第1話 氷邑梅雪という悪役
悪役令息が和風エロゲー世界で破滅を逃れるためキレながら煽り散らす話です。
しばらくは1日5話投稿
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「氷邑梅雪、あなたは間違えている! 数々の非道! 身分にあかせた傲慢に浪費! さらに、人を人とも思わぬ所業! あなたには剣才以前に、人として生きる才能がありませぬ! そのような者に、剣術など教えてなるものか!」
思い出した。これは氷邑梅雪の転落のきっかけとなるエピソード。
ここで素直に自分の過ちを認められなかったために、氷邑梅雪は悪鬼に堕ち、そして主人公に討伐されることになるのだ。
剣桜鬼譚というゲームがある。
それはR-18の和風ファンタジーシミュレーションRPGだ。
プレイヤーは主人公となって、戦国のような時代の『クサナギ』という大陸でもって、妖魔を狩ったり、人の領地に攻め入ったりしつつ、なんやかんやで女の子をたくさんゲットしていく話。
ゲットした女の子はプレイヤー側のユニットになって戦場に出すことも出来る。
だが、特定の相手に敗北すると奪われ、敵陣で凌辱されるCGが表示されたりもする。
とにかく自由度が高いこのゲームにおいて、主人公の最初の敵として立ちふさがるのが氷邑梅雪という『大名の子』。
広い範囲を支配する氷邑家の嫡男である梅雪は、主人公と対比されて語られることも多いキャラクターだ。
主人公が正義を志し女の子とのえっちシーンは全部和姦(結果的に)なのに対し、梅雪側のCGは全部尋問と称する凌辱であり、道具や設備を使った女の子を快楽責めにして虐げるようなプレイばかり。
さらに主人公は剣桜鬼譚のタイトルにも入っている『剣』の使い手であるが、梅雪は『道術』……魔法のような技能の使い手だ。
主人公のほうは道術の才能がからっきしだが、梅雪は剣の才能がからっきしときている。
この世界では道術師の立場が剣士より一段低いのもあり、主人公と出会った梅雪は、そこの点でも主人公に私怨を燃やし、主人公を貶め、苦しめて殺し、さらに周囲にいるヒロインたちを寝取ろうと異常な執着を見せていくようになる。
執着の理由は他にもある。
主人公のもとに、梅雪の元から逃げ出した奴隷の女の子がいたことだ。
その奴隷の女の子は今まさに目の前におり……
そして、今、梅雪は、奴隷の女の子への酷過ぎる扱いについて、梅雪の親から剣の先生として招かれた『剣聖』に咎められているところだった。
剣の才能がないのにスパルタな『剣聖』からの指導に普段から不満を覚えていた梅雪は、むしろここで反発し、その結果、『剣聖』は奴隷の女の子を助けて氷邑領から逃走。
この後『剣聖』は主人公に出会って、主人公に剣の修行をすることになる。そして奴隷の女の子は、主人公の横に常にいるメインヒロインになるのだ。
だから、今ここが、氷邑梅雪の人生の分岐点。
で。
この分岐点でいきなり目覚めてしまったのが、前世の記憶ってワケ。
どうするか、なんて考えるまでもなかった。
氷邑梅雪は破滅を避けたいなら、今すぐ『剣聖』に土下座し、奴隷の女の子にこれまでの非道な扱いを詫びるべきなのだ。
何せ氷邑梅雪は『最初のほうの敵』であり、勢力として立ったばかりの主人公に、だいたい五ターンぐらいで負ける男なのだ(そして五ターン全部でいちいち領民に対する凌辱シーンが挟まる)。
敗北後の人生は酷いもので、ざまあの要素なのか、ちょいちょい『主人公に敗北して浪人に成り下がった氷邑梅雪はそのころ……』みたいなシーンが挟まる。
剣が優遇される世界で剣才の全くない、しかも我侭放題で人とのコミュニケーションも上手くとれない梅雪の末路はそりゃあ酷いものだ。
失敗に継ぐ失敗をして、最後は両手両脚をなくして物乞いをするも、哀れんだ人がくれた金や食べ物を野盗に奪われて殺されるという末路を辿る。
絶対に回避したい破滅ルートだ。
前世のことを思い出して、剣桜鬼譚で氷邑梅雪が辿るルートを知っているならば、ここは『剣聖』に土下座一択だった。
だというのに。
「……誰に口を効いている! 野良剣士の分際でえええええ!!! 貴様が! この、大名の嫡男である俺に! いったい! なんの権利で! そのような説教をするか! 無礼者め! 首を出せ! 刎ねてやる!」
氷邑の中の人は、自分の発言と、何より、心境に驚く羽目になった。
そう、氷邑梅雪……
どれほど中の人が理性で土下座を推奨しても。
どれほど自分の行いが悪かったのだと冷静に思い返してみても。
ただ、『間違っている』と指摘されたその一点が気に食わなさ過ぎて。
心の底から全力でキレている。
(どうしよう)
キレながら、中の人は思案する。
どうにもこの氷邑梅雪、煽り耐性がゼロ。
死にたい訳がもちろんなく、この煽り耐性のなさで、これから『ざまあ』されるルートを回避していかねばならないのだ。
先が思いやられ過ぎる。
いったいどうして、こんなことになってしまったのか……
前途多難な、悪役転生は、こうして幕を開けることになったのだった。