やってくれやがりましたわね
久々に小説欲が出てきましたので、少しお付き合いください。
『やってくれやがりましたわね、旦那様』
丁寧なんだか、荒れているんだか分からないことを考えて、ソフィアナは食い入るように覗き込んでいた新聞を、わなわなと力を込めて握り締める。
その新聞は、主に大衆向けの謂わゆるゴシップ誌ではあるが、今日に限っては数種類の新聞にも載っている話題がでかでかと見出しを張っていたので、信憑性は高い。
実家では新聞なんて手に取ったこともないソフィアナだったが、結婚してからというもの、侯爵夫人として読むように心がけていた。
が、それが今仇となりソフィアナに見たくもない事実を突き付けている。
⌘⌘⌘スクープ!!紡績王ティアード侯爵、愛人と共に高級宝石店デート!!!⌘⌘⌘
大きく印刷された見出しには、仲良く腕を組む男女の写真が。最近出来た携帯式写真機のおかげで、その写真にははっきりとティアード侯爵。つまりソフィアナの夫の顔が写っていたのだ。
通りで新聞を届けてきたメイドのジーナの手が震えていた筈である。こんなもの届けたくはなかったかも知れないが、今日は休刊日ではないため主人に渡さないわけにもいかなかったのだろう。
ソフィアナは見た目は風が吹けば倒れそうな程の深窓の令嬢のような姿をしている。
薄い蜂蜜色のさらさらな細い髪に、淡いグリーンの大きな瞳。真っ白な肌に小さな血色の良い赤い唇。
日に当たっても赤くなるだけで、全く焼けないので、実家にいる時は毎日野山に散策に行ったり、馬で遠乗りしても焼けない肌は、お転婆な娘に手を焼いていた母にとっては心強かったことだろう。
でなければ日焼け対策のために、屋敷から一歩も出してはくれなかっただろうから。それなりの家の令嬢というものは、色白と決まっているのだ。
『……私というものがありながら……』
と、深窓の令嬢顔であるソフィアナは、その小さな唇を歪ませそれに似つかわしくない険しい表情をする。
しかし、ふと自身の結婚生活を思い返して、ソフィアナは表情を解いた。
「まあ、浮気しても仕方ないわね」
そう呟いて納得したように1人で頷く。
ソフィアナは18歳。結婚して3年目になるが、肝心の旦那様とは会った日を数える方が早い程度しかない。
紡績業を営むティアード侯爵家は、兎角忙しい。
侯爵は若くして家督を継ぎ、国内で大人気のティアードシルクの営業に王都と領地を行ったり来たり、また地方にも赴いたりと領内の屋敷にいる時間が短いのだ。
因みに王都から領地まで馬車で片道3日掛かる。1週間の内、王都から帰ってきても1日〜2日ぐらいしか屋敷にいられないので、ある日ソフィアナは言ったのだ。気にせず王都に滞在してお仕事して下さいと。
侯爵的に気を遣っていたのであろうが、どんどん目の下に隈を作る彼を見ていられなかった。し、ソフィアナは「良い侯爵夫人」を演じたかったのだ。何せ右も左も分からない小娘である。型にハマった侯爵夫人を装うだけで大人になった気がしたのだ。
普通、右も左も分からなかったら、旦那様に泣いて縋って寂しいと訴えても良い状況だったかも知れないが、その点はソフィアナは肝が太かったし、頼る程侯爵のことを知っていたわけでもなかったし、とにかく若すぎて何も分かってなかった。まあ、今もまだ小娘ではあるのだが。
旦那様にあまり帰って来なくても良いと伝えてから、ソフィアナは執事や侯爵家の親戚、領地の代官らに教わりながら、なんとか屋敷と領地を見守ってきたつもりだ。
紡績工場もこの3年でもう一棟建設して、忙しさには拍車がかかってはいるが。
が、良妻を演じた結果。新聞で夫の近況を知ることになってしまった。
ソフィアナは思った。
『全てがアホらしい』
お読みいただきありがとうございました。
短く終わる予定です。
よろしくお願いします(´∀`)⭐︎