある程度行ったところで壁をノックする。
と、『べちゃあ……』という音を立てて壁が開き、中には木造と思われる直方体の空間があった。
「ういー。ぞんちゃん帰ったぞー。あ、もうちょい穴広げて。そんな小さな穴に騎士団入れたら裂けちゃうよぉ……ひぎぃ……そうそうそんぐらい」
「あの、もし、龍ゾン寺様、誰と会話なさっていらっしゃるの?」
「え? 家」
「家!?」
「最近の家はこういうスマートなシステムを採用してるのが当たり前なんだよ。音声で呼びかければたいていなんでもしてくれる。そうだ、音楽かけて」
なんだかよくわからないがメタルな感じのする音楽が流れ始める。
さすがの大友国崩と騎士団も戸惑いながら、龍ゾン寺に続いてエレベーターに入る。
「最上階まで~」
龍ゾン寺の呼びかけに応じてエレベーターが閉まり、上昇を始める。
「……これは難攻不落ですわね……」
国崩はエレベーターの中で、そのセキュリティの高さに戸惑っていた。
というか……
この家、普通に生きてる。
魔界塔──あまりにも巨大すぎて、『なんか肉っぽい見た目だけどこのサイズは建造物でしょ』と無意識に思ってしまっていたが、完全に生物の挙動だ。
仮に龍ゾン寺領まで大友が攻め入った場合、この『居城』を攻略することになるのだが……
ここに籠もられると、城攻めもできないし、そもそも家自体が生きて龍ゾン寺の命令に従っているので、家自体が攻撃をしてくる可能性もある。
かつて龍ゾン寺がドラゴニックテンプル家だったころにはなかった魔界塔──なるほど、これがあれば、籠城戦ではまず負けないだろう。何せ家そのものが意思を持ち、龍ゾン寺に従うのだから。
(……では、『ヴィヴィアナ様』は、どうやってこの塔の高い場所に侵入できたのです?)
国崩は疑問を抱いた。
この魔界塔がある程度以上、龍ゾン寺の意思に従うのなら、そもそも『ヴィヴィアナ様』を侵入させたりはしないだろうと思われる。
なぜか……
ちーん、という音がして、国崩の思考が寸断される。
「あ、着いたっぽい。なんか早くない? 重いと逆に速くなる? そんなことある?」
龍ゾン寺もなんもわかってない様子で、特に警戒することなく、開いた扉から外に出る。
大友国崩と聖騎士団もそれに続き……
「あれ、まだ中じゃん? どしたん?」
赤黒い肉で囲まれた広間が、彼女たちを出迎えた。
そして、その広間の、床から、壁から、天井から、触手が生えてくる。
生えた触手はウネウネうごめき……
龍ゾン寺に、襲い掛かった。
「あ痛ッ!?(>_<)」
顔文字を発声しながら、ほっぺたを叩かれた龍ゾン寺が倒れ込む。
「え、何、何すんの? あれ、待って待って、何その数。なんでウネウネしてんの? ぞんちゃんとお前らは一心同体のソウルメイツだろお? なんでそんな、あ、待って待って、叩かないで。ぞんちゃん、こういうの弱い。すごい弱いから。無言でほっぺたビンタされるのとか泣いちゃう、泣いちゃう、泣いちゃうってば。泣くって言ってんだけど。ねえー! おいっ! いい加減にしろ! ギャグのライン超えてんだよ!」
「龍ゾン寺様」
「なんだよ!」
「あなた、裏切られてませんこと?」
「ええ? この魔界塔はぞんちゃんが一回死んだ時に魔界で落ちて、そこで肉体の再構築とかされたやつなんだよ。ようするにママみたいなもんだよ。そんなのがぞんちゃんを裏切るとか……痛いっての!」
触手が、ウネウネしながら、龍ゾン寺をひっぱたく。
だんだん、触手どもが、冗談にならない形状をあらわにし始める。
「あの、龍ゾン寺様、『ヴィヴィアナ様』がこの塔の高い場所に昇られているんですわよね? それが成っている時点で、この塔、『ヴィヴィアナ様』に付いているのではなくて?」
「………………」
龍ゾン寺は触手を見た。
触手たちが、一斉に鎌首を縦に動かし──うなずいた。
龍ゾン寺はにっこり笑って、国崩を振り向き、
「謀反だコレ!?」
「だからそう言っておりますわよ!」
触手どもが、ようやく事態を理解した元主に襲い掛かる。
ヴィヴィアナ戦前哨戦が、ここに幕を開けた。




