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別れ

「危ないから、新幹線で帰りなさい。」電話越しで、母は最後にそう言った。

「わかった。着く時間がわかったら、連絡するから。」

画面を閉じ、鼻から息を吸う。吐いているのに、肩が震えている。目を開けても、閉じても、ぼたぼたと流れる。こういう時に、なんて言っていたっけ。前、斎藤さんが知り合いの訃報を聞いたとき、「なんとかがあった」と言っていた。それが、なんだったか思い出せない。古語やことわざを、会話の中でさらりと混ぜ、意味を聞かないと話が前に進まない。それが当たり前だったのに。現実を吸うことも、吐くこともできない。鞄の中の社用携帯がぶるぶると震え、仕事中だったことを思い出した。息を努めて整えてから、社用車を運転して事務所に戻る。車を降り、ロックしたときに思い出した。

「つげど」だ。ことわざなのか、方言なのか調べたことはなかったけれど。確かにそう言っていた。思い出せたことで、少し気持ちが落ち着いた。

 事務所に戻り、「戻りました」という言葉が自然に出た。手を洗ってから、自席で荷物を下ろし、水筒を開ける。朝、氷をいれてきたはずなのに、ものの2時間ほどで溶け切ってしまっていた。ゴクゴクと飲み干すと、同僚が「今日は暑いからね」とわたしを見て笑う。本当に、と返す前に視線はパソコンに戻ってしまっていた。言わなくては。もう一度、深呼吸をしてから席を立った。

「すみません、いま少しお時間よろしいでしょうか。」書類から目線をあげ、上司がこちらを向いた。言わなくては。

「つげどが、ありまして・・・・。」

「え?」

「知り合いが、亡くなりまして、明日から休暇をいただきたいと思います。」

冷静に。言ったはずだった。誰が、と問われたときには、流れてくるものを止めることができなかった。とうとう、来てしまった。斎藤さんがこの世を去ってしまった。

 

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