第239話 大友国崩
「高貴!」
『高貴!』
「高貴!」
『高貴!』
「高貴!」
『高貴! 高貴! 高貴! 高貴!!!』
高貴なるコール&レスポンスが響き渡り、九十九州の大地が震動する。
居並ぶはきらびやかな黄金の鎧を身に着けた聖騎士ども──『大友聖騎士団』と呼ばれる異界の軍勢。
彼らの多くは異世界追放された真の聖女にして悪役令嬢たるお嬢様に異界からついてきた忠臣ではあるが、何分毎日戦争を繰り返しているので増減があり、そのメンバーはもはや、どこの出身かもわからぬ者も増えていた。
だがこの大友聖騎士団は血よりも濃い絆で結ばれている。
その絆の中心に強力に立つ者こそが大友国崩。
ドリルのような金髪縦ロールにキメた、ミニスカートドレスから発達した大腿四頭筋を覗かせる、『豊満』というよりも『分厚い』という表現の似合う、身長190cmの異世界悪役令嬢であった。
高貴! とレスポンスを繰り返す大友聖騎士団──
熱狂と言えるその状態はしかし、居並ぶ聖騎士どもの前で国崩が握り拳を掲げると、ぴたりと止まる。
「皆様」
国崩の声はまだ少女のものであった。
決して張り上げてはいない、見た目からするとか細いとも言えるその声はしかし、すべての騎士の耳にはっきりと聞こえる、よく通る声でもある。
「今また、わたくしどもの仲間となりうるかもしれないお方が、この九十九州の地に踏み入ろうとしております」
気配を察知しているというより、普通に高塔を建てて目視で確認しての情報なので、間違いない。
大友国崩率いる聖騎士団は、九十九州の守護者を勝手に名乗っており、ここに侵入するあらゆる外敵から九十九州を守る使命を自分で自分に課していた。
「しかし悲しいかな、この九十九州は弱肉強食の地。……であれば、ここに来るお方に求められるものは、何かわかりますね? そう──高貴、優雅、そして、艶やかさです」
『高貴!』
「さあ皆様ァ~! ともに資質を問おうではありませんか! 高貴!」
『高貴!』
「高貴!」
『高貴! 高貴! 高貴! 高貴!』
「ああっ、いい感じで高まって参りましたわァ~! 聖剣抜刀!」
そう述べながら大友国崩は腰の剣を抜く。
その剣、刃のない、柄と鍔だけのものであった。
だが、聖騎士団の『高貴!』という声が重なるごとに、鍔から光が生じ、それが次第に刀剣の形状を形成していく。
ちなみにこの剣の刃は国崩が自前の神威──彼女たちの言葉では『魔力』で行っているものであり、大友聖騎士団の高貴コールは国崩の気分を盛り上げる以上の意味はなかった。
国崩は充分な大きさとなった剣を片手で大きく持ち上げ、
「高貴に!」
『高貴に!』
「優雅に!」
『優雅に!』
「艶やかにィ!」
『艶やかに!』
「万民救済。これぞ我が聖女の輝き! 国崩──カリバアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
思い切り、振り下ろした。
その光の刃は九十九州入口へと奔り──
◆
「──ちょうどいい」
氷邑梅雪は、迫り来る国崩カリバーを遠くに見た。
「何か当然の通過儀礼のようにされているが、そもそも九十九州に入ろうとしただけでこのような攻撃をされるいわれはない。これはまさしく敵対行動である。よって──」
世界呑凍蛇、抜刀。
「──この俺に刃を向けた咎を償わせてやる」
神喰。
蛇のように刀身を伸ばした凍蛇が、迫り来る黄金のビーム──国崩カリバーを前に大口を開く。
そうして莫大な神威の一撃を呑み込んで、
「大友国崩、まずは軽く殴ってわからせてやろう」
梅雪の姿が変化する。
銀髪は金色に。
衣服は普段のものから、黄金の甲冑に。
手には西洋風のロングソードを持ち……
「この俺に攻撃をしたな。土下座しろ国崩ゥ!」
国崩カリバーの発生源へと、駆け出して行く。
九十九州入島。同時、大友家との対決の火蓋が切られた。




