退魔の剣
城沢も流石に空を自在に飛ぶ姿を見て、悪魔の存在を認めた。
「悪魔って本当にいるのね・・・でも、悪魔には見えないわね。悪魔ってなんか気持ち悪くて、足とか手がいっぱいあるやつでしょ? モデル並みに顔が小さくて可愛いし、実は天使なんじゃなの?」
城沢のそれは悪魔というか、最早、邪神のイメージ。
「悪魔への偏見が凄いな。でも、俺もそれは少し思った」
「完全に悪魔差別ね。そもそも、彼氏様も、そこのジャンキーも私のことを忘れていない?」
「忘れると言うと?」
さっきまで悪魔の話をして、忘れていることはない。
「言わなかった? 別に彼氏様に運命的な出会いを感じたわけでもなく、一目惚れしたわけでないってさ。なら、私が冴えない彼氏様の彼女になったと思う?」
「その前に、ジャンキー呼びはやめて、まだ私は薬を使ってないわ。まだ健全よ。綺麗な身体なのよ?」
「その嘘、私にバレないと思っている。笑えるわ。本気で思っているようね。なら、勿体ぶる話でもないし、ちょうど関係者も全員集まったようね?」
「ちょっと待て。関係者って誰だ? 俺も巻き込まれていないだろうな?」
悪魔の指差した方向を2人は向く。すると、ビルへの入り口から何かが現れた。
不自然な黒い霧のようなもので大半を覆われていて、輪郭から詳細は分からない。
でも、それは目を凝らすと人型のようにも見える。
「もしかして、あれが悪魔?」
城沢が尋ねた。違うわと、悪魔は呆れながら訂正した。
「いや、あれらはまだ区分的には人間ね」
その全てを見通したような悪魔。人間組二人は驚いているが、悪魔は知っていたかのように冷静だ。
「あまり聞きたくないけどさ、あれは彼女様が手引きしたのか? 自作自演と言う感じ?」
「私じゃないわ。要するに、そこの女は彼氏様が悪魔と契約してまでも自殺を止めなくても、既に詰んでいたのよ。あ、私は関係ないわよ。悪いのは全部、そこの女だから」
悪魔の言葉に城沢は反応をした。
安斎もずっと気になっていることがあった。
「なるほどね。城沢、一つだけ確認したいのだけどさ。その大量な薬物は何処から手に入れたの? 薬物を使っていないのだとしたら、自分で買うわけないよな? それとも道端に落ちていたのを金になるとがめつく拾ったとかか?」
「置いてあったのを拾ったのよ。ちょっと周りに人がいただけ」
「まさか、これ危ない連中から盗んだのかよ? 正気かよ」
「てへぺろ」
か、可愛いポーズを取ってもな。
「おい、この状況それで許されると思うなよ?」
「心が狭い彼氏様ね。私としてはこの展開は理想的と呼べるくらいに都合が良い」
女子高生の違法薬物問題に、それを追って来た悪魔みたいな正気を垂れ流す人間。警察に相談して、一件落着になってもらえそうにない。
この不気味な連中、警察がどうにかできるとは思えない。
そこでふと、安齋は嫌な予感がした。
「彼女様よ、今更なんだけどさ。何で、ここにいるの?」
悪魔は悪魔的な不気味な笑みを浮かべた。
「やっと重要なことに気がついたようだね」
「俺みたいな馬鹿でも流石に気がつくよ」
「私にも分かるように説明して。。。そんな呑気なことを言っている時間はないわよね」
不気味な連中が囲んでいる。ビルの下にも同じような連中が、ぞろぞろと集まってきている。
「。。。ないだろうな。そら、彼女様。サクッとどうにかして?」
「期待されても困るのよね。でも、今回ばかりは助けてあげる。これを使いなさい」
悪魔はそう言って、腕から一本の剣を取り出した。
「え? 悪魔の身体ってどうなっているの?」
「魔術よ。身体の中にあるわけではないわ。男でしょ? この程度の危機くら自分の力でどうにかしなさい」
「いや、江戸時代じゃないんだよ。ナイフの心得ならともかく、こんな日本刀の使い方なんて知らないよ。それに、人間相手なら、斬るの駄目だろ。こんなん使うとどこ斬っても、人殺しになるだろ」
「大丈夫。私は薬物乱用で暴れて、剣を握ったと法廷で証言をするわ」
「何で、城沢の罪まで加算して、やばい罪になって捕まったんだよ」
「彼氏様は残念なお知らせ。その刀は悪魔しか斬れない退魔の剣。だから、人は殺せないわ」
「俺がいつ人を殺したいって話をしたよ。人を殺したいと考えるほど、人に興味ないわ。でも、それならば思いっきりやれそうだな」
安斎は剣を強く握った。