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死神のオルゴール

作者: 三当香季

「黄昏に染まるその陰で」のおまけ短編です。

 とある街に革製品を扱っているちょっとお洒落な店がある。

人口30万人程の都市の駅前という立地条件のわりには、さほど繁盛している風でもない。しかし、ずいぶん昔からその場所で商いを続けている老舗であった。


 店主の名は、神羅真虎こうらまこと

実は彼、死神だったのです。



 彼が死神の役目を授かってからもう何億年経ったであろうか。

神々たちがこの世界を創って、そこに生物が生まれた。その生物に魂が宿るようになったのは果たしていつからだっただろうか。単細胞生物の時にすでにあったのかもしれないし、多細胞生物に進化した時に宿ったのかもしれない。もしかしたら、脳という物が形成されたときに生まれたのかもしれない。

最初は神々たちの実験のようなものだった。

「こうしたらどうなる?」

といった感じで、ちょっと手を加えては様子を見ていた。

そのうち、生れ出た生命は数を増やし、神々たちはそれを命の循環システムの中に置いた。

何億年もの時が過ぎると、生物の中に知性を持つものが現れ、その中でも人類という生物は、物を使い、物を作る能力を得たばかりでなく、文化、文明をもその手にする生き物となった。

その生き物に興味を持った一部の神たちは、接触し介入した。そのことで少し厄介といえる生物に発展してしまったのである。

そこで神々たちは、命の循環システムに査定する場を設けることにした。

 生物がその一生を終えると、その魂は一旦、ある場所に誘われて、そこで前世の生き方・行い・思想によって転生する先が決められるというものであった。

そこで、魂を誘導する係として、神の下僕が創られることになった。後に、彼らのことを人々は『死神』などと呼ぶようになる。


 神羅真虎は、魂の誘導係を数十億年務めた。

人類が文明を築き、生活を豊かにしていくさまを見ていて、彼はふと思った。

~私もあのように暮らしてみたい~

と。

そこで彼は思い切って上司に願い出てみた。すると、それに対する答えは、

「いいですよ。その代わりあなたのやっていることを引き継いでくれるものを人間の魂の中から見繕ってください。と言っても、あなたと同じ作業量を一人でこなせる人間の魂など存在しませんから、ある程度の人数は必要でしょうね。私たちとしては、魂の誘導に支障が出なければそれで良いわけですから。まあ、そろそろこういったことも起こるだろうと思っていたので何の問題もありません。他の方々にも通知するべき頃合いですね」

 と、いたって情け深いものだった。

「まあ、これまでも堕天したものがいなかったわけではありませんからね。あなたの好きにおやりなさい」

 上司は仏顔でそう言った。(まあ、神様なんだから当たり前なんでしょうけどね)


 そこで彼は、自分の後任となる魂をいくつか見繕って、問題なく機能するのを確認してから下野した。

もちろん、神羅真虎と名乗ったのは、下野して人間社会に入り込んでからの話である。


 人としての生活を始めるうえで彼はまず商売をやってみたいと思った。そこで彼は、魂の抜け殻のその最たるものである革製品の販売を始めた。

革製品の販売店の主として、そこから人間界での生活を楽しむことにした。


 そして彼が人間での生活を始めてから数百年ほどたったある日、上司から連絡があった。

「あなたが担当していた魂の中で妙な動きがみられるのですが、ちょっと確認してくれませんか」

 というものであった。

 妙な動きがみられる魂というのを任せているのは、元は多気武史たけたけしと名乗っていた者だった。

そこで、武史が担当している魂の持ち主たちにオルゴールを持たせることにした。と言っても、「はい、これ持っててください」と手渡すわけにもいかないので、そこは神の使いである能力を使ってごくごく自然に彼らの手に渡るようにした。そして、一度その手に渡ると捨てよう思うことなく、自分の持ち物としてその魂が尽きるまで持ち続けるように定められていた。

そのオルゴールは、武史が近づくと発信機として起動する機能が付いたもので、起動するとその周辺の状況が神羅の元へと送られてくるというシロモノだった。その間、オルゴールは調べを奏で、その調べが彼の元へと送られる信号となっているのである。


 オルゴールを使って得た情報によると、武史は魂の誘導係としての業務はきっちりと問題なくこなしていたのだが、彼は独り言が割と多く、ときには対象に向かって話しかけていることもあった。


~なるほど~


 神羅は武史の元に向かった。


「あ、死神さま、どうかなさいましたか?」

 武史はちょっとぶっきらぼうに話す。まあ、もともと、こいつはそんなヤツである。

「いやね。君に任せている魂のいくつかがちょっと妙だという連絡が入ってね。調べてみたら、あれだ。君ね。けっこうおしゃべりなんだね。君の存在をなんとなく気付いちゃった魂がいるみたいなんだよ」

 神羅がそう言っている最中、武史は、「あー」とか「うー」とか「ほおー」とか言って目を見開いたり、ウンウンとうなずいたりしている。

「まあ、一人で淡々と作業していると飽きてくるというか、なんとなくつぶやいちゃうっていうのは分かりますけどね。

 私たちの中にも、人間の前に姿を現しちゃったり、話しかけたりしたものもいますからね。交わっちゃったりしたのもいましたしね。

 まあ、あの方々は寛容な・・・というか、私たちのやることにあまり口出しはされないんだけど、やっぱりね、好ましくない状況を感じた場合なんかにはお叱りになることもあるわけでね。

 だからね。なるべく我々の存在を人間には知られないように。ってことだね。

 悟りとか解脱とかっていうのも、自分の力で得ないと意味がないものですからね」

「ああ、そうですか。そっか、ブツブツ俺が言ってたの聞こえちゃったってことなんですね。いやあ、さすがに俺も あれ? って思ったことが何回かあったにはあったんで・・・。あれですかねえ?」

 武史は少し焦った表情を浮かべて話を続ける。

「ってことは・・・、俺はお役御免ですかね?もしかして、地獄行き・・・とか?

 あ、でもでも、こう言っちゃあなんですけど、死神様だって・・・ねえ、俺っちに話しかけてきたじゃないですか・・・。

 つーても、俺の場合は・・・やっぱまずかった・・・ですかね?」

 しゅんとする武史。

「まあ、今のところそこまでの話じゃないから。気をつけなさいってことですね。

 私が君に話しかけたのとはまた意味が違うことだからね。その辺もよく考えてくださいね」

「わかりました。重々承知いたしました」

 うなだれる武史の肩に手を掛けながら、

「まあ、そういうことなんで気を付けてくださいね。あと、今の仕事が嫌だったり、やりたくなくなった時にはちゃんと言ってくださいね」

と、 神羅は優しく言葉をかけた。

「え~と・・・。死神の仕事を辞めたとしたら・・・俺っちはどうなるんですかね?」

 そう訊いた武史の表情はかたい。

「通常通りですよ。一つの魂として裁きの地へと行って転生することになりますね。君たちはそもそも私たちのような神仙ではありませんからね。

 でも、この仕事に携わったということは十分評価されると思いますよ。ある意味、解脱にも近い体験ですからね。

 あとは、君の思考が悟りの境地に達しているかどうか・・・ですかね」

 と、神々しい笑みを浮かべて語る神羅。武史は黙って頭をポリポリと掻いている。



 ここは時空の狭間、けっして人は入り込むことができない場所。

そんな場所で交わされている会話にしては緊張感のない気もするが、案外、浮世を離れた存在というものはそんなものなのかもしれない。



 とある街に革製品を扱っているちょっとお洒落な店がある。

その店の主、実は死神だったのです。

 


出来心で書いた短編です。

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