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2人は白い結婚

「どうどうっ!」


エリオールは、慌ててスピードを出していた馬を諌める。

今時分、高速ですれ違った旅装の人物は間違いなく自分の妻、ソフィアナだった。外套から覗く輝くはちみつ色の髪も、上気して桃色になっていても分かる白い肌。何より、こちらを捉えた淡い緑色の瞳を、エリオールが間違える筈がない。


そうして、すれ違った瞬間にエリオールは分かっていた。妻はあの新聞……いや、各種新聞に載ったあの忌々しいネタを読んだのだ。確実に。


『ああくそ!!早く追いかけないと!』


やっと落ち着いた馬をくるりと方向転換して、エリオールはソフィアナが曲がって行った街道に向かおうとする。が、後から来た一団に行く手を阻まれた。


「閣下!どちらへ行くのですか!」


「侯爵様、早すぎて危ないですよ〜、しかもなんで戻るんですか?」


「閣下、早く屋敷に戻らないと不味いのでは……」


護衛と侍従に次々と話しかけられて、エリオールはイラついた。今は説明する時間すら惜しい。


「矢継ぎ早に話すな!説明は後だ!俺はソフィアナを追う!ネッドはこのまま屋敷に戻り、俺はソフィアナを追ったと皆に伝えて、休んだらヘンロックの補佐につけ!その他は俺についてこい!」


「え?奥様?!」


指示された侍従のネッドは訳が分からず狼狽えたが、それを無視してエリオールはソフィアナが向かった方向へと走り出した。

ソフィアナの実家は王都より北である。なのに何故彼女は南へと続く道を選んだのだろう?


しかし、ソフィアナの考えなど分かる筈もなく、エリオールは疲れている馬に無理を強いて、街道を駆け抜けた。


ただ分かることは、ソフィアナの実家は馬の産地であり、ソフィアナの馬術は並大抵ではないということだった。

このままでは追いつかないかも知れないし、行き先も分からなくなってしまう。


『何故実家ではない方に向かっているんだ?しかも』


「1人ってどういうことなんだっ!!」


街道は整備されているとはいえ、街を離れたら山や森を通り抜ける。野生動物や物盗りに会う可能性はかなり高い。


「なんでこんなことにっ!!」


エリオールは自身の失態に歯噛みし、馬を走らせた。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「はーびっくりした、危なかった〜」


エリオールと予想外の迎合をしたあと、1時間程馬を走らせたソフィアナは、街道横の森へと分け入り、見つけた川の辺りで休憩していた。


早く先へと進みたいが、馬の体の為には十分な休憩が必要だ。

万が一エリオールがあのまま追いかけてきていたとしても、王都から急いで来たのなら、馬の体力はもう限界だ。あちらも休憩を余儀なくされているだろう。


『まあ、多分一度屋敷に戻っているだろうし』


エリオールのことだ。まずは屋敷に戻り、今頃手紙を読んで騎士数人を送り出していることだろう。

そもそも、ソフィアナは新聞の話だって、言い訳なんかを手紙で送ってくるのではないかと思っていた。

そうして、後日屋敷に戻った際にあれこれ説明するか何かしらするんだろうと。


それなのに、こんなに早くご本人が登場するとは思わなかった。まあ、走っている間に、そう言えば新聞は王都と違って遅く届くんだったと思い出したが。

それでも、本人が馬車でもなく馬を走らせて帰ってくるなんて予想外過ぎる。見栄えのために、馬車が必須な筈なのに。


まあ、


「私、旦那様のことってなーんにも知らないんだけど」


また現実を自身で突きつけて、ソフィアナは抱えていた両膝に顔を埋めた。


思い返すのは3年の夫婦生活。

いや、この過ぎ去った日々は夫婦生活と言えるのだろうか?

単なる雇用主と雇用される側の生活と言った方が納得出来るかも知れない。


何せ、2人の間には何もない。

絆も、理解も、触れ合いも。


結婚生活が一年過ぎた時から、ソフィアナは疑っているのだ。


エリオールは白い結婚で離婚するのを狙っているのては?と。


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