悪魔と薬
安齋は城沢のスマートフォンのに届いたメールに驚愕を隠せなかった。例の遺書は飛び降りようとした直前に、確か城沢がこのスマートフォンで書き、送信したメールらしい。ただ、送信先のアドレスは既になく、エラーメールが帰って来ていた。
つまり、あのガラケーはか未来のメールを受信したのだ。
しかし、原理は相変わらず何も分からない。
「つまり、これは未来からのメールを受信するガラケーなんだ。凄いだろ?」
「目の前に羽の生えた彼女はあまり凄くないのね?」
悪魔な彼女は呆れながら言う。彼女にとっては、未来からのメールはそこまで不思議ではないらしい。それよりも、悪魔に驚かない安斎に少し驚いているようだ。
「いや、俺って技術者だからさ。悪魔とかファンタジーすぎる存在よりも、科学に近いこっちの方がそそられるのよね」
「ファンタジーすぎるって、現実として悪魔の私は目の前にいるのだけどね。でも、彼氏様のことはなんとなくは理解しわ。その上で、私的にはこっちの方がそそられるかな」
悪魔は城沢の鞄を指差した。スクールバックから大きめの茶色い封筒がはみ出している。
「私って、人間よりも嗅覚が優れているのよね。だから、中身を確認しなくても分かるけどさ。未来からのメールよりと、まずは見てみたら?」
「未来からのメールなんてロマンだろ? てか、散々、スマートフォンを覗いた時は文句言っていたのは彼女様だったよな。これもプライバシーの侵害だろ」
「別に彼女個人のプライバシーならそうだけど今回は事情が違うわ・・・愚かな彼氏様ね」
はいはいと、半ば呆れながら、安齋は茶色い封筒の中身を確認する。
封筒の中には個別に舗装された大量の錠剤タイプの白い薬。
「嘘だろ? いや、これは夢か」
安斎はわざとらしく目を擦っても、変わらない。
「だから、そこの女が自殺しようとしたのではなくて?」
「いや・・・いや、それでもさ。これってあれだろ? 名前は忘れたけど、薬物禁止教室的なやつで教科書に乗っているような有名なやつだろ? 逆説的に、有名すぎるから逆にそれは存在していない説を俺は支持するね。それにさ。美人薄命って言葉があるだろ? それだよ。実は大病を患っていて、このぐらいの薬がないと生きていけないんだ」
「あら、その理屈で言うと300年は生きている私はかなりブサイクであると言うこと?」
「これは人間に対する言葉だから。悪魔が間に受けるなよ。誰も300年も姿を変えずに存在する種族なんて認識してないよ」
「冗談。言ってみただけよ。私は世界で一番可愛いわ。ちゃんと自覚をしているわ」
「あっそ」
話しながらも封筒の中身を見る。
直感で、これは普通に薬ではない気がする。やばめの薬物なのかもしれない。だけど、同時に現実を認めなくない自分もいた。危険な香りがする。
「それを見てしまったのね」
「え?」
意識が戻った城沢が言葉を発した。やばい薬を見られて、驚いた感じではない。堂々とした態度をとっている。どちらかと言えば、見たのを見られた安斎の方が気まずくい
「これはあれだろ? 実は身体が・・・」
「全て、違法薬物よ」
「いや、薄々どころか分かっていたけどさ。ちゃんと最後まで言わせろよ」
「でも、それを見たと言うことは共犯ね」
「共犯は言いすぎだろ? 俺は見ただけだから普通に裏切るよ。これを持って、警察に行く。俺は例え、城沢が薬物乱用で捕まったとしても友人でいるからさ」
「いやいや、なんで私が依存症だと思われているの? 私も被害者の一人よ。事件に巻き込まれただけよ。だから・・・えっと、君と同じ」
城沢は完全に名前を忘れていた。
少しイラっとしながら、安斎は再度、名乗った。
「安斎な。さっき自己紹介をしただろ。でも、それなら何で自殺なんかしようとしたんだよ? 素直に警察に助けを求めれば良かっただろ?」
「警察って何だか響きが怖いじゃない。私、苦手なのよね」
今まで口を閉ざしていた悪魔が口を開いた。
「彼氏様も案外、馬鹿なのね。何で言葉を文字通りに受け止めているのよ。」
「え、安斎はこんなに可愛い彼女がいたの?」
「いや、注目するところそこ?」
彼女として、紹介された悪魔はまだ普通に黒い羽がある。当人も自分が悪魔であることを隠そうとはしていない。
「こんな冴えない男に彼女なんてありえないわ」
「俺の彼女さん、翼とか生えていたりするんだけど」
「あ、確かに。彼女にコスプレさせるなんて変態ね」
「・・・俺の趣味じゃないよ。俺はあくまでもって、クラスメイトに性癖を堂々と暴露するわけないだろ」
偏見が凄い。と言うか、このクオリティーは現代のコスプレ技術では無理だろう。実際に飛べるのだ。
「・・・人間って、私の思っていた以上に悪魔に対して、理解があるのね。もっと驚かれると思っていたわ」
「彼女さん、面白い冗談を言うのね。もしかして、高校生にもなって中二病なの? 可愛いからって、不思議ちゃんキャラが許されるのは高校一年生までよ」
「おい、彼女さん。説明するの面倒臭いから飛んでみてくれない」
「私もそう思ったわ。本当に思い込みが強いタイプは面倒だわ」
悪魔はそう言って、軽々と飛んで見せた。
「ほら、見てみろ」
安斎が指をさす。ただの手品だと、否定してされるかと懸念したが、目の前のありえない状況の前に、流石に城沢も信じたようだ。
「え、噓でしょ? ありえないわ」
驚きのあまり固まってしまっている。