表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/18

プロローグ

「なんで、なんで私がこんな目に――!!」


スーツを着た女性はニヤニヤしながらゲーム機を片手に一見煌びやかに見える街並みを歩いていた。

都会にある小さな会社で働くごく普通のOLの私。残業とノルマ、さらにパワハラ気味の上司との応酬で毎日クタクタ。

何か自慢できることといえば、兄と好きでやっていた格闘技くらいだ。

しかし、仕事に追われていた私は、そんな格闘技ももう全くと言っていいほどやっていない。そんな私の唯一の楽しみといえば、家に帰ってから遊ぶ乙女ゲームだった。

その中でも今ハマっていたタイトルが、『闇に堕ちる君と』――通称“やみきみ”。見た目はキラキラしたファンタジー恋愛ゲームを装っているけれど、実際は「愛が重い」「独占欲が強い」「精神的に追い詰められる」といった要素が盛りだくさんの問題作だ。華やかな魔法学園が舞台なのに、キャラクターたちの愛憎劇は凄惨で、ちょっと油断するとすぐに監禁や殺害といったバッドエンドに直行するダーク路線。私はそんな“危険な香り”がするストーリーに惹かれて、睡眠時間を削って周回プレイしていた。

「…はぁ、ゲームでもリアルでも追い詰められてるのに、私ってばどんだけマゾなんだか」

その夜も、深夜まで“やみきみ”のゲームをやっていた私は、翌朝、ぼんやりした頭のまま会社へ向かう途中で交通事故に遭ってしまった。ブレーキ音もそこそこに、視界が真っ白になる衝撃。まるで激流にさらわれたように意識がどんどん遠のいていくなか、私は心の中で叫んだ。

――私の人生、これで終わりなのか。

そこまで考えたところで、完全に意識は途切れ――


「――う…ううんっ!?」

自分の声で飛び起きる。今の私は確かに息をしていて、痛みも感じる。だけど…視界に映る景色がおかしい。アンティーク調の鏡台や分厚い絨毯、それにふかふかの天蓋付きベッド――「ここ、どこ!?」

さらに追い打ちをかけるように、自分の身体を見下ろした私は愕然とした。華やかなレースの寝巻きに包まれた、どこから見ても華奢な女の子の体。そして鏡に映ったのは……銀髪と赤い瞳の美少女。しかもその顔、見覚えがある。何度も画面越しに見た、“闇に堕ちる君と”に登場する悪役令嬢、エマ・フローリアスそっくりじゃないか!

「え? えぇぇっ……どういうこと!? 私、OLだったはずで……」

半信半疑のまま、目に浮かぶのはゲームの世界観やエマにまつわるストーリーの断片。気づけば頭がズキズキ痛みはじめ、昔の記憶なのか、それともゲームの知識なのか、ぐちゃぐちゃになった映像が雪崩のように押し寄せてくる。

――公爵家の長女、闇の魔力、王太子との婚約、ヒロインいじめからの破滅…。

「あ…あり得ない……わ、私、“やみきみ”のエマに転生しちゃったの……?」

混乱のあまり声が震える。だって、エマと言えば全ルートで凄惨な末路を迎える憎まれ役の悪役令嬢だ。原作ゲームでは庶民ヒロインの恋路を邪魔し、翻弄し、最後には断罪か処刑か。そんな最悪の運命しか用意されていないキャラクターなんて、ごめんだ!

「まさか、ゲームオーバーからスタートするなんて……うそでしょ……!?」

私の頭は一気にパニックへ。でも、こうなった以上は“エマとして”この世界を生きていくしかない。元社畜OLの意地と根性で、何とかして破滅ENDを回避するんだから……!

「落ち着いて、私。やれること、あるよね?」

前世で培った格闘技の腕もある。会社勤めで得た度胸と根回し力だって侮れない。――そう、ただ流されて終わるつもりはない。この世界は予想以上に危険で、愛が重すぎる攻略対象たちが私を狙ってくるかもしれない。

とはいえ、すでに“エマ”の人生は始まっている。気を抜けば即刻破滅。よりにもよってダークな恋愛ゲームの悪役令嬢だなんて、神様のイジワルにもほどがある。でも、やるしかない。私がゲームの攻略対象たちに飲み込まれる前に、運命を切り開いてやる――!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ